オークション後半戦
オークションは続いているが、俺はヨウコ、ガルフ、ダガ、魔王、ビーゼルと子育てに関して話し合っていた。
「やはり、金銭感覚を鍛えるには労働が一番。
自分で働いて稼げば、金の価値を知ると思う」
魔王の言葉には頷けるが、ユーリは働いたことがあるのだろうか?
「城の厨房で手伝いをさせた」
おおっ。
素直に感心した俺に、ビーゼルが半日だけですと補足してくれた。
「半日でも、労働は労働。
労働して対価を得る。
これが大事なのだ」
確かに。
考えてみれば、村での子供たちのお手伝いに現金は渡していない。
それがいけなかったか。
いや、褒賞メダルを年に一回、働いた量に応じて渡している。
あれが労働の対価になると思うのだが……
「次の品から、百番までシークレットになります。
出品番号、九十番。
<緻密な細工が施された石製のメダル>
ただの石製のメダルと侮ってはいけません。
なんとこのメダルの素材は、“死の森”でしか採取できないとされる死白石です。
希少な死白石を、なぜこのメダルの形に加工したのか。
そして施されている細工ですが、片面は大きな木。
青々とした大樹です。
もう片面は農業神。
神々しさを感じさせる見事な細工です。
どうやってこの精巧な細工を施したのか。
謎の多い一品です。
銀貨一枚からスタートです」
えっと……あれ、褒賞メダルだよな?
隠し図柄もあるし。
通しナンバーから……
ラミア族に配った褒賞メダルだ。
そういえばラミアたちが、ドライムの巣で働く悪魔族から強請られ、物々交換したと言ってた覚えがある。
あれか。
その報告に来たラミア族は恐縮していたし、少しあとになって交換を知ったグッチが謝罪に来たが、渡したあとの褒賞メダルは自由にして問題ない。
飾ろうが、売ろうが自由だ。
それがどういった経緯を辿ったのか、このオークションにかけられることになったと。
それはかまわないが、褒賞メダルは大樹の村以外では価値がないと思うのだが……
「十五枚!」
「十六枚!」
「十七枚!」
価格がどんどん上がっている。
えっと……魔王、不参加じゃなかったのか?
ビーゼル、欲しいなら何枚か渡すぞ?
転移魔法でいつも助けてもらっているからな。
だから参加をやめるように。
ヨウコ、ティゼルに札を上げさせるのをやめてくれないか?
ティゼル、一気に値を上げるんじゃない。
「三十二枚!」
「さ、三十三枚!」
「三十五枚!」
このテーブル以外の者にも、熱心な者がいる。
確かに褒賞メダルは自信作だが、そんなに欲しいか?
大樹の村に関わらないと、ただの飾りにしかならないと思うが?
……
なんだか慌ててるな?
どうしたんだ?
予定よりも高くなってしまったのか?
「三十七枚!」
「三十八枚!」
「四十枚!」
だが、降りないようだ。
「四十五枚!」
「四十六枚!」
うーん、競ってるなぁ。
自分の彫ったメダルを評価してくれるのは嬉しいが、こそばゆい。
「五十枚!」
「……ご、五十一枚!」
俺が競り落とすのはどうだ?
自分の彫ったメダルを、自分で回収?
無駄な出費だな。
お金には困っていないが、村の財産。
無駄使いはしたくない。
「六十枚!」
「六十一枚!」
「銀貨、百枚!」
テント内が静まった。
いままで不参加だったテーブルから、声が上がったようだ。
聞き覚えのあるあの声は……
ルーだ。
ティアもいる。
リアとアンが、その横に控えている。
いつの間に?
いや、それよりもルーたちには毎年、数枚渡していると思うのだが?
そんなに欲しかったのか?
