名前と試作モノレール
ドラゴンの宴会は続いている。
食料は収穫したばかりだし、代金を支払ってくれるので問題ない。
ドノバンたちが、新しい酒を提供して感想を聞いてまわっている。
度数の高いお酒にレモンの皮を漬け込んだのか……
思ったより、とろっとした感じだな。
ああ、レモンの皮だけじゃなく砂糖も加えているのか。
一口飲んでみる。
くはっ。
きつい。
俺には一口も厳しいが、ドースたちはガンガン飲んでる。
ドラゴンの姿になって暴れないでくれよ。
そして、ハクレンとラスティはお酒、駄目だからな。
梅を漬けたお酒が気になる?
確かにな。
去年の春に仕込んだ梅酒も出しているので、在庫が心配なのだろう。
大丈夫だ。
仕込んだ梅酒の量が多い。
数回の宴会で飲みきれるものじゃ……ドワーフたちには注意しておく。
俺も我慢するから、ハクレンもラスティも我慢してほしい。
ハクレン、ラスティが妊娠したことでドラゴンの姿になれず、村の輸送力が大きく落ちてしまった。
対策として万能船に頑張ってもらうことになるのだが、問題は遠方地。
正確にはドースやライメイレンの住んでいる場所までの輸送。
ドースやライメイレンは頻繁に村に来ているのだから、自分たちで持ち帰ってもらったらいいと俺は思うのだが……
立場があるので、そうもいかないらしい。
そして、ここでの作物を待ってる人たちがいるので輸送しないわけにはいかないという。
色々と考えたが、最終的にドライムとグラッファルーンにお願いすることになった。
もちろん、報酬は支払う。
村の作物と酒の現物支給だけど。
ドラゴンたちの宴会は自由参加。
なので、参加しない者は外で武闘会に備えて練習している。
そういった人たちの横で、投石機で岩を打ち出すヨルと、その打ち出された岩をキャッチするドラゴン姿のヒイチロウがいた。
楽しそうだが、受け止めているのは岩なんだよなぁ。
ライメイレンがなにか言うんじゃないかなと思ったら、ライメイレンは野外テーブルに料理と酒を置いてヒイチロウを見ていた。
力をコントロールする練習にちょうどいいらしい。
なるほど。
それじゃあ、いまみたいにキャッチした岩を砕いてしまったのは失敗と。
ならば文句は言わない。
ヨルも楽しそうだし。
「ところで村長」
ライメイレンが、ヒイチロウを見ながら聞いてくる。
ハクレンの次の子の名前はどうするのかと。
あー……
素直に考えるなら、ヒイチロウの弟だからヒジロウになるのだが、ちょっと語呂が悪い。
なので少し調整して、ヒノジロウかなと考えている。
まあ、ヒジロウを飛ばして、ヒサブロウにするのもありかなとかも思うが……
ネーミングセンスに自信があるわけじゃないので、最終的にはハクレンと相談して決めたい。
そうライメイレンに伝えたら、そうですかと微笑まれた。
……
ハクレンは妊娠中だから、あまり強引に名前を提案しないようにと釘を刺しておいた。
ドースに宴会の席に呼ばれ、名前の提案をされた。
うーん、このあたりがドースとライメイレンの差だと思う。
とりあえず、三十個は多い。
候補には入れるから、二つか三つに絞ってほしい。
ギラル、勝手に名前の候補を増やすんじゃない。
マークも増やすのか?
将来の義息子だから?
