修行する
俺の名はヒラク。
大樹の村で村長をやっている。
最近、色々と思うところがあったので、心を鍛える修行をしようと思う。
…………
修行。
よくわからないけど、滝に打たれるとかかな?
とりあえず、川に向かうことにした。
うん、滝がある。
すごい勢いだ。
そして、流れる水にそこそこ大きな氷が混じっている。
凍った氷柱とかが落水したのだろう。
滝の近くでは、その氷が岩などに叩きつけられ、パキンパキンと音を立てている。
冬だからなぁ。
…………
危険なので撤退。
寒いし。
あ、こら、護衛をしてくれているクロの子供たち、滝に突っ込むんじゃない。
撤退、撤退だから。
お前たちが行くと、俺も行く流れになるから!
滝の中で俺を待つんじゃない!
俺と遊ぶことが目的になって、護衛を忘れているぞ!
くしゃみをしなくて済むのは、【健康な肉体】のお陰だろう。
でも、寒いものは寒い。
改めて修行を考える。
……
冬の川は冷たいからもう近づかない。
となれば……
やってきました温泉地。
もちろん、温泉に入るために来たんじゃないぞ。
修行のためだ。
温泉地に滝はないが、ないなら作ればいいだけだ。
それぐらいの作業は俺だけでもできる。
おっと、クロの子供たちは温泉に入って温まっているように。
お前たちは俺と違って風邪をひく心配があるからな。
温まっていてくれ。
ここでの護衛は、死霊騎士たちが代わってくれるそうだ。
死霊騎士たちが、まかせろとばかりに踊っている。
うん、ちょっと不安。
しかし、温泉地にはライオン一家もいるし、ヨルが武器を試射しまくって魔物や魔獣が近寄らなくなったという報告も受けている。
死霊騎士たちの護衛でも、大丈夫だろう。
俺は持ち込んだ竹を割り、水路を作っていく。
もともと源泉は高所にあるから、そんなに難しい作業はない。
崖っぽい場所を選び、あっという間にできた。
……
滝と呼ぶには、ちょっと水量が少ない。
ここで大量に使うと、ほかの温泉の水位が下がってしまうから仕方がない。
まあ、なんだ。
滝に打たれるのが大事なのであって、水量は気にしなくていいだろう。
正直、滝に打たれるのがどういった修行かもわかってないし。
それよりも問題は、三メートルぐらいの高い場所から、放物線を描いて温水が撒かれている状態。
まるでシャワーだ。
これでは滝に打たれる修行にならないのではないだろうか?
そうか、温水を放り投げずに真下に落ちるように誘導すれば……
よし、いい感じになった。
これなら滝の代わりになるに違いない。
さっそく、やってみた。
……
これ、ただの打たせ湯だな。
わかってる。
作ってる最中に気づいていたから。
ただ、気づかないふりをしていただけで……
これか!
これが駄目なのだ!
この流れに逆らわない姿勢。
これがよくない!
断る勇気!
NOと言える覚悟!
ときには撤退する判断も持たなければ!
俺は一つ、学んだ!
……
打たせ湯でも修行の効果があるんだな。
もうちょっと打たれていこう。
肩に当てると気持ちいいし。
死霊騎士たちも興味があるか?
よし、順番だぞ。
後日。
……
「俺に持ち込まれる案件、断れないものばかりなのは気のせいなのかな?」
俺は文官娘衆に確認する。
「いえ、気のせいではありませんよ。
断れる案件なら、ティアさまやヨウコさまが村長に持ち込む前に差し戻していますから」
「そうなのか?」
「はい。
できるだけ村長の手を煩わせないようにとのルーさまからの指示です」
「となると……俺の手元に来る案件というのは」
「私たちの判断では差し戻せない重要且つ、断れない系の案件です」
「なるほど」
……
まあ、いいさ。
今日も打たせ湯で修行することにしよう。
少し短いですが。