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料理人


 夕食のあと、俺はヨウコから相談を受けた。


 内容は、五村ごのむらで開かれるパーティーに関して。



 貴族や商人は、自分の顔を売るためにパーティーを行う。


 頻繁に行う。


 そこで着る服や提供する食事で財力を誇示し、顔を売るためだ。


 もちろん、顔を売るだけでなく、情報交換の場や見合いの場としてもパーティーを行う。


 目的や規模はさまざまだ。


 だが、五村では規模の小さいパーティーすら行われない。


 行えないのだ。


 その理由が料理。


 料理は基本、自前で用意する。


 提供する料理に万が一があってはいけないからだ。


 そのため、信頼した料理人に頼むのだが……


 これまで雇っていた料理人では、五村の料理に慣れた者を招待するには技術が足りないらしい。


 ……


 それを俺に相談されても困るのだが?


 今いる料理人を鍛えるか、腕のいい料理人を新しく雇えばいいんじゃないか?


 俺に指摘されるまでもなく、貴族や商人はそう考えたようだ。


 だが、そこで問題があった。


 まず、今いる料理人を鍛える案。


 一般的に、料理人の技術は飯の種なので門外不出。


 新しい技術を覚えるには、それを知る者……親方に弟子入りしなければいけないのだが……


 貴族や商人に雇われる立場の料理人なので、それなりの数の弟子がいる。


 弟子がいるのに、ほかの親方のもとに弟子入りはできない。


 まとめて受け入れてくれる親方もいない。


 なので駄目。


 次に、腕のいい料理人を雇う案。


 これは五村ですでに働いている者となるわけだが、料理人は料理人で恩や義理がある。


 金を積まれたからと、いきなりこれまでのしがらみを放り出して、雇われるわけにはいかない。


 なので誰も雇われてくれない。


 また、これまで雇っていた料理人たちが悲しそうな顔で主人をみている。


 なので駄目だったらしい。


 ……


 それを俺に聞かせて、どうしろと?


 パーティーも無理に行わなければ、いいのではないか?


 五村での貴族同士、商人同士の交流が円滑に行えていない?


 そうなのか?


 貴族は知らないが、商人に関しては少し前に服で綺麗に統一されていたが……


 統一されているのが駄目な証拠?


 確かに誰も目立たず、喜ばない結果に終わったが……


 本来なら事前に打ち合わせして、目立つ人を決める。


 ああ、順番の相談とかができていないわけだ。


 なるほど。


 パーティーは必要なわけだ。


 それで、俺はどうすればいいんだ?




 五村で特別料理教室が開かれることになった。


 会場は五村の麓にあるイベント施設。


 教師役は鬼人族メイド三人。


 アシスタントに獣人族の娘が五人と文官娘衆が五人。


 集まったのは五村で働く料理人。


 ……


 これまで五村で行われている料理教室は、冒険者と五村住人が対象だった。


 定期的にやっているが、料理人は参加していなかった。


 なので、料理人たちを対象にした特別料理教室では声をかけた貴族や商人たちの関係者だけが集まると思ったのだが……


 集まり過ぎじゃないかな?


 三百人以上いるぞ。


 大丈夫か?