わかったわかった。
それじゃあ、一人、三つまで。
候補だから。
決定じゃないからな。
あと、名前を考えるのは宴会のあとで。
酒を入れた状態で考えても、ボツになるだけだからな。
俺は村の西にあるゴルフ場にやってくる。
このゴルフ場。
結構、最初のころに作ったのだが、それなりに使われている。
ゴルフクラブやボールの数が増え、専用の小屋を作ったぐらいだ。
しかし、問題もある。
最初は森を切り拓いてコースにしたり、森に向かって打ちっぱなしなどをしていたのだが、周囲の開発が進んで思いっきり打てなくなってきていた。
現在は短いコースか、グリーンだけを使うパターゴルフが主流になっている。
とくに改善希望があるわけではないが、鬼人族メイドたちが楽しんでいるので、なんとかしたいと思う。
……
現在の場所をパターゴルフ専用の場所にして。
少し南側に新しいコースを作るのがベストかな?
プールや、エビの養殖池にぶつからないように注意しながらコースを作っていく。
まあ、木を伐採するだけだから、それほど難しくはない。
伐採した木の輸送は、ドマイムとクォルンが手伝ってくれた。
ゴルフコースを完成させたあと、俺は伐採した木を加工して、五村のモノレールの試作トロッコとレールを作る。
全部木製。
レールは丸太をそのままT字型に加工。
どれぐらいのサイズがちょうどいいかわからないので、できるだけ大きめに。
T字の上部分は、一メートルぐらいの幅になった。
T字型にしたのは、それを抱え込む形のトロッコにすれば脱線しにくいと考えたからだ。
まあ、レールにセットするのが少し大変になるが……
あと、思ったより車輪が必要。
震動も大きい。
サスペンションも必要だな。
試作トロッコだからサイズは横幅二メートルの縦幅四メートル。
こっちは大きければいいというわけじゃないからな。
何人かの山エルフたちと一緒に頑張った。
レールの設置場所は少し悩んだけど、屋敷前から東にまっすぐ。
薬草畑までとした。
まあ、邪魔になったら撤去すればいい。
武闘会にやってきた巨人族やミノタウロス族に協力してもらい、レールを設置。
うん、ほんとうにまっすぐだ。
気持ちがいい。
そして、そこに試作品のトロッコをセットし……
動力はまだないので、ケンタウロス族に引っ張ってもらった。
荷物なしなら大丈夫だが、荷物を載せると予想以上に抵抗が厳しい。
「スピードに乗れば問題ないのですが……」
初動に思ったより力が必要とのこと。
ゴーレム動力なら問題ないか?
いや、一緒か。
なら、対策しなければ。
初動を楽にしようとするなら、車輪一つにかかる重さを分散させるべきだろう。
つまり、車輪を増やす。
車輪自体の重さを考えると、増やすのは小さい車輪にすべき。
イメージはソロバンをひっくり返した状態。
作業が大変だけど。
小さい車輪バージョンのトロッコは、荷物を載せても移動がスムーズだった。
ケンタウロスが引っ張るだけで、それなりに速度もでる。
こうなると……
「レールが、まっすぐなのが気になりますね」
山エルフの発言に、俺は頷く。
カーブやアップダウンを考慮すべきだろう。
試作なのだから、挑戦しなければ。
「高い位置からなら、ケンタウロスに引かせなくても移動が可能です」
確かにそうだな。
「レールを輪のように繋げば、一方向の移動ですみますね」
うん。
「小さいタイプのトロッコも作ってみました」
……え?
簡易ジェットコースターができた。
五メートルぐらいの高さからスタート。
二十メートル四方の中に複数のカーブとアップダウン、直線で構成されたレールをそれなりの勢いで降りてくる。
最後は人力でトロッコを五メートルの高さまで引き上げなければいけないが、これは巨人族とミノタウロス族がやってくれた。
子供たちに大人気だ。
「モノレールの形だと、曲がれるカーブの角度に限界がありますね」
レールを抱える形だからな。
その辺りの限界を検証できたのはよかった。
「さらに小さいトロッコにすれば、曲がれると思うのですが」
目的は五村用のトロッコだからな。
それを忘れないように。
「トロッコを縦に一回転させたかった」
それは駄目だぞ。
なにごともほどほどに。
さあ、武闘会だ。