表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
616/978

海の家

本日、二回目の更新になります。


 海の種族のアドバイスにより、小屋は岩場に建てられている。


 最初に予定していた砂浜だと、半年に一回ぐらいの大潮で水没する可能性があるそうだ。


 小屋の近くには川が流れており、この川の少し上流に海岸のダンジョンのある洞窟があるとのこと。


 ここなら休憩場所を兼ねた拠点として使えるだろう。


 俺は海の種族から洞窟に関する説明をしっかり聞いていたが、ハイエルフ、山エルフたちは聞いていなかった。


「湿気対策に高床式にするとして……虫対策はどうします?

 ネズミ返しだと、侵入してきますね」


「岩場の虫は、逆さまでもへばりつくからねー」


「足の引っかかりが強いのよね」


「そこでこの構造のネズミ返しです」


「コップを逆にした形?」


「岩場の虫は後進バックができないので、進行方向を向く必要があります。

 つまり、このコップに沿って侵入しようとすると、岩場の虫は頭を下にして進むのですが……」


「下を向いただけじゃ落ちないのではないか?」


「はい、落ちません。

 ですが、下を向いて進むとなると足の引っかかりが自重によって外れやすくなります。

 そこでこのコップのふちを触ってみてください」


「……滑りやすくしているのか」


「はい。

 特別な海藻かいそうしぼり汁です。

 それがられた縁に足をかけた岩場の虫は、落ちるしかありません」


「なるほど。

 後進ができないから、そうなるのか」


「ただ、コップが浅すぎると、気合で乗り越える岩場の虫もいるので、注意してください。

 一つの柱に複数つけるとさらに防げます」


 岩場の虫に詳しい海の種族から、建物の構造に関してアドバイスを受けていた。


 研究熱心なのはいいが、こっちの話も聞いておいてほしい。


 俺だけだと、色々と不安だぞ。


 あと、ザブトンの子供たちが、話題の逆さまコップ型のネズミ返しを軽々と越えて、糸を使うまでもないと俺にアピールしてきたので褒めておいた。


 すごいぞー。




 海の種族たちが集団気絶した原因はわかっていない。


 岸から強烈な殺気を浴びせられたようだとか言っていたが……強い魔物や魔獣はいないという話じゃなかったか?


 周辺を見回っていたガルフ、ダガたちも、強い魔物や魔獣と遭遇しなかったと言っている。


 となれば、やはり……


「雷の魔法を使った者、怒らないから正直に名乗り出なさい」


 ……


 誰も名乗りでない。


 黙っているとは思わないので、誰も雷の魔法を使っていないのだろう。


 クロの子供たち、罪を被ろうとか考えないように。


 そういった嘘をかれて俺は嬉しくないぞ。


 正直が一番。


 ん?


 ザブトンの子供たちが、足をあげてる。


 どうした?


 雷の魔法は使っていないけど、海の種族たちが気絶したのは自分たちの所為せい


 怖がらせてしまった?


 なにを馬鹿な。


 こんなにかわいいお前たちを見て気絶するわけがない。


 第一、それなら巨大なカニも気絶していないと変だろう?


 巨大なカニも気絶したけど、すぐに目を覚ました?


 そうか……


 そこまで言うなら、お前たちの所為ということで納得しよう。


 次からは怖がらせないように。


 ……種族特性的なものだから、どうしようもない?


 そうだとしても、怖がらせないという姿勢を忘れてはいけない。


 そうだ。


 今は無理でも、将来的に可能かもしれないじゃないか。


 わかったな。


 よし、解散。


 ……


 今の話が本当だとすると、村に来た直後に気絶していた者が何人かいるが、ひょっとしてあれも……


 とりあえず、気絶した海の種族たちには俺から謝っておこう。




 小屋が完成。


 屋根がある場所は落ち着く。


 夏の暑い時期のことを考え、壁は取り外せる仕掛け。


 高床式だし、まるで海の家だな。


 台所、トイレ、シャワーも完備しているので快適そうだ。


 風呂がないのは残念だが……


 巨大なカニを茹でるために掘った穴を利用するのはどうだろう?


 あの穴は陸に上がれない海の種族たちの待機場所にする予定?


 あとで海まで水路を掘る必要があると。


 それはかまわないが……


 つまり、風呂のためには新しい穴を掘る必要があるということか。


 頑張ろう。


 ところで、陸に上がれない海の種族たちの待機場所というのは、何を待つ場所なんだ?


 ここで商売を始める気はないぞ。


 いや、たしかに台所設備は充実しているが……


「この小屋の維持は我々にお任せください」


 海の種族たちが凛々しい顔をして言っているが駄目だぞ。


 料理人の用意ができない。


 ……その点は問題ない?


 海の種族の何人かが、料理できる?


 シャシャートの街で勉強した?


