虎
盗み食いはよくない。
駄目だと教えている。
欲しいなら欲しいと言うべきだ。
俺はそう注意しながら、盗み食い犯を見る。
姉猫のミエル。
実際はミエルだけでなく、ラエル、ウエル、ガエルも盗み食い犯なのだが、俺の目の前にいるのはミエルだけ。
その理由はシンプルに、逃げ遅れたから。
ミエルが逃げ遅れるなんてと思うが、まあ、その、なんだ。
銜えた魚が大きすぎて逃げ切れなかったのだ。
欲張るから。
そして、その大きな魚の鱗がひっかかっているのか、ミエルが口を開けても魚が牙から離れない。
……
笑ってはいけない。
怒っている場面だ。
俺は気を引き締めるが、ミエルの助けを求める情けない声に吹き出してしまった。
まったく。
ミエルを心配して、ラエル、ウエル、ガエルたちが盗んだ魚を持って戻ってきたから、魚を外してやる。
外してやるが、許したわけじゃないからな。
四匹とも、しばらくコタツ禁止だ。
ええい、小芝居で同情を引こうとするな。
魔王も小芝居に参加しないように。
それと魔王。
その後ろにいる大きな虎はなんだ?
見ない顔だが、部下か?
違う?
普通の虎?
魔王が猫に執心という噂を聞いた地方の貴族から贈られてきた?
虎は猫じゃないぞ。
その貴族も、贈るときは猫と思っていたと。
贈られてくる間に成長して、到着したときは立派な虎になっていたのか。
贈った貴族も驚いただろうな。
それで、俺に自慢するために連れてきたと?
違う?
この村で飼育してほしい?
ここは動物園じゃないんだぞ。
変わった動物は、この村に任せればいい的な考えはどこから……まあ、それはそれとして、その虎は噛んだりするのか?
暴れたりは?
触っても?
大丈夫。
おとなしいのか。
たしかに、図体は大きいが借りてきた猫のようだものな。
俺が虎を撫でようと手を伸ばそうとしたら、ミエルたちに妨害されてしまった。
撫でるならミエルたちを撫でろ?
お前たち、機嫌がいいときしか撫でさせてくれないじゃないか。
新入りに嫉妬するんじゃない。
だが、ここで先にミエルたちを撫でないと、長く拗ねるので撫でる。
わかっている。
背中中心で、お腹は駄目なんだろ。
尻尾の付け根は……今日は許してくれるのか。
よしよし。
だが、この程度ではコタツ禁止は解かないからな。
ショックを受けたような顔で俺をみるな。
お前たちが盗った魚は、アルフレートたちのために鬼人族メイドが頑張って用意した魚なんだぞ。
そう、釣ったの。
この寒い時期に。
だから、俺が許してもアンが許さない。
しばらく、反省の姿勢をみせるように。
……わかってもらえたのは嬉しいが、俺よりもアンを怖がるのはどうなんだ?
まあ、毎日の食事を用意している者には逆らえないか。
ミエルたちの相手を終え、俺は虎を撫でる。
うーん、この模様。
種類には詳しくないけど、虎に間違いない。
しかし、置物のように動かないな。
見慣れない環境で、緊張しているのかもしれない。
落ち着ける場所を用意してやったほうがいいだろう。
まあ、サイズから考えて……屋敷の空き部屋の一つでいいかな?
あ、マーキングで臭いをつけられると困るな。
……
外は晴れているな。
手の空いているハイエルフ、山エルフ、集合!
牧場エリアに、虎小屋を作った。
作ってから思ったが、この虎。
牧場エリアにいる動物を襲ったりしないだろうか?
虎って肉食だよな?
そんなこと絶対にしない?
ふむ。
まあ、たしかにクロの子供たちも、襲わないしな。
わかった信用しよう。
ちゃんと食事は用意するが、足りないときは訴えるように。
それじゃあ、虎小屋でしばらく生活してみてくれ。
改善点があれば、改善しよう。
……
どうした?
虎小屋が気に入らないのか?
違う?
寂しい?
えっと……
虎が慣れるまで、屋敷の一室で生活することになった。
マーキングはできるだけしないでくれると嬉しい。
せっかく作った虎小屋が使われるのは春になってからだろうと思っていたら、山羊たちが占領していた。
山羊用の小屋は、ちゃんとあるだろ?
どうした?
新築がいい?
……
春までだぞ。
あまり汚さないように。
虎がやってきて数日が経過したが、虎は部屋から出て活発に動くことはなかった。
まだ慣れないのかなと心配したが、部屋の中で姉猫たちと一緒に寝ている虎の姿があった。
大丈夫そうだ。
……
姉猫たち、虎をコタツの代わりにしているだけじゃないよな?
ちゃんと仲良くなっているよな?
ちょっと短めですが、なんとか更新。
これより、東京に行ってまいります。
年内にあと一回ぐらいと思いつつ、用心のために年末のご挨拶。
本年は安定更新があまりできず、反省の多い年になってしまいました。
なんだかんだと、お待たせして申し訳ありません。
来年は……来年も頑張ります!
なので、読んでもらえると嬉しいです。