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計画の補足


 吹雪ふぶいてきた。


 やはり冬。


 寒い。


 そんな中、収穫したのがイチゴ。


 子供たちが食べたいと言うから、頑張ってかご一杯に収穫した。


 収穫場所は村の北東。


 正規のイチゴ畑での収穫は終わっていたので、俺がおやつ用に森の中に作った場所からだ。


 さて、問題はここから屋敷に帰るコース。


 最短は牧場エリアを横断するコースなのだが……


 どこで俺がイチゴを収穫していると知ったのか、山羊たちが待ち構えている。


 俺を驚かせるなり、こけさせるなりして、イチゴを落とさせるつもりなのだろう。


 山羊はイチゴを食べるからなぁ。


 ならば迂回うかいルートを選ぶべきなのだろうが……吹雪ふぶきは強くなっている。


 少しでも早く屋敷に戻るべきだろう。


 しかし、この吹雪でも山羊たちは引かない。


 俺の持っているイチゴの入ったかごをジッと見ている。


 いつもなら小屋なり洞窟なりに避難するのに。


 俺の護衛として一緒にいるクロの子供たちが、追い払いますかと聞いてくる。


 お願いしたいところだが、それで山羊たちは諦めるだろうか?


 諦めないだろうなぁ。


 散発的に攻撃してくる様子が浮かぶ。


 ……


 仕方がない。


 俺はクロの子供の一頭に、イチゴの入った籠を背負ってもらった。


 それを見て、絶望した顔をする山羊たち。


 悪いな。


 このイチゴは子供たちに渡すため、譲れないのだ。


 さあ、屋敷に戻るぞ。


 ん?


 あ、こら、山羊たち、俺を集中攻撃するんじゃない。


 イチゴを持ってるのはあっち。


 い、いた、ちょ、こら、誰か助けてー!



 レギンレイヴが助けてくれた。


 ありがたいけど、本気の魔法はやめて。


 危ないから。


 まあ、山羊たちに当たらないようにしてくれていたようだけど……


 え?


 本気で狙った。


 でも、全部かわされたと。


 ……


 落ち込まないで。


 そして、復讐を誓うのはやめて。


 あの山羊たちにもいいところが………………たぶん、あるから。


 なくても許してやって。


 さあ、屋敷に戻ろう。



 途中、籠を地面に落とし、イチゴをぶちまけて困った顔をしているクロの子供たちがいた。


 ……


 そうだよな。


 籠を背中に乗せていただけだもんな。


 落としちゃうよな。


 ああ、謝る必要はない。


 俺が悪かったんだ。


 今度、クロの子供たちが背負える籠を考えよう。


 籠に無事なイチゴを戻しながら、俺はそう思った。






 醤油ベースの甘辛いタレで味をつけた手羽先。


 うまい。


 超うまい。


 いくつでも食べられる。


 しかし、手羽先は鶏一羽から二本しか取れない。


 食事に出そうと思うと、必要とする鶏の数がすごいことになる。


 なので、残念ながら普通の食事に手羽先は出ない。


 出るのは俺の夜食だけになっている。


 夜食……


 うん、まあ、その、細かいことは置いておいてだ。


 手羽先。


 超うまい。


 お酒にも合う。


 この手羽先を知っているのは俺と鬼人族メイドたちだけだったのだが、手羽先を運ぶ鬼人族メイドを見つけたヨウコと酒スライム、それと俺の部屋近くに待機しているクロとユキ、ザブトンの子供たち。


 あと、フェニックスの雛のアイギスがいる。


 今日の俺の夜食の相手は、フェニックスの雛のアイギス。


 俺はコタツに入ってだが、アイギスはコタツの上で手羽先をつついている。


 そうか、うまいか。


 そして相変わらず、奇麗に食べるなぁ。


 鳥が鳥を食べるのは普通。


 同族でなければ問題ないスタイルらしいので、俺も気にしない。


 手羽先、うまい。


 あっという間になくなってしまった。


 食べた数は俺が七本、アイギスが三本。


 もう少し食べたい気もするが……


 アイギスもまだ食べたいか。


 じゃあ、おかわりを……


 ……………………


 鬼人族メイドがジッと俺を見ているので、ここまでにした。


 すまない、アイギス。


 うん、頑張る。


 ありがとう。






 昼、部屋でのんびりしていたら魔王の娘であるユーリがやってきた。


「お父さまから短距離転移門で、王都とシャシャートの街を繋ぐ計画を聞いたのですが……」


 俺に相談らしい。


 なんだろう?