 マルーラの海辺の屋台の手伝いをした経験もある。


 海水を詰めた樽に入って、五村ごのむらにラーメンの勉強をしに行ったこともある?


 それはすごいが、無茶をするんじゃない。


 それで……あー、なるほど。


 料理の腕に自信がついたので、そろそろどこかで発揮したいと。


 ただ、種族的に長い時間、海から離れて活動するのは厳しいから、こういった海辺の店がありがたいのか……


 ふむ。


 料理人を自前で用意できるなら、話は変わる。


 こちらは食材をおろすだけなのだから、それほど手間ではない。


 場所が場所だが、ゴロウン商会に頼めば定期的に運んでくれるだろう。


 となれば次に考えるのは客だが……


 ここは街から離れすぎていないか?


 海の種族たちをメインにする?


 それなら……大丈夫か。


 俺のほうは問題はない。


 慌てるな。


 商売をすることに関して、魔王の許可をもらわないといけない。


 事前に、拠点を建てるかもしれないとは伝えているが、商売するとは伝えていないからな。


 必要ないかもしれないが、報告連絡相談ほうれんそうは大事なんだ。


 俺がそう言ったら、始祖さんが魔王を連れてきた。


「商売がしたいという心意気は見事。

 しかし、その心意気に腕はついてきているのかな?」


「たしかに俺の腕だと店を持つのはまだ早いかもしれない。

 でも、俺は料理でみんなを喜ばせたいんだ!」


「ふっ。

 ならば我を喜ばせてみよ」


 魔王が美食家みたいなことを言い出した。


 食材は持ち込んでいるから問題ないけど……



 昼食はカニ料理だったが、少し早い夕食はカレーとラーメンになった。


「このカレー。

 村やマルーラで食べているカレーより何段か落ちる味ではあるが……なぜか、これが正解という気がする」


 海辺で食べるカレーは、格別だからな。


 ただ、海辺なんだからもう少し海の食材を使おうよ。


 カニとかエビとか。


 いや、なんでもありません。


「このラーメンも、村で出される味とは比べものにならないぐらい落ちる味なのに……美味く感じる」


 海辺で食べるラーメンも、また格別だからな。


 具がしょぼいのが、またいい。


 ……


 これはこれで悪くないけど、海の食材を使おうよ。


 使っちゃ駄目とかの縛り(ルール)はないぞ。


 いえ、なんでもありません。


「見事!

 商売の許可を出す!」


 魔王の許可が出たので、ここで商売することが決まった。


 よかったな。


 頑張れよ。


 え?


 いや、店長はそっちだぞ。


 俺に押しつけようとしないように。


 小屋の代金が支払えない?


 いらない、いらない。


 上納も。


 ははは、割合が気に入らないとかじゃないぞ。


 俺に支払うのは食材の仕入れ代だけでかまわない。


 その支払いも海産物でいいぞ。


 昼に獲ってくれた小さいほうのカニが理想。


 逆コップ型のネズミ返しに使っている特殊な海藻の搾り汁でもいい。


 ハイエルフと山エルフたちが興味を持っていたからな。


 ああ、無理のない範囲で。


 季節によって獲れる種類が違うのは当然だ。


 ただ、乱獲は駄目だぞ。


 それと、ないとは思うけど、魔王からの立ち退き要請があったときは素直に立ち退いてほしい。


 ここは魔王領だからな。


 そのときは、別の場所に小屋を建てる手伝いをするよ。




 小屋で商売をすることは決まったが、まだここはダンジョン探索の拠点だ。


 はやる気持ちはわかるが、もう少しだけ我慢してくれ。


 食材を輸送する必要もあるしな。


 しかし、ルーやティア、あと魔王が手配した冒険者たちはまだだろうか?


 遅れるなら遅れるで連絡がほしいのだが……


 ちなみに、ルーとティアは巨大なカニや海の種族が来る前に所用ができたと言って、飛んで行ったそうだ。


 所用ってなんだろう?


 そんなことを考えていると、小屋の外からクロの子供が吠える声が聞こえた。


 誰かが来たようだ。


 しかし、外を見ても誰もいない。


 ん?


 あ、いた。


 ティアのゴーレムだ。


 背が低いから、気づかなかった。


 そのゴーレムが背負っているのは冒険者風の男。


 怪我はしていないが、気絶しているようだ。


 誰だろ?


「“ミアガルドの斧”のコークス?」


 ゴールたちの知り合いの冒険者だった。





前話、ズワイとタラバを間違えたことを反省しつつ、早めに更新。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ダンジョンという名の地獄へようこそ
というか今まで10数年、誰もスタンバッシュについて触れてこなかったのか、そもそもラージャンみたいに『見たら死ぬからなんの情報も残ってない』なのか……
[一言] 搾り汁は機械部品の潤滑剤にできるかな?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