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最長老


 ドーン、ドーンと大きな音が村に響く。


 天使族による急降下爆撃だ。


 相変わらずの精度で、狙った場所にクロたちの角を命中させていく。


 クーデル、コローネの二人は妊娠でしばらく動けなかったのに、ブランクを感じさせない。


 見事なものだ。


 だからそろそろ終わらないか?


 予定の数を超えて投げているよな?


 それ、最後だからな。




 俺は爆撃の現場から離れ、屋敷に戻る。


 屋敷で俺を出迎えてくれたのは、数日前に村にやってきた天使族。


 名をレギンレイヴ。


 見た目の年齢はティアたちと変わらないけど、天使族の最長老らしい。


 この最長老。


 単独でやってきた。


 最初に到着したのは一村いちのむらの上空。


 そこで好戦的な態度をとったらしく、一村住人たちによる雷の魔法で不意を打たれ、ザブトンの子供たちによる糸で地上に叩き落とされたあと、クロの子供たちによってボコボコにされた。


 そのあと、ケンタウロス族の定期便によって大樹の村に運び込まれたのだが、かなりの大怪我だったので慌てて治療した。


 治療中、ティアやグランマリアから、完全に治すのは危険だと忠告されたので用心したが、必要はなかった。


 レギンレイヴはとても友好的だ。


 礼儀も正しい。


 ティアやグランマリアがなにを心配したのかわからない。


 クーデル、コローネ、スアルリウ、スアルコウ、キアービット、それにラズマリアもティアと同じく用心していたので、嫌われ者なのだろうか?


 一族では仲良くしてほしいものだ。


 でも、ティアたちの話を総合して聞くと、最長老レギンレイヴは暗殺もOKな武闘派。


 古い天使族の考えや教えを大事にしており、神人族を名乗らなくなったマルビットたちの方針にも反対。


 大樹の村に天使族が移住しつつある現状を快く思っていない筆頭らしい。


 とくに世界樹を大樹の村に持ってきたことは、かなり不満を持っていたそうだ。


 なるほど、用心するのもわかる。


 そのうえで、天使族で怒らせちゃいけないナンバーツーらしい。


 滅多に怒らないが、怒るとなにをするかわからない。


 一度、敵と定めた相手は、徹底して叩きのめす。


 そんな評価だ。


 だが、大樹の村ではなにもしていないし、一村での好戦的な態度は謝ってもらった。


 俺がレギンレイヴになにかすることはない。


 ほかの天使族と同じように生活してほしい。


 まあ、長期滞在するなら、労働してもらえると嬉しいが。


 料理とかできるんだ。


 それじゃあ、頼もうかな。


 ああ、ちなみにだけど、怒らせちゃいけないナンバーワンは?


 ティア?


 そうなの?


 へー。


 ティアが照れてた。




 そうして数日経過したのが今日だが……


 別段、怪しい様子はない。


 ティアやグランマリアたちは子供を近づけないようにしているが、レギンレイヴは気にしていない。


 ただ、俺の屋敷にひかえ、なにかしらの命令を待っている。


 それはそれで困るが……


 問題は起こしていない。


 なので、俺は普通に接する。


 おっと、そろそろマルビットたちが村に来るようだ。


 また賑やかになるな。








 私の名はレギンレイヴ。


 天使族の長老の一人だ。


 だが、長老と呼ばれるのは、あまり好きではない。


 長く生きている自覚はあるが、これでも未婚の乙女。


 お姉さまと呼んでほしいものだ。



 さて、私は目を覚ました。


 文字通り、ねむりから目を覚ました。


 どうも最近は睡眠時間が長い。


 年単位で眠ってしまう。


 これは長寿な一族や不老の一族が長生きすると、避けられないことだ。


 睡眠時間が徐々に長くなり、最後は目を覚まさなくなる。


 死んではいないが、死んだも同じ状態になる。


 原因はわかっていない。


 ただ、長く生きたために刺激が減るからだろうと言われている。


 それを証明するように、なにか事件があれば長く眠ることはない。


 夜、眠ったら次の日の朝に起きる。


 事件がずっと続けばいいのだが、それはそれで問題だ。


 マルビットが長の座を獲得し、天使族の生き方が変わってしまったが、五日ほどでまた長く眠るようになってしまった。


 私は昔ながらの天使族の生き方を大事にしていたつもりだが、そうではなかったのだろうか。


 それとも怒りが長続きしないだけか。


 どちらにしても、私が長く眠るのは変わらない。



 ある日、世界樹の苗を別の場所に移動させたとの話を聞いた。


 十日ほど普通の睡眠が続いた。



 天使族の子が狙われたため、人間の国を攻撃したとの話を聞いた。


 滅ぼしたらしい。


 私も参加したかった。



 目を覚ますたびに聞くのが、大樹の村なる場所に関わる話。


 そこに移住するという話もあるなどと、不快なことも聞く。


 だが、気になる。


 しかし、どうせ私は長く眠るだろう。


 ならば動かない。


 気になるが動かない。


 どうでもよくなるのだ。



 目が覚めた。


 普通に。


 長く眠っていない。


 これで何日目だ?


