ヨルの新兵装
魔王国の学園から戻ってきたウルザは、妊娠中のハクレンに甘えている。
違うな。
ハクレンのお世話をウルザがしているのか。
いいことだが……出産はもう少し先、冬の終わりぐらいになるぞ。
ちなみにラスティは春先ぐらい。
アルフレート、ティゼルはほかの子供たちと交流。
学園での出来事を伝えている。
あ、クロの子供たちやザブトンの子供も聞いているな。
講演会のようだ。
そんなアルフレートとティゼルを警戒しているのが、オルトロスのオル。
見慣れないからだろう。
グーロンデのそばから離れない。
ゴール、シール、ブロンの三人は、遅れてやってきた魔王と談笑。
冗談の件は、俺から魔王に謝っておいた。
誰かから変な感じで伝わって誤解されたくないからな。
俺の謝罪に対し、魔王は大笑いして気にするなと言ってくれた。
そしてゴール、シール、ブロン、それとビーゼルに向かってこう宣言。
「その程度の戦力でこの魔王が倒せるのか?」
ドヤ顔の魔王。
なるほど。
数の差など気にもしない魔王の武ということか。
すごいぞ魔王。
ゴールたちがドースに応援を頼もうとしているのを邪魔しなければ、きまっていたのにな。
ゴールたちの話を聞いていると、どうやらガゴロク領やシャイバン領、バルゴ地域などは以前に反乱が起きそうになった場所らしい。
ゴールたちがその反乱を事前に潰したのだけど、そのまま領の代官みたいなことまでやっていたと。
えっと……まず、あまり危険な場所に出向かないでほしい。
心配になるから。
それで、代官みたいなことって、ゴールたちがする必要があるのか?
魔王国は力こそ全て。
別の者がいくより、反乱を事前に潰したゴールたちがやったほうが面倒がなくていいと。
ゴールたちが納得しているならかまわないが……
それなりの報酬をもらっているから、大丈夫と。
嫌なときは、ちゃんと言うんだぞ。
まあ、ゴールたちは結婚もしている立派な大人だ。
あまりあれこれ言うのも失礼だが……
いつでも帰ってきてかまわないからな。
でもって魔王。
ゴールたちが働いている期間に、魔王は野球をやっていた気がするが?
まさか遊んでいたのか?
あれは趣味もあるが、仕事も兼ねている?
チームに人間の国にツテのある者がいるから、野球をしながら連絡をとっていると。
そんな面倒なことをせず、素直に呼びつけたらどうだ?
仕事なんだろ?
呼びつけたら、逆に問題になる?
よくわからないが、そうなのか?
わかったわかった。
野球は趣味が九で仕事が一なんだな。
野球愛を疑ったわけじゃないさ。
…………
あれ?
冬になると外に出るのが嫌になるが、出ないわけにはいかない。
社の手入れ、鶏の卵の回収、動物達の小屋の掃除と仕事は多い。
それと、逃げ遅れたスライムたちの回収。
スライムたちは寒くなる前に暖かい場所に避難するのだが、何匹かは逃げ遅れて凍っていたりする。
春まで凍らせておいても問題はないのだが、かわいそうなので屋敷の中に。
スライムたちがいるから、村は綺麗なのだしな。
空を見上げると、フェニックスの雛のアイギスが炎をまとって飛んでいた。
なかなか勇ましい。
そのアイギスの少し後ろを鷲が飛んでいる。
こっちはかっこいいな。
俺は空の二羽に手を振って挨拶をし、先を急いだ。
俺が目指した場所は森の中。
ヨルの新しい投石機の材料となる木材を集めるためだ。
実は冬になる前に木材はそれなりの量を用意していたのだけど、山エルフたちに先に使われてしまった。
こうなると新しい投石機を作るのを春まで待つか、吹雪などで閉じ込められる前に森に行くかだ。
俺の気分的には春まで待ちたかったけど、温泉地を守るために頑張ったと聞いてしまったからには報いたい。
なので森にやってきた。
俺の周囲には護衛のクロの子供たち。
わかっている。
寒いから、早く終わらせよう。
投石機の部品を考えながら木を選び、【万能農具】で伐採。
山エルフたちのことも考え、少し多めに確保しておこう。
途中、五人ぐらいの山エルフたちが、手伝いにやってきてくれた。
一緒にアルフレートやウルザ、ティゼルもいる。
寒いのだから、屋敷にいればいいのに。
久しぶりに俺と一緒に作業がしたい?
