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クロトユキ・ゼンザイ


 五村ごのむらで、善哉ぜんざいを専門に出す屋台ができた。


 警備隊からの要望を聞いた“クロトユキ”の店長代理が俺に頼み、俺が山エルフたちに頼んで作ってもらった。


 屋台のスタッフは“クロトユキ”から募った希望者で揃えた。


 なので、善哉を専門に出す屋台は“クロトユキ”の支店扱い。


 店名は“クロトユキ・ゼンザイ”になる。


 ネーミングセンスに関してはなにも言わないように。


 この屋台。


 夜の見回りや見張りで体の冷えた警備隊の、温かい甘味がほしいという要望に応えるのが目的だ。


 なので基本的に活動は深夜。


 出店場所は、警備隊関係の施設付近になる。


 屋台形式にしたのは五村の各地にある警備隊関係の施設を回るため。


 店舗を作ったり借りたりする形式だと、近い遠いがでるからな。


 メニューは善哉のみで、サイズの調整はできないけれど、モチは追加できる。


 仕込んでいる善哉かモチが切れたら、撤収というスタイルでスタートしたみたいだ。


 ……


 夜中、屋台を求めて徘徊はいかいする住人が続出し、ヨウコから俺に苦情が届けられた。


 甘味を求め、まるでアンデッドのようにウロウロして治安維持に問題が出ていると。


 冬の寒い夜に頑張っている警備隊のためにと思った屋台が、警備隊を忙しくしているのでは本末転倒。


 すまない。


 屋台は終了ということで……


 そう決断しようとした俺に、待ったをかけたのはヨウコだった。


「屋台を出すなと言っているのではない。

 住人が徘徊せぬよう、対策をしてもらえればいいのだ」


 なるほど。



 なぜ徘徊するのか?


 屋台がどこにあるかわからないから。


 なら、対策は簡単だ。


 屋台の居場所を明確に告知すればいい。


 告知方法は……


 チラシが一番だと思うが、字が読めない人も多い。


 字を使わず、大人数に場所を教えるにはどうすればいいのか?


 ……


 昼間、人の声で告知するしかないな。


 これは人を雇って、行おう。


 あと、品切れで撤収した場合も、出店場所に品切れ看板を残してその旨を告知するようにする。


 これで大丈夫……


 告知すれば、客が増える可能性がある。


 仕込みの量を増やすように、“クロトユキ・ゼンザイ”のスタッフに伝えよう。


 これでどうだろうか。



 問題は解決したようだ。


 よかった。


“クロトユキ・ゼンザイ”の売り上げも良く、スタッフたちには多少上乗せした報酬を出した。


 ただ、この屋台は冬だけになるだろうからと注意しようとしたが、それはスタッフたちのほうが理解していた。


 だからではないだろうが、スタッフたちから教えてもらった。


 警備隊だけでなく、夜中に働いている人はそれなりにいることを。


 そして、そういった人たちは、甘味だけでなくちゃんとした食事もほしいと思っていると。


 なるほど、ちゃんとした食事の屋台かぁ。


 スタッフたちは甘味にこだわらず、手伝いますと言ってくれている。


 まあ、別の屋台も考えておこう。





 山エルフを探して工房に行ったら、俺を出迎えてくれたのは三つの機械。


 一つは裁断機だとわかる。


 小さめの木を細かくする機械だな。


 もう一つは……撹拌かくはん機か。


 なにかを混ぜるのだろう。


 最後がわからない。


 奇妙な動きだ。


 しかし、どこかで見た動きだ。


 どこだったか……


 ……


 一村いちのむらだ!


 あれは紙をく動き!


 となると、これらは……


「紙作りの機械です」


 山エルフの一人が教えてくれた。


 なんでも、一村の紙作りを見ていて、機械仕掛けでできるのではないだろうかと思ったそうだ。


 そして、思えば実行してみるのが山エルフ。


 うーむ。


 紙作りの機械化はまだまだ先だと思っていたが……


 既存の羊皮紙業界にダメージを与えることにならないか?