 鬼人族メイドたちに確認したけど、指導は可能とのこと。


 これまでやっていた料理教室で慣れていると。


 ならば任せよう。


 ただ、アシスタントの追加は呼んだほうがいいだろう。



 参加人数が多いので、まずグループが作られた。


 一つのグループは五人から八人。


 人数の差があるのは、種族差があるから。


 四十三のグループができた。


 グループ単位にかまどと調理器具が渡される。


 竈の数が足りないようだが……あ、ハイエルフたちが大急ぎで作っているようだ。


 ありがとう。


 ご苦労さま。



 そして、鬼人族メイドによる調理の指導が行われるのだが……


 まずは衛生観念の教育。


 そんなに難しいことではない。


 まずは料理人が清潔でいること。


 体を洗う。


 綺麗な服を着る。


 髪が長い者は、髪をう。


 手洗いの徹底。


 次に調理前の準備。


 み置き水を汚さないようにする。


 食材は綺麗な場所に置く。


 食器は常に綺麗に。


 調理器具を煮沸しゃふつする。


 厨房の床は毎日掃除する。


 最後に調理中の注意。


 体調が悪いときは料理しない。


 調理中に喋らない。


 生肉を切った包丁で、ほかの食材を切らない。



 俺が聞いていた感じ、大樹の村や一村いちのむら二村にのむら三村さんのむら四村よんのむらでは徹底させている基本中の基本の内容だ。


 五村でもヨウコ屋敷や村議会場の厨房、クロトユキ、青銅茶屋カフェ・ブルー、甘味堂コーリン、酒肉ニーズ、麺屋ブリトアでは実践済みのはずだ。


 食中毒は怖いからな。


 ここに集まったのが料理人たちなら、問題はないだろう。


 ……


 大半の者が首を傾げている。


 えーっと、次の段階に移る前に、衛生観念はきっちり覚えてもらいたい。




 衛生観念はなかなか覚えてもらえなかった。


 どうしてそれをしなければならないのか、納得できる理屈が必要だった。


 だが、お腹を壊さない料理を作るための祝福を得る手順と説明したらすぐに受け入れてくれた。


 それに気づくのが少し遅かったので、特別料理教室は二日目に突入した。



 特別料理教室、二日目。


 鬼人族メイドたちは、焼く、る、す、げるの基本を教えている。


 いいのかな?


 ここにいる人たちは、料理人なんだろ?


 ……


 あちこちから、歓声が起きてる。


 大丈夫そうだ。


 まあ、大樹の村の料理を担っている鬼人族メイドたちも、最初は焼くと煮るしか知らなかったからな。


 ん?


 一部の参加者は知っていたようだが、顔色が悪い。


 どうしたんだ?


 あ、店の秘伝だったのね。


 それは申し訳ない。



 この特別料理教室で教えた衛生観念と料理技術は、隠さないで広げてほしいとお願いしている。


 基礎中の基礎だし、安心して食べられる場所は増えてほしい。


 そして、料理をする者の数が増えれば、新しい料理が増える可能性が高まる。


 頑張ってもらいたい。



 料理教室に協力してくれる商人たちが用意してくれた食材が、料理に変わっていく。


 さすが料理人の部。


 失敗を数回すれば、料理方法は覚えたようだ。


 あとは応用だろう。


 五村で確保しやすい食材で、料理を頑張ってもらいたい。


 ちなみに、ここで作られた料理は参加者で消費される。


 自分で作った料理は自分で食べるように。


 失敗の味もしっかりと覚えるべきだ。


 頑張れ。




 特別料理教室も、通常の料理教室と同じく今後も定期的に行われる予定だ。


 衛生観念を広げるためには有効なので、俺も賛成。


 ただ、特別料理教室の目的である、料理人たちの腕を上げるのはまだ先になりそうだ。


 特別料理教室では、料理以前の問題を解決しただけだからな。


 ん?


 貴族や商人に雇われる一流の料理人たちだから、このあとは自然に腕を上げていく?


 ……そうだな。


 それを期待したい。


 ところで、その企画書は?


 料理大会?


 えーっと、まだ早くない?


 料理人同士が盛り上がって?


 通常の料理教室の参加者たちも、鬼人族メイドたちに成果を見せたいと?


 まあ、それならかまわないが……


 俺が審査員で参加となっているが?


 ……


 開催は許可しよう。


 ただ、予選はしっかりと。


 俺が審査するのは最後の最後だけにしてもらえると嬉しい。





弟子を持つ料理人たちは、通常の料理教室には不参加。(立場の問題)

弟子入りしている料理人見習いは、通常の料理教室には不参加。(参加すると、最悪クビになる可能性があるため)


なので、主婦や弟子を持たない小さい料理店の腕が上がり、大きい店は売り上げが落ちるという状態でした。


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― 新着の感想 ―
[一言] >揚げに関しては海の種族もしくは漁師内ではポピュラーな調理方法なのでしょうか? ビッグルーフ・シャシャートでは「唐揚げ」も販売されていますので、「揚げ物」という調理方法はすでに知られている…
[一言] >大半の者が首を傾げている。 鬼人族「・・・では、例えばです。(頭痛を堪えながら) 例えば、あるパーティーで、食中毒が出たとしましょう。 その場合、何が悪かったと思いますか?」 料理人「・・…
[一言] 料理人(586話)の内容について、ただの我侭です 「いまいる料理人」は「今いる料理人」と表記を変えたほうが個人的に読みやすいと思います
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