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白歴史


 転移門をくぐった先は、大きな地下洞窟。


 光石が壁や床、天井に配置されており、暗さはない。


 逆に明る過ぎるぐらいだ。


 それだけに、地下洞窟の大きさが際立つ。


 高さは五十メートルぐらい。


 左右の幅は……狭いところでも八百メートルぐらいありそうだ。


 奥行はわからない。


 この大きな地下洞窟が狭いとばかりに洋風の豪華な屋敷が建っているから。


 驚いた。


 村にある俺の屋敷よりも大きい。


 屋敷を囲う塀にある門の前に立つと、端まで見渡せない。


 しかし、少々不自然な屋敷だなと思うのは、窓が少ないこと。


 それに、よく見れば建て増しを繰り返しているのがわかる。


 それでも、豪華な雰囲気は損なわれていない。


 金とか銀の細工があらゆるところにあるからかな。


 あれだけ使えば下品な感じになりそうだけど、そうはなっていないし……


 ちょっと気圧けおされる。


 始祖さん、なにか思い出さない?


 いや、謝る必要はないから。


 始祖さんは、ダンジョンに挑戦しているときもずっと思い出そうと頑張っていた。


 魔法で記憶を消していると言っても、頭の中を真っ白にしているわけではない。


 不要な記憶を封印して、思い出せないようにしているだけなので、強烈なきっかけがあれば思い出せるそうだ。


 頑張ってほしいが、あまり無理はしないように。


 ルーも心配しているから。



 さて、門の前で待機していてもなにも起こらなかったので、門をくぐるしかない。


 幸いにも鍵はかかっていない。


 お邪魔しますと挨拶をして、敷地内に侵入。


 そこそこの大きさの庭を見ながら、屋敷の扉の前に到着。


 ルーがノッカーを持って三回叩く。


 ……


 ………………


 反応がない。


 留守だろうか?


 それとも、誰も住んでいないとか?


 海の種族が海岸のダンジョンの管理を継承していたのも、三千年ぐらい前だと聞いているし……


 なかで死んでいるとかだと嫌だなぁ。


 子供たちを連れてこなくて正解だったかな。


 ルーが声をかける。


「すみません。

 ダンジョンの試練を潜り抜けた者をお連れしました」


 ……


 反応がないので、ルーが扉を開けた。


 こっちも鍵がかかっていないようだ。


 クロの子供とザブトンの子供たちが先行して中に入った。


 クロの子供の吠え方から、問題はないようだ。


 屋敷の中は……大きな玄関ホール。


 下にはフカフカの絨毯じゅうたんかれている。


 魔法の灯りがあるが……クロの子供たちが入ったらいたのか。


 この魔法の灯りの点き方から、進路が定められているのがわかる。


 わかるのに、先頭のルーはどうして別の場所に行こうとするのかな?


「こんなの罠に決まっているでしょ」


 海岸のダンジョンでうたぐり深くなっているようだ。


 わからなくもないが、一応は他人の屋敷に無断で侵入している身だ。


 進路には従おう。


 俺の説得で、魔法の灯りが示す進路で移動。


 建て増しのせいか、まっすぐの通路があまりない。


 右へ左へと曲がらされるので、方向感覚が狂う。


 窓が少ないのは、こっちの方向感覚を狂わせるためかな?


 ルーが警戒したように、やはり罠だったか?


 いま、魔法の灯りが消えたら、玄関に戻る自信がない。


 少し不安になったところで、ザブトンの子供が玄関から糸を伸ばしていると教えてくれた。


 さすがだ。


 ああ、クロの子供たちも匂いで戻れるのね。


 よしよし。


 俺の不安は無用だったようで、魔法の灯りが消えることもなく、豪華で大きな扉の前に到着した。


 ここに誰かいるのかな?


 いてほしいな。


 もしくは不在でお願いします。


 死体は遠慮したい。


 ルーが三回ノックして、返事を待ったあと……


 扉を少し開けてクロの子供たちとザブトンの子供たちが侵入。


 ……


 クロの子供の一頭が戻ってきたと思ったら、困った顔で俺を見た。


 なにがあったのだろう?




 部屋の中は……はっきり言って、倉庫を思わせる煩雑はんざつさ。


 かなり大きい部屋なのに、ところ狭しと本が置かれている。


 その本の奥にわずかに本棚がみえることから、この部屋の持ち主は本を集めるのが趣味なのかな?


 それにしては管理が適当だな。


 一回読めば捨てるタイプの人なのだろうか?


 戻ってきたクロの子供の誘導に従って部屋の奥に進むと……書斎らしき机があり、そこでなにかを書いている女性がいた。


 三十代ぐらいの美人さん……かな?