 数えていなかったが起きたのは夏の前で、今は秋。


 ちょっとした感動だ。


 そして胸に湧く使命感。


 これは、大樹の村をなんとかせよという神からの意思メッセージではないだろうか?


 でなければ、私が起きている理由はない。


 そうだ。


 そうに違いない。


 あわせて、明らかに堕落した我が一族に、活を入れよということではなかろうか?


 いにしえの生きざまをみせよと。


 ただ眠るだけの日々から、私は目を覚ましたのだ。


 きっとそうだ。


 私は意気揚々と飛び出した。




 そしてボコボコにされた。


 なんだここは?


 地獄か?


 こんな場所に移住するとか、一族はおかしくなったのか?


 そう思っていたら、違った。


 私がボコボコにされた場所は、一村。


 そこから荷馬車で輸送され、私は大樹の村に到着した。


 そこで私は見た。


 青々としげる世界樹を。


 黄金の蚕が守る世界樹。


 古の光景。


 滅んでしまった神の末裔たる一族とともに見た光景。


 亡くなったお姉さまたちと一緒に見た光景。


 まさか、また見ることになるとは。


 え?


 私の治療に世界樹の葉を?


 もったいない!


 これぐらいの怪我、放っておけば治るから!


 駄目駄目駄目!



 無理矢理、治療されてしまった。


 悔しい。


 でも、世界樹の葉の温もりを感じる。


 幸せ。


 おっと、いけないいけない。


 この程度でほだされてはいけない。


 私は堕落した一族に、古の生きざまをみせつけるのだ。


 ……


 ただ、いきなり殴りかかるのはよろしくない。


 見極めよう。


 見極めるだけだから、私を監視するのはやめてくれないかな?


 群れたインフェルノウルフを相手にするほど、私は戦闘狂ではない。


 あと、私の背後にいるのはデーモンスパイダーというか、イリーガルデーモンスパイダーだな。


 ……


 敵に回せるか!


 族滅してしまうわ!



 その群れたインフェルノウルフやイリーガルデーモンスパイダーを相手に、一歩も引かない村長なる人物。


 私が見極めるべき相手。


 ……


 神の気配を感じる。


 感じるのだが、屋敷にいる猫たちからも感じる。


 私の感覚が狂ったのだろうか?


 長い眠りもあったからな。


 ありえることだ。


 それを無視すれば、ただの村人。


 それも貧弱な。


 私がその気になれば、一撃で殺せるのではなかろうか?


 なぜ、そんな男に一族の娘が多数、嫁いでいるのだ?


 わからない。


 わからないなら、試すだけ。


 そう思い、私は村長に向かって一歩踏み出した。


 瞬間、私の胸を槍が貫いた。


 ……


 幻覚だ。


 だが、その幻覚は私がもう一歩踏み出したら現実になる。


 それを嫌でも理解できる。


 私の周囲には誰もいない。


 数歩先に村長がいるだけだ。


 村長の手に槍はない。


 あの槍はどこから出てきた?


 わからない。


 わからないが、私が悪意を持って動けば殺されるのは理解した。


 そして、こんなことができる者を私は知っている。


 神だ。


 ああ、なるほど。


 一族は堕落したわけではなかった。


 ただ古の生き方に戻ろうとしているだけ。


 私が生まれるよりも前の、古の生き方。


 神に仕える生き方に。


 それがわかれば、私は十分だ。


 私もその生き方に従おう。




 大樹の村にやってきたマルビット、ルィンシァ、スアルロウの一団に挨拶したら、別人だと騒がれた。


 失礼な。


 村長、私は別に頭を強く打ったわけじゃないから。


 世界樹の葉は必要ない。





ラズマリア グランマリアの母。

マルビット キアービットの母。

ルィンシァ ティアの母。

スアルロウ スアルコウ、スアルリウの母。


更新が乱れ、申し訳ありません。

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― 新着の感想 ―
ティアさん、どんだけバーサーカーやねん(^_^;)
(敵対しない限り)世界一安全な村 敵対したら……? チリも残らんね
何周も読んでいて今回初めて気付いたのが 【滅んでしまった神の末裔たる一族】 天使族の他に何かの種族がいたんですよね? 今まで読んできて全く気付かなかったです。
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