 いや、機械化は悪いことじゃない。


 作業効率が高くなるしな。


 人手も時間の短縮にもなる。


 要はやりすぎなければいいのだ。


「この機械たちを、何台か作る予定は?」


「ありません。

 作業の合間の気分転換で作ったもので」


「そうか。

 では、ヨウコに見つかる前に隠すように」


「わかりましたが……その、村長の後ろにヨウコさまがいますよ」


「え?」


「村長、我に隠し事とは悲しいぞ」


「えーっと……」


 ……


 ヨウコから発注があった。


 やり過ぎないように。


「やり過ぎもなにも、スライダー式硬貨計算機の生産で手がいっぱいなので、これらの機械の生産はそうそう進みませんよー」


 山エルフたちがブレーキになってくれそうだ。


 頼んだぞ。


 そして、五村の新しい屋台は俺が作るしかないようだ。


「それは別腹なので、遠慮なく注文してください。

 同じ物を作るより、新しい物。

 そう、新しい物なら全然いいのです!」


 ……


 気持ちはわかる。




 山エルフの作業を手伝ったあと、リビングに戻ると魔王たちがいた。


 魔王、ビーゼル、グラッツ、ランダン、ホウの勢ぞろいだな。


 そこにティゼルとマルビットが加わり、なにやら会議っぽいことをしている。


 ……


 議題は短距離転移門の話らしい。


 冒険者ギルドに根回しが足りなかった件や、ダルフォン商会、ゴロウン商会からの援助に対する見返りの相談をしている。


 それはわかるが、どうしてマルビットが大樹の村の利益保護を主張しているのだろう?


 ティゼルは商会関係の利益保護を主張しているな。


 あ、いや、つっこまない。


 下手に首をつっこむと、会議に参加させられるかもしれないからな。


 ここは黙って去るのみ。


 ん?


 去ろうとした俺の前に、休暇を終えてシャシャートの街に戻っていたはずのミヨがいた。


「久しぶりだな。

 どうしたんだ?」


「呼ばれたのです。

 あちらの会議に参加するために」


 そう言うミヨの腕には、何枚もの羊皮紙が丸められ抱えられていた。


 サイズから地図かな。


 ああ、道中の村や街の周辺地図ね。


「村長は参加されないので?

 ルーさまやヨウコさまも参加されるはずですよ」


「俺は遠慮しておく……というか、あれは本会議なのか?

 会議前の調整ではなく」


「そのようですよ。

 私は、計画修正の最終決定をすると言われて呼ばれましたから」


 そうか。


 まあ、正直なことを言えば、短距離転移門による道はあれば便利ではあるが、魔王国の話だ。


 俺が積極的に口を出すような話ではない。


 頼まれれば協力する、の立場だ。


 のめりこみ過ぎないように注意しよう。


「すでに手遅れだと思いますが……あとで報告に行きます」


 ミヨの言葉を聞きつつ、俺はリビングから立ち去った。



 あれ?


 どうして俺に報告に来るんだ?




 夕食後。


 俺に報告に来るの、魔王なんだ。







山エルフ「同じジグソーパズルをするより、違う絵のジグソーパズルがしたいだけです」



ランダン  四天王の筆頭で内政担当。

ホウ    四天王の一人で財務担当。シールの妻の一人。

マルビット 天使族の長。

ミヨ    幼女メイド。シャシャートの街に派遣されているマーキュリー種。太陽城こと四村出身。

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― 新着の感想 ―
[一言] …ミヨが手に一杯荷物を持つ描写がある度に「誰か荷物持ちを雇いな」って思う(苦笑) 身体能力的には多分大丈夫なんだろうけど、見た目的に幼女が荷物を抱えて歩いている姿は心に来る(−▽−;)
[一言] >>メニューは善哉のみで、サイズの調整はできないけれど、モチは追加できる。 この季節にこの一文は、効きますね。 寒い今の季節だからこそ、善哉、餅の追加可は、 思わず食べたくなります。 今…
[良い点] マルビットとティゼルのボジションで草。 村長と魔王のポジションで大草原。 [気になる点] 山エルフって他に彷徨ってる仲間はもういないのかな? [一言] 村長「屋台、夜、温かい食事なぁ…」 …
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