 疑問形なのは、彼女はその……ラフな格好というか、寝間着ねまきっぽいシンプルな服の上にドテラのようなものを羽織り、長い髪を乱暴にタオルで巻いてまとめている。


 完全にオフ姿。


 その彼女は執筆に夢中なのか、周囲でクロの子供たちが吠えているのを完全に無視している。


 始祖さん、彼女を知ってる?


「いや、全然」


 駄目か。


 とりあえず、彼女に話を聞きたいのだが……


 どうしよう?


 ルーが声をかけても駄目だった。


 肩を揺すろうと思ったが、なにか結界があるのか触れなかった。


 始祖さんの声を大きくする魔法で呼びかけても駄目だった。


 まあ、クロの子供たちが吠えても駄目だったからなぁ。


 困った。


 困っていると、部屋の脇にある別の扉が開いた。


 ん?


 誰だと警戒したところで、入ってきたのは……小柄な女性?


 服装からメイド?


 彼女は俺たちに気づかず、なにやら呟きながら部屋に数歩……俺たちに気づいて硬直した。


 えーっと……


 メイドは慌てて書斎にいる女性のもとに行き、サイドボードの上にあったコップの中身を女性の頭からかけた。


「あつっ、あつっ、あつぅぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっ!」


 コップの中は熱いお茶だったらしく、女性は椅子から転げてジタバタ。


 頭に巻いていたタオルにお茶が染みて、なかなか熱さから抜け出せないようだ。


 ようやくタオルをほどくと、起き上がってメイドの胸倉を掴んだ。


「あんた、いいかげんその方法はやめろって何度言わせるのよ!

 いい加減にしないとぶっ殺すわよ!」


「すみません。

 ですが、その……お客人のようで……」


「お客人?」


 女性はやっと俺たちに気づいたようだ。


 そして、自分の服装にも。


 愛想笑いをして部屋から出る女性。


 メイドが俺たちにもう少しだけ待ってほしいと言って、女性を追いかけて部屋から出ていった。




「よもやあの試練を乗り越え、ここにまでやってくる者がいようとはな!

 褒めてつかわす!」


 黒いドレスの、さきほどとはまるっきり違う美人がいた。


 三十代ぐらいの美人さんは、いまは二十代前半の美人さんになっている。


 女性は化けるってほんとうだなぁ。


 あ、髪の毛に癖が残ってるから、完璧には化けられてないようだ。


 メイドさんが頑張って後ろからブラシを当てている。


 とりあえず……


 誰か話を聞いてほしいと思ったが、どうやらここは俺の出番らしい。


 では、遠慮なく。


「俺たちは、大樹の村からやってきた。

 俺は村長のヒラク。

 ここにいるのは……村の住人だ」


 厳密には始祖さんは違うが、細かいことは後回し。


「未踏破のダンジョンがあると聞いて挑戦しただけで、貴女が誰かも知らない。

 あのダンジョンが存在する理由や貴女のことを教えてもらえないだろうか?」


「ふむ。

 なるほど。

 たしかにあの門が使われるのはえーっと……三千年ぐらい前かな?」


 女性が後ろのメイドに確認するが、メイドは知らないと首を横に振る。


「私がお仕えしたのは、二千年前ですので」


 スケールの大きな話だ。


「そうだったか。

 では名乗ろう。

 私の名はヴェルサ。

 魔神(ライギエル)様に仕えし三十七人の軍団長レガトゥス・レギオニスの一人。

 悪魔族のヴェルサ=ミラ=トランシルヴァー。

 そこにいるルマニの妻だ」


 そこにいるルマニ?


 誰?


 ヴェルサと名乗った女性の視線は……始祖さん?


 そういえば、ガーゴイルの像の土台にあったサイン。


 ルマニ=ブラン=トランシルヴァー!


 始祖さんのたくさんある名前の一つ!


 え?


 奥さんいたの?


 俺たちは驚いた顔で始祖さんをみるが、始祖さんは首をひねった。


「覚えていない」


「だと思ったわ!!!」


 ヴェルサの高速ドロップキックが、始祖さんの顔面に直撃した。


 ドレスのすそまくれ過ぎないようにする、メイドのガードは見事だった。





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― 新着の感想 ―
[一言] >なんでもいにしえの魔法の神様の名前らしい。 362話 ゴロック族と猫の名前
[気になる点] >魔神(ライギエル)様に仕えし三十七人の軍団長の一人。 ライギエルの名前って、村長による後付けじゃないの? 本人が元は名のない神だったって回想してなかった? なので、ここはライギエルの…
[気になる点] 顔面に高速ドロップキックって凄い跳躍力(笑) これも悪魔族の身体能力だからこそなせる技かな?
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