料理が得意な鬼人族メイド
ヨウコさまが、また村長にお願いをしている。
頼りすぎではないかしら?
私は鬼人族メイドの一人。
村長のご寵愛をいただいているけど、まだ子はいません。
子を成したアンさまが羨ましい。
順番的には次はラムリアスさまでしょうけど、子は天からの授かりもの。
次は私ということも……
あっと、ララーデルさまが泣いている。
この泣き声はオムツですね。
さっき交換したばかりなのですが、赤ちゃんがこちらの予想通りに動いてくれることなどありません。
ふふふ。
大変ですが、それが楽しいのです。
ヨウコさまが村長にお願いしていたのは五村で特別料理教室を開くこと。
それぐらいなら、村長の協力がなくても村長代行の権限で行えるでしょうと申し上げたいのですが……
私たちの協力が必要であるなら、村長に言わなければなりませんね。
私たちは基本、村長以外の指示には従いませんから。
ああ、意地悪ではありませんよ。
多忙なだけです。
なので村長の指示が最優先。
それだけです。
五村では定期的に冒険者や五村住人を相手に料理教室を開いています。
だからというわけではありませんが……
特別料理教室にやってくる料理人たちが、素直じゃありません。
理由など、どうでもいいでしょうに。
汚れた手で扱った料理は、汚れた料理です。
どれだけ美味しくてもお腹を壊します。
料理の前に手を洗うぐらいはやっているのでしょう?
その延長です。
ええい、私たちがやれと言ったら、やればいいのです。
せっかく村長が見てくださっているのに、不甲斐ない姿をみせることになるとは……
殴り合いで上下関係を叩き込んでからのほうが、やりやすいのではないでしょうか?
……
いけませんね。
思考が魔王国に毒されています。
反省。
「お腹を壊さない料理を作るための祝福を得る手順です。
複雑ですが、覚えてくださいね」
聖女のセレスさまからいただいたアドバイスで、衛生観念の教育はなんとかなりました。
ただ、一日では終わらなかったことは大反省です。
村長、申し訳ありません。
……
お優しい言葉をいただいてしまった。
嬉しいですが、喜んではいけません。
失敗したのですから。
同僚の鬼人族も同じ気持ちですね。
よろしい。
明日に備えましょう。
今日は覚悟が足りませんでした。
あらゆる事態を想定し、対処を用意しておくのです。
備えた結果でしょうか。
特別料理教室二日目は順調です。
失敗料理が量産されていますが、これも経験のうちです。
また、成功しても何度も繰り返し行わねば身につきません。
みなさん、頑張りましょう。
あら?
なんですか?
基礎以外も教えてほしい?
たしかに冒険者や五村住人を対象にした料理教室では基礎だけでなく料理も教えています。
ですが、よろしいのですか?
この場にいるみなさまは、それなりの料理人だと聞いておりましたが?
そうです。
小さな子を相手にするように、手取り足取り教えてよろしいのですか?
わかりますね?
ええ、基礎はいくらでもお教えしましょう。
ですが、その先の応用は自分の力で考えるべきです。
料理人なら。
……
何人かプライドのない料理人がいますね。
貪欲な姿勢には感心しますが、それなら特別料理教室ではなく、通常の料理教室に参加してください。
次回の通常の料理教室では、卵を使った料理を教える予定です。
特別料理教室は無事に終了しました。
大きな問題もなく、よかったと言いたいのですが……当初は一日で終わる予定でしたからね。
大人しくしておきます。
そんな私たちに、村長の優しい言葉が響きます。
五村のお屋敷で、夕食?
しかも、村長の手料理を私たちがいただけるのですか?
よろしいのでしょうか?
ああ、ずっと見ているだけだったので、作ってみたくなったのですね。
わかりました。
喜んで、いただきます。
殻を剥いたエビにジャガイモの粉をつけて揚げ、マヨネーズや甘辛いソースに絡めた料理。
村長の作る料理は独特です。
また、発想が違い過ぎます。
どこで学んだのでしょうか?
おっと、いけません。
主のことを詮索するなど、出すぎです。
私たちは、ただ黙って村長に仕えればいいのです。
ですが……
村長と気さくに話をするヨウコさまが、羨ましくもあります。
「村長。
料理教室で学んだ者たちが、料理大会を開いてほしいと言っている」
ああ、また。
ヨウコさまは、簡単に村長にお願いをします。
料理大会がしたければ、好きにやればいいと思うのですが、どうして村長に審査員をお願いするのでしょうか。
そして、村長も簡単に引き受けすぎです。
冬の準備もありますし、秋の収穫ももうすぐですよ。
ですが、今回の特別料理教室で二日も村長の時間を使わせてしまった私たちが、なにかを言えるわけもありません。
黙っています。
……
なんでしょう?
ヨウコさまが私たちを見ています。
そして村長に向かって……
「料理大会にはそこのメイドたちにも出てもらいたい」
……
ヨウコさまは、なにを言っているのでしょうか?
村長が理由を聞いています。
「村長に仕えるメイドの質を教えておきたい相手がいてな」
なんでも、村長のもとで働きたいという執事やメイド希望者がそれなりの数がいるそうです。
しかし、希望者全員が優秀ならいいのですが、そうでもないそうです。
そして、そうでもない人ほど自信家で面倒。
そういった人たちに身の程を教えてやれと。
なるほどなるほど。
そういうことなら、断ることはありません。
身の程知らずに身の程を教えてさしあげましょう。
さあ、村長。
命令を。
……
あれ?
村長、まさか私たちでは優勝できないとお思いで?
さすがに、それはあんまりではありませんか?
いえいえ、村長の信頼を得られない私たちが悪いのですが……
あ、私たちが参加して、村長が審査員をすると不正を疑われると?
そうでしたか。
そんな不名誉を村長に与えるわけにはいきません。
私たちは不参加で。
ええ、身の程知らずに身の程を教えてさしあげられないのは残念ですが、ほかにも機会はあるでしょう。
「村長に仕えるメイドは不正を疑われないだけの腕を持つと思うのだが?」
ヨウコさまは、村長を乗せるのが上手です。
私たちは料理大会に参加することになりました。
村長のために優勝してみせましょう。
……
あ、開催は冬ですか。
それまで腕を磨いておきます。
こんにちは。
内藤騎之介です。
すみません、私生活の都合で今月は更新リズムが大きく乱れます。
(いまでも十分、乱れている気はしますが)
ご容赦ください。