「私はお父さまの計画には賛成です。

 魔王国が転移門の軍事利用をしない宣伝になりますし、経済的にも大きいですから」


 たしかにそうだな。


「ただ、道中の村や街のことが心配で……」


 短距離転移門で繋いだ道を高速道路と考えれば、各村は宿泊施設のあるサービスエリア。


 特徴や特産がなければ、先を急がれる。


 逆に特徴や特産があれば、強制の一泊だけでなく何泊もしてもらえるかもしれない。


 となれば、道中の村や街の努力が求められるのだが……


「これまで、道中の村や街は黙っていても交易馬車が往来してうるおっていたのです。

 それが、いきなり特徴、特産と言われても対応できるところは少ないかと思うのですよ」


 たしかにそうだな。


 王都とシャシャートの街の間には、十の村と、三つの街がある。


 このうち、現段階で特徴、特産があると言えるのは二つの村と、一つの街だけ。


 残りは、王都とシャシャートの街の間にあることだけが特徴の村と街になる。


「ヨウコさまの紙作りを広める案も聞いていますが、紙作りに適した村は一つか二つでしょう。

 それで、ほかの技術も各村に薦めたいと思うのですが……」


 ほかの技術?


「山羊や羊、豚、牛、鶏などの飼育です」


 五村周辺の村ではやってもらっているが、シャシャートの街の東側に偏っている。


 今回の魔王の計画で、シャシャートの街の西側に広めたいということか。


 まあ、隠すような技術じゃないし、食べ物が増えるのはありがたい。


 ヨウコが道中の村や街に食堂を作りたがっていたから、その助けにもなるだろう。


 ただ、飼育数の調整をしないと値崩れするぞ。


「そのあたりはお任せを。

 すでに飼育している村に大きな不利益にならないよう、注意します」


 わかった。


 しかし、ユーリがこういったことを言ってくるのは珍しいな。


「これでも一応、魔王国管理員ですよ」


 魔王国管理員。


 代官を置かない地域の視察員みたいな役職だったな。


 そうか、道中の村や街全てに代官がいるわけじゃないのか。


「ええ、計画は根回しの段階ですが、噂を聞いた代官のいない村や街のおさが五村に参られまして」


 大変だな。


「ええ、大変です。

 彼らは、助けてほしいとしか言いませんから」


 自分でアイディアを出すように誘導しないと、あとで困るぞ。


「そうなのですが、とりあえずは今を切り抜けないといけませんから。

 それに、まだ訴えにくるだけマシですよ。

 どうにもならない状況になるまで何も言わないところもありますから」


 それはたしかに酷いな。


 そういう場合はどうするんだ?


 事前に口を出すのか?


「それが、私のほうから困っていますか? と聞くのも失礼になるので……なにもできません」


 魔王国管理員なのに?


「なのにです」


 それはあんまりだな。


 もう少し、権力を持たせてやってほしいが……


 魔王国管理員になる者全てがユーリみたいに公平であるとは限らないから、権力を持たせすぎるのも問題になるのか。


「そういうことです」


 訴えにくるだけマシというのに納得だ。


 それにしても、わざわざ五村のユーリにうったえに行ったのか?


 場所によっては王都で魔王に訴えたほうが早いだろ?


「お父さまに謁見できるような立場ではないので。

 それに、王都の官僚に下手に訴えると長を解任される危険もあります。

 自分は無能ですと宣言しているようなものですから」


 解任の危険って……そういう危険があるから、黙っているところがあるのだと思うぞ。


「私もそう思います。

 もっと気楽に意見を言ったり、相談できる環境を作らなければいけないとランダンさまに伝えているのですが……立場や面子がありますから」


 なかなか進まないか。


「はい。

 とりあえずではありますが、今回のお父さまの計画に関しての道中の村や街の意見は、シャシャートの街のイフルス代官と私で協議してまとめることになっています。

 なので、これからもよろしくお願いします」


 はい、よろしく。


 挨拶をして、ユーリが俺の前から去った。


 ……


 ん?


 いや、待って。


 どうして俺によろしくと言うんだ?


 言うべき相手は魔王だろ?


 ……挨拶の定型文みたいなものかな?





村長「イチゴ、一回落としちゃったんだ。少し傷んだかもしれない。すまない」

子供たち「潰して牛乳と砂糖で食べるから大丈夫」



鬼人族メイド「村長、そろそろ時間です」

アイギス(黙って去る)



ユーリ「お父さま、村長はどこです?」

魔王「たしかリビングにいたと思うぞ」


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― 新着の感想 ―
[一言] 前にコメントした通り、魔王国は村に臣従してる立場だしね。 ドラゴン、天使族なども。 知らぬは主人公だけ。
[気になる点] 苺は初夏の作物では? ハウスじゃなさそうだし
[一言] 目安箱みたいな物を……なんて過去の自分なら言っていそうだな。なら一捻りを入れて巡検使みたいな制度を作って、各地を旅するご意見番もしくはガイドブック作成者みたいにいろんな土地のいろんな特色を集…
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