計画の不安を解消
塩の貴重さと、干し肉に関して少し加筆しました。02/07
塩漬けにされた大きな骨付き肉の塊をニンジンやタマネギなどの野菜と一緒に茹で、切り分けられた料理が夕食に出てきた。
料理名は知らない。
俺が教えた料理じゃないからだ。
ゴロウン商会から仕入れた塩漬け肉を美味しく食べようと、鬼人族メイドたちが頑張った結果だ。
だから文句を言うつもりはないが……しょっぱい。
ほかの食べ物と一緒に食べるなどしてしょっぱさをごまかさないと、完食は厳しい。
この塩漬け肉はゴロウン商会から俺が仕入れた。
牛や豚、山羊、羊など種類を多く、部位も色々と揃えた。
味は……どれもしょっぱい。
それもそのはず、基本的に塩漬け肉は保存食。
腐らないように、味を度外視してこれでもかと塩を使っているからだ。
その大量に使う塩のせいで、生肉より高い値段とかいう……まあ、保存食は大事だからなぁ。
そんな塩漬け肉をなぜ仕入れたかと言うと、冒険者の食事を知るため。
ある程度はガルフから聞いているが、実際にどうなのだろうと興味を持ってしまったのがいけなかった。
とりあえず保存食を食べると聞いていたので、よく考えずに塩漬け肉を仕入れてみたのだが……
「塩漬け肉は高級品なので、冒険者たちは滅多に食べませんよ」
塩漬け肉を運んでくれたゴロウン商会の人にそう言われた。
シャシャートの街ではそれほどでもないが、塩は貴重品。
その塩を大量に使う塩漬け肉は高いのだそうだ。
なので、冒険者たちが食べるのは塩の代わりに香草を塗して天日干しで作られた干し肉。
冒険中はノートみたいなサイズの干し肉の板を携帯し、食事の時に少しずつ切って食べるのだそうだ。
失敗だった。
事前にガルフに相談すればよかった。
それなりの量を頼んだので、間違いだったと返すのはためらわれ、こうやって夕食に出ているのだが……
あれ?
普通に受け入れられているな。
ルー。
「あー、懐かしいわねー、これ」
ティアと天使族たち。
「塩が強い……
けど、戦闘後は妙に欲しくなりましたね」
ハイエルフたち。
「味はあれですけど……憧れの食材でしたから」
リザードマンたち。
「塩分が取れて、悪くありません」
山エルフたち。
「一時期、作って売ってたことがありました。
自分で食べたことはありませんけど。
こんな味だったのですね」
連絡員のミノタウロス族。
「昔の村で養蚕を頑張っていたときは、塩漬け肉が年に一度のご馳走として配られました。
一口ずつですが……懐かしい」
連絡員のケンタウロス族。
「私が勤めていた屋敷では、軍の食糧として大量に倉庫に積まれていました。
もちろん、触ることすら許されませんでしたが……」
塩漬け肉に思い出や思い入れがあるらしい。
だが、やっぱり全員が受け入れたわけではないか。
暗い顔をしているのがドラゴンたち。
「食べられないことはないが、普通の肉を焼いてくれたほうがいいのだが……」
ドライムがドラゴンたちを代表して、鬼人族メイドたちに伝えていた。
クロやユキ、クロの子供たちも塩分がキツイので食の勢いが悪い。
ザブトンの子供たちは……肉の中心を食べているな。
やはり、外側はしょっぱいか。
そんな中、ハイテンションなのがドワーフたち。
「麦酒に合う!
めっちゃ合う!
なぜもっと早くこの肉をワシは要望せなんだのだ!」
「新しい樽を持ってくるのだ!
