盗賊団の足跡
まずい。
まずい、まずい、まずい、まずい。
どうしてこうなった。
俺の名はアストラ。
ちょっとだけ有名な盗賊団の団長をやっている。
正直に言おう。
俺はいま、脅されている。
正体不明の相手から。
理由は相手が教えてくれた。
俺の部下の不始末だ。
とある冒険者を相手に、盗みを働いたらしい。
よくある話だ。
それなら俺ではなく、その部下に言ってほしい。
俺にどうしろと言うんだ?
部下の不始末をなんとかしろと?
俺たちの流儀でやるなら、その部下を追い出して終わりなんだが……
それをお望み……じゃないんだよな。
わかっている。
部下……部下というのも腹立たしいから、マヌケと呼ぼう。
マヌケは冒険者から盗んだ物を、商人に売ったらしい。
その代金を出せというなら簡単な話なのだが、正体不明の相手が欲しているのは盗んだ物だそうだ。
面倒な。
しかも、その売った先の商人はとある街のオークションに参加するとのことで、移動を開始している。
正体不明の相手は、俺たちにその商人を追いかけ、盗んだ物を回収しろと言う。
むずかしいが、やるしかない。
やらないと、この場で死体になるだけだ。
相手の実力は、嫌というほどわかっている。
なにせ百人を超える俺の部下が、全滅しているのだから。
しかし、盗んだ物を回収させたいなら、もう少し手加減を考えてほしい。
ひょっとして、なにも考えていない相手なのか?
よけいに危ない。
頑張ろう。
なに、相手は商人だ。
なんとかなるさ。
えーっと……
俺以外に動けるのは……三十人ぐらい。
半分を動けない部下の治療に残し、俺は行動を開始した。
目的の商人は、オークションが開かれる場所に向かっているのだが、道中で商売をしながらなのでルートが予想できない。
人数も少なくなったから、手当たり次第というのも無理。
だが、オークションが開かれる場所はわかっている。
先回りは可能だ。
ただ、遠い。
旅費も馬鹿にならない。
金がなくなれば、いつも通り盗賊仕事をするだけなのだが、縄張りの外だからできるだけやりたくない。
下手をすれば、その地の盗賊を敵に回すことになってしまう。
そうなれば、寝ることもできない逃亡生活だ。
それは困る。
なので金を切り詰め、ときには臨時雇いに応えながら俺たちはオークションが開かれる場所に向かった。
二ヶ月に及ぶ長い旅だった。
街に到着したとき、妙な達成感にちょっと涙がでた。
だが、俺たちの目的はオークションが開かれる場所に到着することではなく、やってくる目的の商人から目的の品を取り返すこと。
まずは交渉で。
それが駄目なら、残念ながら盗ませてもらう。
大掛かりにやれば、ここの盗賊連中を怒らせることになるが、俺たちの縄張りに住む商人から盗むだけだ。
大目にみてもらえるだろう。
ともかく、俺たちは商人が到着するのを待つ。
……
オークションの開催は、一ヶ月以上も先。
俺たちは滞在費を稼ぐため、日雇いの仕事を探すことにした。
オークション会場の下見を行い、盗みの手口を考えつつ日雇い仲間と親しくなり、街の食事に慣れたころ。
衝撃のニュースが飛び込んできた。
オークションが別の街で開かれることになったと。
これまでの準備が全部無駄になり、目の前が真っ暗になったが……すぐに冷静さを取り戻す。
盗賊仕事をしていれば、目標が予定外の行動をするなんてのはよくあること。
慌てず、冷静に対処すればなんとかなる。
これまでだって、なんとかなった。
……
詳しい話を聞けば、新しいオークション会場は五街。
いまいるシャシャートの街から、一日の距離だ。
日雇い仕事で、近くまで行ったこともある。
大丈夫だ。
ただ、オークションの日程にも変更があった。
開催は一週間後。
時間がない。
いや、今すぐ移動すればなんとかなるが、それはできない。
オークションがまだ先だと思って日雇い仕事の予約を入れてしまったからだ。
盗賊と言えども、約束は大事なのだ。
……
正直に言おう。
金がないから、移動もできない。
くそっ、『マルーラ』の飯が美味すぎるのがいけないんだ!
