種の隠し場所
ドライムの巣では書類仕事が少ないらしいが、その理由は主人であるドラゴン族も、執事やメイドとして働く悪魔族も頭がいいから。
頭がいいと言っても、ただ賢いだけでなく記憶力が凄い。
そのうえ、頭の中で大抵のことを処理できてしまうので、何かに書き残す必要があまりないのだそうだ。
なるほど。
でもって、プラーダもそのドライムの巣で働く一員。
頭がいいのだそうだ。
……
いや、疑ってないぞ。
なるほどと思わなかっただけで。
……
それは嘘泣きだな。
うん、わかる。
プラーダは昔、<農業日記>を読んでその秘密に気づいた。
だから、裏表紙に一文を残したそうだ。
しかし、それだと……
“この本に、種の隠し場所を記した”
記したという書き方が、気になる。
<農業日記>の著者はプラーダではないのだろ?
だったら、“隠し場所が記されている”と書くべきだ。
その辺りを聞いたら、簡単なことだった。
元から、裏表紙にその一文が書かれていたのだそうだ。
しかし、書かれていた場所が悪く、擦れて薄くなってしまった。
そこで、プラーダが書き直したのだそうだ。
いまでは、元の一文は完全に消えてしまい、プラーダの書き直した一文だけが残っていると。
ふむ。
……
元から、古代悪魔語で書かれていたのか?
「いえ、本文と同じ共通語で書かれていましたよ」
それじゃあ、どうして古代悪魔語で書いたんだ?
「つい、うっかり」
……
いい笑顔だが、それで誤魔化されたりはしないぞ。
さて、小さな疑問は解決。
次は大きな疑問を解決しよう。
プラーダは、<農業日記>に隠されていた種の隠し場所を知った。
その種を取りに行ったのか?
「どうして私が種なんかを取りに行かないといけないんですか?
ちょ、いきなり頭を撫でないでください」
いやいや、撫でよう。
いいぞ、そうだ。
そうでなくてはな。
宝の地図の秘密は解かれたが、まだ宝は失われていない。
いや、宝を求める冒険が失われていないのだ。
それで、種の隠し場所はどこだ?
「えーっと、確か……」
プラーダが記憶していた種の隠し場所を聞いたが、知らない地名だったので調べる必要があるな。
え?
マイケルさんが知ってる?
…………
種の隠し場所は、魔王国とフルハルトの交戦地域であることが判明した。
よし、諦めた。
この情報は魔王に渡して、終わりにしよう。
自分で取りに行かないのかって?
そんな危険な場所には近づきたくない。
プラーダ。
死の森より危険な場所はないって、失礼だぞ。
死の森は、名前は怖いがそんなに悪い場所じゃないんだからな。
今度、来るといい。
ラスティやブルガ、スティファノもいるし、話し相手には困らないだろう。
ラスティには会いたいが、ブルガとスティファノは遠慮する?
ああ、ライバルなのね。
では、ブルガとスティファノに負けないぐらい頑張るように。
頑張ってくれたら、待遇改善には応じるから。
あと、やりたい仕事があれば言ってくれたら検討……美術館の運営に関わりたい?
賭け事で美術品が流出しても、困るんだが。
さすがに自分の物じゃないのは賭けない?
自分の物でも、あまり賭け事はしないように。
希望は聞いた。
覚えておく。
当面は、今の仕事で信頼を勝ち取るように。
俺はゴロウン商会の建物から出て、ヨウコ屋敷に戻る。
道中、五村の様子をみたが、警備隊の姿が多い。
昨日の襲撃の影響かな。
ただ、ピリカの姿はない。
ピリカは大樹の村の武闘会に参加するため、大樹の村に泊まりこんでいるからだ。
泊まりこんでいる場所は、最近めっきり使われなくなった宿。
屋敷の空き部屋でもかまわないと言ったのだが、大会までの修行を考えると宿のほうが使いやすいそうだ。
そのピリカの修行だが……
あまり順調ではない。
森の兎を相手に、苦戦の連続。
ガルフやダガの話だと、兎には勝てるだろうとのことだったが……対人戦以外は苦手だったな。
毎日、世界樹の葉のお世話になっている。
治るとはいえ、無茶はしないでほしい。
俺はヨウコ屋敷から大樹の村に移動し、自分の屋敷に戻った。
屋敷の中庭で、ピリカが一人で怪我の治療をしていた。
今日は負けたっぽい。
一人で治療できているので、怪我はたいしたことはないのだろうが……
ん?
ピリカの前に、姉猫たち四匹が何かを運んできた。
兎だ。
姉猫たちは、その兎をピリカの前に放り投げ、兎ってのはこうやって狩るんだと言わんばかりの顔をしている。
あ、ピリカが泣いた。
本気泣きだ。
……
えーっと、見なかったことにしよう。
翌日。
姉猫たちに指導されているピリカの姿があった。
強いなぁ。