疑問に思っていると声が上がった。
「ひゃ、百一枚!」
テント内から歓声が起きる。
商人風の男性が頑張るようだ。
「二百枚!」
しかし、ルーが押し潰しにいく。
商人風の男性は、さすがに困ったようだ。
予算オーバーなのだろう。
そこに、ルーが止めとばかりに声をあげた。
「銀貨千枚!」
決着。
次の品のオークションが始まった。
そのあいだに、俺はルーたちを自分のテーブルに呼ぶ。
ティゼルがティアに甘えようとするが、魔王と繋がれている紐に邪魔される。
紐は俺の命令じゃないぞ。
アルフレートたちだ。
それよりも、褒賞メダルを落札する必要があったのか?
「褒賞メダルの外部での価値を固めようと思って」
確かに、このオークションで付いた値が基準になるだろうけど……最後、上げ過ぎじゃないか?
「褒賞メダル、一枚で銀貨千枚。
金貨で十枚分。
わかりやすいかなと」
あれ、俺の手作りなんだけど?
しかも日に百枚以上作れる。
価値観が崩壊する。
「まあまあ。
それより、次は私たちの出品物よ」
そうなのか?
「出品番号、九十五番。
<蛇酒>
その名の通り、蛇をお酒に漬け込んだものですが……ただの蛇ではありません。
この大樽の中には、五メートルサイズのブラッディバイパーがお酒に漬け込まれています。
ブラッディバイパーは本物です。
鑑定士の鑑定結果があります。
これを造ったエルダードワーフがいうには、酒の味はまあまあ。
蛇酒に求める効果は……凄いそうです。
ちなみに、中の五メートルサイズのブラッディバイパーを取り出し、販売すれば最低でも金貨五十枚になります。
ゴロウン商会が買い取ります。
遠慮なく売ってくだ……失礼しました。
これは金貨五十枚からスタートします」
……
誰も札を上げなかった。
お酒分、得なのに。
「最後の品です。
出品番号、百番。
<グラップラーベアの全身の骨>
そのままですね。
グラップラーベアの骨です。
全身、全部揃っています。
魔石もあります。
鑑定士の鑑定結果は本物です。
えーっと、こちら金貨二百枚からになります」
……
誰も札を上げなかった。
これは仕方がない。
骨だもんな。
結局、俺たちの出品物は誰も落札しなかった。
恥ずかしい。
そして、九十五番から百番までは俺たちの出品物だったので、最後は盛り下がった。
マイケルさんに悪いことをした。
お詫びに、グラップラーベアの全身の骨をプレゼントしよう。
魔石だけでも、それなりの価値があるらしいから。
魔石で思い出したが、今回のオークションでは魔石の出品が多かった気がする。
「ああ、それはダルフォン商会の専売がなくなったからよ」
ルーが教えてくれた。
これまで、魔王国での魔石の売買はダルフォン商会の専売だった。
それが少し前に、専売を解除されたそうだ。
だから、個人で所有していた魔石を手放す者が増えたそうだ。
なるほど、それでか。
魔王とティゼルが、ニヤニヤしているが……関わりがあったりするのか?
「こちらから言ったわけではない。
ダルフォン商会が、自分から言い出したのだ」
「そうそう。
びっくりしちゃった」
演技っぽい。
舞台にマイケルさんが登場し、オークションの閉催が宣言される。
開催時に比べて、静かなものだ。
同時に、マイケルさんに詰め寄るほかの参加者たち。
なにかトラブルだろうか?
「オークションの終わりによく見る光景です。
落札されなかった品の売買交渉でしょう」
ビーゼルが教えてくれるが……落札されなかった品の売買交渉って、かまわないのか?
「問題ありません。
高額の品の、一ヶ月以内の支払いに困ったのでしょう。
売買交渉はその支払い期間の延長などの条件を加えて、最初の提示額以上で取引されるでしょうから」
なるほど。
つまり、俺たちの出品物が売れる可能性があると。
それじゃあ、グラップラーベアの全身の骨はまだプレゼントはできないな。
残念。
参加者「金貨五十枚(五億)とか金貨二百枚(二十億)の支払いを、一ヶ月以内でやれと言われても困る」
(本拠地に移動するだけでも、時間がかかるので)
お詫び。
勘違いしておりました。
<緻密な細工が施された木製のメダル>
↓
<緻密な細工が施された石製のメダル>
に修正しました。