かまわないぞ。
それじゃあ、そっちの小さいのを運んでもらえるか。
兎。
うん、襲ってきたから。
山エルフたちはこっち。
猪もでたんだ。
村に近いのに、危ないよな。
そうだ、ウルザ。
友達は大丈夫か?
ザブトンの子供たちがみてる?
なら安心だな。
慌てなくていいから、あとでもう一度、挨拶をやりなおそうと言っておいてくれ。
それと、食べたい物があるか聞いておいてくれるか。
ああ、ウルザの友達なら歓迎するよ。
アルフレートやティゼルも友達を連れてきてもよかったんだぞ。
呼んだけど、断られた?
遠慮しなくてもいいのにな。
まあ、ウルザの友達が呼び水になってくれることを願おう。
おっと、のんびりしてたら冷えてしまう。
早く戻ろう。
俺は伐採した木材を紐で縛り、【万能農具】をバールのようなものに変え、引っかけて運んだ。
外での作業のあとは風呂に入る。
まだ昼だが、冷えた体を温めるためだ。
アルフレートに一緒に入るかと誘ったけど、遠慮されてしまった。
年頃なんだろう。
無理強いはしない。
アルフレートは俺の入る風呂とは別の場所の風呂に。
ウルザ、ティゼルは山エルフたちと一緒に女風呂だろう。
俺と一緒に入ってくれるのは、クロの子供たちだけだ。
よしよし。
ん?
ああ、外で凍っていたスライム。
お前もいたか。
よしよし。
ところでお前は去年も凍っていなかったか?
違う?
別の個体?
ならいいが……あまり油断しないように。
風呂から出たら、作業場に向かう。
伐採してきた木材を加工し、投石機にするためだ。
本来なら、伐採したての木は半年から数年は乾燥させないと木材として使えないのだが、【万能農具】のお陰で切った直後から木材として使用可能。
これを当たり前と思ってはいけない。
神さまに感謝だ。
山エルフたちに手伝ってもらい、投石機はあっという間に完成する。
……
これ、投石機じゃないよな?
バリスタだっけ?
巨大な弓に、移動用の車輪をつけた感じの。
いや、車輪のある台に巨大な弓を搭載した感じかな。
途中で俺が用意した木材を使わないから変だなぁと思ったら……
自動装填と連射機能は見事だけど。
ヨルのための投石機なのを忘れていないか?
ヨルのためだからこそ、これ?
そうか?
ヨルにバリスタを見せたら、歓喜していた。
いや、喜ぶならいいんだけどな。
ああ、矢がたくさん欲しいんだな。
わかった。
いまはここにある分……五十本だけだ。
追加の矢は冬のあいだに頑張らせてもらおう。
投石機よりバリスタのほうが矢の分だけ、コストパフォーマンスが悪いな。
用途が違うから比べるのもなんだが……温泉地の防衛に関しては、バリスタのほうが使えると。
たしかにそうだな。
なんにせよ、誤射には注意だぞ。
こうして温泉地にバリスタが装備された。
……
冬なのに、ヨルはすごく練習してた。
無理しないように。
矢が頑丈だから、使いまわせる?
それはよかった。
そして、俺が調子に乗って改造したバリスタは、もう少しだけ隠しておこう。
いや、投石機用の材料が余っていたから。
つい。