部下たち、食うのをやめろ!
移動資金を貯めるぞ!
食い納め?
……
『マルーラ』は、今日が最後だからな!
なんとかオークションの開催日に、俺たちは五街に到着できた。
予想外に街に入る審査が厳しい。
堂々と持っている武器は見逃されるのに、隠し武器や暗器の類は取り上げられる。
どうなっているんだ。
まあ、隠し武器や暗器は今回は必要ないからかまわない。
それよりも、オークションの会場は……
ひと目でわかった。
ありがたい。
だが、無用心には近づけない。
まずは情報収集。
ラーメン通り?
……
まあ、食事は大事だな。
隣の席に、貴族のお嬢さまっぽい人が座ってびっくりしたが、俺は食事に集中する。
箸で食べる料理だ。
『マルーラ』で鍛えた俺たちに隙はない。
あそこ、スプーンで食べるカレー以外にも、箸を使う料理がいくつかあるからな。
隣の席の貴族のお嬢さまっぽい人たちに箸の使い方を教えつつ……無理せず、フォークで食べるのもありだぞ。
俺はラーメンを楽しんだ。
美味い。
食事で時間を取られたせいではないと思いたいが、少し困ったことになった。
目的の商人との接触は成功。
目的の品の回収も交渉でなんとかなりそうだったのだが……
なんと、商人は目的の品をオークションに出品したため、すでに手元にはないそうだ。
まいった。
オークションで値がつかなかったら戻ってくるが、ほかの金持ちの手に流れたら最悪、回収が不可能になる。
仕方がない。
俺は商人を脅し、落札されそうだったら自分で値をつけて買い戻すように指示した。
商人は俺のことを知っていたので、素直に頷いてくれた。
これで一安心。
駄目だった。
資金的に裕福な相手が値をつけて、勝負にならなかったそうだ。
自分で回収するのだから、いくらでも値を上げて競えばいいだろうと思うが、そう簡単ではない。
出品者が自分で値をつけて回収することを許せば、出品物の値を吊り上げることができてしまう。
なので、基本的に出品者が自分の出品物に入札するのは禁止だ。
だが、抜け道はある。
出品者本人でなければいいのだ。
なので商人は、知り合いの商人に金を渡して落札を頼んだ。
当然、知り合いの商人は渡された金の分までしか入札しない。
無理に落札して、あとで金が払えないとなったら落札した商人が信用を失うことになるからだ。
商人は追加の金を渡そうとしたが、間に合わずに決着してしまった。
うーん。
仕方がない。
避けたかったが、最終手段だ。
オークションを警備する連中は、会場内に目を光らせている。
俺たちは、会場を出たところで陣取る。
一気に襲撃し、奪って逃げる。
ラーメンをもう一回食べたかったが……仕方がない。
あの正体不明の相手を敵には回せない。
頑張る。
っと、商人。
落札したのはどんなやつだ?
服装とかの特徴を教えろ。
名前を聞いてもわからんからな。
女の子を肩に乗せている一団?
ずっと乗せているのか?
移動中はずっとか。
仲のいい親子なんだな。
まあ、いい。
できるだけ殺さないように注意してやろう。
怪我は許してくれ。
……
少し待ったが、女の子を肩に乗せている男がいる一団がきた。
人数は多いが……半分ぐらいは女だ。
いける。
部下も大丈夫だと合図を送ってくる。
よし、いくぞ!
俺は前に出た。
そして、俺たちは住人たちから襲撃を受けた。
……
え?
なんで?
俺たちは捕まってしまった。
遅くなりました。
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よろしくお願いします。