プラーダ
私の名はプラーダ。
長く生きる悪魔族の一人だ。
昔は大暴れしたものだが、最近は大人しくしている。
私たちのボスが、ドラゴン族に従ったからね。
ドラゴン族のところで働いている。
さすがの私も、ドラゴン族には敵わない。
ああ、勘違いするんじゃないよ。
そこらのドラゴンには負けない。
逆にぶちのめす。
敵わないのは、神代竜族の連中だ。
あいつらは存在自体が反則だからな。
挑もうって気にもならない。
私たちのボスは、よくあんなのに挑んだものだ。
感心する。
でも、見習ったりはしない。
さて。
私の同僚というか古い友人に、ブルガとスティファノという二人がいる。
同じ悪魔族で、強さは……まあ、私と同じぐらい。
たぶん。
いや、ちょっと向こうのほうが強いかもしれないけど、状況さえ整えたら私が勝つから、同じぐらいで大丈夫。
この二人、少し前からラスティさまのメイドとして出張している。
ラスティさまというのは、ドラゴン族の娘さんだ。
すごい暴れん坊で、嫁ぎ先はないだろうと思っていたら、いつの間にか嫁いでた。
まあ、ラスティさまの話は横に置いておいて。
ブルガとスティファノは、出張先でそれなりに楽しくやっているそうだ。
用事で戻ってきたとき、食事が美味しいと自慢していた。
強い相手とも戦えるそうだ。
ちょっと羨ましい。
が、もっと羨ましいのが、褒賞メダルなる美術品を手に入れていたことだ。
私は美術品に目がない。
綺麗な物、大好き。
褒賞メダルをみせてもらったけど、ひと目で惚れ込んでしまった。
欲しい。
絶対に欲しい。
しかし、譲ってはもらえなかった。
粘ったけど駄目だった。
失意で仕事をサボったら、ボスに怒られた。
くうっ。
ラミアたちが荷物を抱えて職場にやってきた。
定期便だ。
私たちはラミアたちから荷物を受け取り、職場から少し離れた場所にある宿に運び込む。
その宿にやってくる商人に、荷物を渡すのが仕事だ。
面倒ではあるが、大変な仕事じゃない。
いつも通り、こなすだけ。
そう思っていたのだが、荷物を運んできた一匹……失礼、一人のラミアの首飾りを見てしまった。
首飾り自体は、たいしたものじゃない。
だが、その首飾りの中央にあの褒賞メダルが嵌め込まれていた。
…………
頑張った。
粘った。
しつこく交渉した。
そうして、私は自分の持っているコレクションの大半と、首飾りに嵌め込まれていた褒賞メダルを交換してもらった。
私は欲しい物は手に入れる。
そんな女。
褒賞メダルをニヤニヤしながら眺め、仕事を三日ほどサボったら上司に殴られた。
痛かった。
私が褒賞メダルを持っていることをボスが知り、事情調査にやってきた。
ラミアとの交渉は紳士的に行ったはず。
脅してはいない。
正当な取引。
文句を言われることはない。
と思うのですが、私はなにかやってしまいましたか?
丁寧な口調で聞いてみた。
問題ない?
よかった。
でも、褒賞メダルを外に流出させるのは禁止?
もちろんだ。
誰が手放すものか。
めちゃくちゃ大事にするに決まっている。
数年後。
宿に定期便の荷物を受け取りに、商人とその護衛の冒険者たちがやってきた。
もともと、商人たちは職場まで荷物を受け取りに来ていたのだけど、色々と大変だからと受け渡し用の場所として宿が用意された。
そんな宿なので、商人とその護衛の冒険者たちは、一泊していくのが恒例になっている。
ドラゴン族の用意した宿に来て、泊まっていかないなんてありえない。
しかし、そうなると宿の運営をしなければいけない。
私たちの仕事だ。
まあ、利用する客はほぼ同じメンバーなので、気楽にやっている。
いまは食後のゲームタイム。
就寝までの時間を潰す相手をするのも仕事のうち。
私は誰かと対戦するのが好きだ。
リバーシやチェス、麻雀など、知的なゲームが好み。
ミニボウリングも悪くない。
ゲームではお金を賭けている。
洒落にならない金額ではなく、遊びの金額を。
ゲームを真剣にするための工夫だし、娯楽として受け入れられている。
今回は、四目並べ。
麻雀のメンバーに入れなかった護衛の冒険者の一人と、私は四目並べを楽しんだ。
ところで、私は褒賞メダルを大事に持っている。
大事なので、財布の中の隠しポケットに入れているのだ。
……
正直に言おう。
私はギャンブルも好きだ。
そして、熱くなるタイプ。
おわかりだろうか?
商人とその護衛の冒険者たちが帰ったあと、三日ほどして私は自分の失態に気づいた。
ギャンブルの負けで、財布ごと相手に渡してしまったと。
私は追いかけた。
商人を。
いや、その護衛をしている冒険者たちを。
顔馴染みだ。
行動はわかっている。
すぐに見つかるだろう。
見つかって。
どこー!
一ヶ月ぐらい経過した。
仕事をサボっていることが怖いけど、ボスに怒られるよりはマシだ。
そして、やっと見つけた!
シャシャートの街の『マルーラ』にいた。
そこで、めちゃくちゃ酔ってた。
こんなに酔うなんて珍しい。
だけど、いまはそれどころじゃない。
早く酔いを醒まして財布を取り戻さないと……
ええい、飲むのをやめろ。
「おいおい、メイドの姉ちゃん。
乱暴はいけねぇ。
そして、今日のこいつには酒を好きなだけ飲ませてやってくれ」
私はその冒険者と一緒に飲んでいる男から、絶望の言葉を聞いた。
「こいつ、財布を盗まれちまったんだからよー」
生活リズムを戻さなければいけないので、次の更新は少し遅れます。
すみません。