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オークション


 オークションのりは、野球の内野……よりも少し広いぐらいのテントの中で行われる。


 テントに入るというか、オークションに参加するには招待状が必要。


 ガルフが俺の招待状を受付に渡す。


 魔王も同じように招待状を渡している。


 招待状の代わりに渡されたのが、人数分の札。


 テントを出入りする際に、必要だそうだ。


 ビーゼルの転移魔法は、どうするのだろう?


 こういった場では使わないのがマナーなのね。


 なるほど。


 まあ、テントだ。


 出入りしようと思えば、自在にできるか。



 テントの中には、いくつかの椅子とテーブルが置かれている。


 グループ単位で集まれるようにだな。


 どこに座ろうか迷っていたら、メイドさんに案内された。


 中央の一番大きな場所だ。


 別の場所にしてほしいなと思っていたら、魔王たちも同席するようだ。


 ならば、問題なし。


 ティゼルと一緒だから。


 テーブルには、ナンバーが書かれた札が二つ、置かれていた。


 俺と魔王の札だ。


 競りに参加する場合、このナンバーを掲げるらしい。


 俺が持とうとしたら、ダガが持った。


 こういったのは、本人ではなく使用人が持つそうだ。


 別にかまわないが、魔王は自分で持ってるぞ。


 ビーゼルはビーゼルで、競りに参加するから?


 なるほど、ビーゼルは自分用の札を案内してくれたメイドさんにお願いしている。


 ビーゼルも自分で持つみたいだ。


 ……


 俺の提案。


 魔王の札をガルフが持つ。


 ビーゼルの札をダガが持つ。


 そして、俺の札をティゼルが持つのはどうだろう?


 反対意見は、ヨウコだけだった。


 ヨウコもなにか役目が欲しいそうだ。


 そう言われても困るが、ヨウコにはアドバイスをお願いしよう。


 正直、俺には出品物の良し悪しや相場はわからないからな。




 オークションの注意は、一つ。


 落札した出品物の代金は、三十日以内に支払うこと。


 それだけだ。


 これを守らないと、オークションの主催者に預けている保証金が没収される。


 ……保証金?


 そんなの預けたっけ?


 銀貨三十枚だそうだけど?


 ある程度の立場の者は、保証金は免除されるのだそうだ。


 魔王やビーゼルが免除されているのはわかるが、俺は免除されていいのかな?


 まあ、このオークションはゴロウン商会の主催だから、気を使ってもらったと思おう。


 落札したら、ちゃんと払うし。


 ちなみにだが、支払いを物品で支払うのはセーフだが、落札後の値引き交渉はマナー違反だそうだ。


 覚えておこう。




 ほかの参加者も集まり、オークションが始まった。


 まず、音楽が流される。


 そして、その音楽に合わせ、空けられていたスペースに外から運び込まれた舞台が素早くセットされる。


 事前にセットしないのは、不審者が潜んでいないアピールだそうだ。


 音楽が止り、マイケルさんが登場。


 舞台の上で、挨拶を行う。


 参加者に魔王や貴族がいるからか、かなり丁寧な挨拶だ。


 勉強になる。


「今回は、出品番号一番から百番までを競っていただきます。

 欠番は、十一番、二十四番、五十二番です」


 欠番とは、なんらかの事情で出品を取り消すこと。


 輸送中の出品物の破損などが、多い理由だそうだ。


 どこかから、うめき声が聞こえる。


 狙っていた品が欠番だったのだろう。


「開始は一番から行います。

 シークレットは十の倍数番号と、九十番以降です」


 シークレットとは、詳細が公開されていない出品物のことだ。


 こういったお楽しみ的な出品物を挟まないと、ダレるのだそうだ。


 オークションでダレるのかな?


 まあ、長くやってきた工夫なのだろう。


 ところで、展示を見回っていたときに魔王に言われた番号は七十番だったはず。


 ……


 シークレットの内容を知っているのは主催者側と出品者だけだから、魔王かビーゼルの出品物なのか?


 違うっぽい。


 知り合いが出品したから、知ってただけと。


 そうでしたか。


「では、最後に」


 マイケルさんが、咳払いをした。


 挨拶の締めだろう。


「金はあるかぁぁーっ!」


 え?


 俺は呆然としてしまったが、魔王たちは大きな歓声で応えていた。


 さらにマイケルさんが続ける。


「欲しい物はあるかぁぁー!」


 おおおおおっ!


「どうしても手に入れたいかぁぁぁっ!」


 おおおおおおおおおおおおっ!


「邪魔する者には、かねの詰まった袋で殴ってやれ!」


 おおおおおおおおおおおおおおおおっ!


「これよりオークションを始める!!」


 おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!