色々な麦酒に合わせてみるぞ!」
「おおっ!」
今後も塩漬け肉は一定量、ドワーフたちのために仕入れることになりそうだ。
ちなみにこのお肉。
塩分が多いので子供たちには出していない。
なので、子供たちが羨ましそうにこちらを見ている。
たしかに見た目はおいしそうだが、しょっぱい料理だぞ。
頑張ってくれた鬼人族メイドには悪いが……
ああ、骨付きなのが魅力的なのか。
わかった。
それじゃあ明日、骨付きの……スペアリブでも作ろうか。
塩漬け肉以外も、ちゃんと仕入れてあるから食材は大丈夫だ。
翌日。
スペアリブ作りのため、昼から下拵えをする俺がいた。
夜。
「これもこれでうまい!
酒に合う!」
子供たちよりも喜ぶドワーフたちがいた。
いや、色々な酒を造っているわけだし、合わない肉料理を出すほうがむずかしいと思うぞ。
俺が冒険者の食事に興味を持ったのは、ヨウコの食堂計画のほかにガルフからの相談があったからだ。
「魔王さまの計画が噂になっており、冒険者が不安になっています。
仕事がなくなるのではないかと」
冒険者は何かを求めて危険地帯で魔物や魔獣と戦っているイメージだが、商会の用心棒、商隊の護衛などの仕事のほうが割合が多い。
魔王の短距離転移門が設置されれば、王都からシャシャートの街の間を往来する商隊の護衛仕事がなくなると言うのだ。
たしかに商隊の護衛仕事はなくなるだろう。
だが、代わりに道中の村や街の転移門を守る仕事が増えると魔王側は想定していた。
それらは個々に商会や商隊の護衛をするより安全で、収入面も同額ぐらいになるだろうと。
ただ、普段とは違う仕事にはなるので、反発する者もいるだろう。
そういった者には、シャシャートの街から東に向かう商隊の護衛仕事を引き受けるよう勧める。
魔王の短距離転移門の計画は、全てが魔王直轄地だから可能な話で、貴族の領地が絡むと途端に面倒になる。
シャシャートの街の東側は貴族の領地が多くなるから、そうそう短距離転移門の道はできない。
俺はそうガルフに説明した。
「今の話、外に流しても大丈夫ですか?」
魔王から許可はもらっている。
大丈夫だが……
「誰に流すんだ?」
「五村とシャシャートの街の冒険者ギルド長にですが」
「また上のほうだな」
「その二人から、相談があると言われて聞かされた話なので……」
「なるほど。
噂を聞いて心配になった二人が、ガルフに……どうしてガルフに聞くんだ?」
「一応、ランダンさまと知り合いですから」
「それで、ガルフが何か情報を持っていないか確認したのか」
「どちらかと言えば、聞いてきてほしいみたいな感じでした」
「そうか。
冒険者ギルドにも根回しをしていると思ったが……やってないのかな?
それとも後回しにされたか……」
「冒険者ギルドは独立勢力で、魔王国の政治とは深く関わろうとはしませんから……その、魔王国側に担当者がいないのではないかと」
「そんなことがあるのか?」
「想像ですが……
ギルド長二人も、魔王国の誰を窓口にしていいかわからない感じでしたから」
「ランダンじゃ駄目なのか?」
「上過ぎます」
「それでガルフか」
「そうみたいです」
「事後報告は揉めるのに。
魔王に冒険者ギルドに話をするように言っておこう」
「ありがとうございます」
このあと、雑談で冒険者の生活の話をガルフから聞いて食事に興味を持ち、勢いで塩漬け肉を仕入れてしまった。
……
反省。
塩漬け肉の料理 オリジナル料理ですが、モデルはドイツ料理のアイスバインです。
スペアリブ 骨付きカルビのことです。
大企業(魔王国)の大型プロジェクトの概要が知りたいけど、社長にダイレクトに尋ねるのは無理……みたいな感じの中小企業の社長(冒険者ギルドの長)二人。
大企業の社長と一緒に釣りをしている平社員に聞いてみた。
書籍化の作業で更新が乱れます。
すみません。
せっかくリズムが出てきたのに……できる限り、毎日更新を心がけます。