 ……


 俺が考えていたオークションのノリとちょっと違う。




「出品番号、一番。

<グルグラント山で採掘された星輝石ほしきせき

 量は一瓶。

 銀貨十枚からお願いします」


 舞台の上の進行役……競売人と呼ばれる者がスタートの鐘を鳴らすと競り開始。


「銀貨五十枚」


 札を上げて値段を言い合う……のだが、誰もきそいにいかない。


 競売人が鐘を鳴らし、終了。


 うーん、木槌を叩いてほしいなぁ。


 今度、マイケルさんに提案してみよう。



「出品番号、二番。

<グルグラント山で採掘された星輝石ほしきせき

 量は一瓶。

 銀貨十枚からお願いします」


 あれ?


 同じ品だ。


「まとめて出品すると、値が高くなり過ぎて買い手が出ない可能性がある。

 だから、小分けにしておるのだ」


 ヨウコが教えてくれた。


 なるほど。


「銀貨五十枚」


 誰も競わず、先ほどと同じ者が落札した。



「出品番号、三番。

<グルグラント山で採掘された星輝石ほしきせき

 量は一瓶。

 銀貨十枚からお願いします」


「十二枚」


「十三枚」


「二十枚」


「二十三枚」


「三十枚」


「三十五枚」


 先ほどまでと違い、これは競われる。


 しかし、一番、二番を落札した者は不参加のようだ。


 どうしてだろう?


 今度は、ビーゼルが教えてくれた。


「一番と二番を落札したのは、大手の魔法工房の関係者です。

 資金力を考えれば、競うのは愚かでしょう。

 なので、一番と二番を譲る代わりに、三番は手を出さないように事前に打ち合わせしたのではないかと」


 事前打ち合わせってありなのか?


 ありらしい。


 ただ、それで不当に安く買うと余計な恨みを買うので、相場に少し上乗せした金額で落札するのがマナーらしい。


 三番は百三十枚で決着した。



 時間がかかると思ったオークションはテンポよく進んでいく。


 打ち合わせがあるからなぁ。


 ほとんど競われない。


 ちょっとがっかり。


 シークレットがなければダレるのも納得だ。


 シークレットはほどよく競われ、活気がある。


 しかし、ガルフが魔王の札を上げたら終了するのはどうなのだろう?


 誰も魔王と資金力で競おうとは思わないか。


 だからか、魔王は参加も遠慮がちというか最初に落とす品数を宣言している。


 三品。


 なので、魔王は六十五番の品を落札したところで、ガルフに札を逆さまに持たせた。


 もう参加しないとの意思表示だそうだ。


 ちょっと安堵した空気がテント内に流れる。


 シークレットで欲しい品が出てもいいのかな?


 あ、ビーゼルが代わりに落とすと。


 なるほど。


「お父さま、お父さま。

 私も札を上げたい」


 そうだな。


 そろそろ、魔王の言ってた七十番だ。


「ティゼル準備だ」


「うん。

 金額も私が言っていい?」


「大きな声で言わないと駄目だぞ」


「頑張る」


 ふふふ。


 かわいいなぁ。


 おっと、見惚れてはいけない。


 七十番はなにかな……


「次はシークレットになります。

 出品番号、七十番。

<農業日記>

 とある貴族の蔵から発見された約七百年ほど前の品です。

 作者はロガット=マースリーン。

 有名な農業研究者ですね。

 彼が作り上げた多種多様な畑との日々が、つたないながらも細かく書かれています。

 農作物の研究資料としての出品ですが、読み物としても楽しめる品でしょう。

 一部、いたみと汚れがありますが……読めない部分はありません。

 ページも欠けていませんが、裏表紙に後年に書かれたであろう文字列があります。

 文字列とは申しましたが、既存の文字ではないようで私どもでは解読できませんでした。

 落書きの可能性もあります。

 銀貨十枚からお願いします」


 ……


 なるほど。


 俺がほしがる品とは、農作物の研究資料か。


 確かに欲しい。


 欲しいが、俺が気になったのは裏表紙にある一文。


“この本に、たねの隠し場所をしるした”


 読めてしまった。


 種?


 なんの種だろう?


 気になる。


 気になったのだから、落札するしかない。


「十三枚」


「十五枚」


「お父さま、ライバルは二人のようです。

 どこまで頑張ります?」


「落札するまで」


「では……銀貨百枚!」


 ティゼルがそう叫んで決着した。


「銀貨百枚は金貨一枚ですよね。

 安く済みました」


 俺も自信があるわけではないが、子供たちの金銭感覚に関して改めて考えることにしよう。


 そう思った。






遅くなりました。


何度目かですが資料です。

●日本通貨換算イメージ(厳密には物価が違います)


 小銅貨 =        10円/十円

 中銅貨 =       100円/百円

 大銅貨 =     1,000円/千円

 銀貨  =   100,000円/十万円

 金貨  =10,000,000円/一千万円


銀貨百枚=一千万円! みたいな感じです。


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― 新着の感想 ―
てぃぜるの金銭感覚が怖い
2025/08/18 12:42 いつもの景色
金袋で殴れって司会が言ってたんだし、いいんじゃないかな……(白目)
[一言] 競にならない、金貨の暴力
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