夏の散歩
工作室。
山エルフたちの大半が五村に行っているので、工作仲間がいなくて少し寂しい。
しょんぼりしながら工作をしていると、クロとユキが甘えてきたので角を避けて頭を撫でる。
よしよし。
工作はここまでにして、外でボール遊びでもするか。
……
外は暑いから嫌と。
気持ちはわかるが、野生はどこにやったのかな?
わかったわかった。
それじゃあ、屋敷のホールで遊ぶか。
あそこなら涼しいし広い。
……
屋敷のホールには、大量の荷物が積み上げられていた。
これはなんだ?
ああ、山エルフたちが作った部品ね。
五村から運ばれてきたのか。
山エルフたちが五村に行っているのは、工房を立ち上げるためだ。
山エルフは現在、商品の研究、開発、量産を行っているが、その量産部分を外部に委託したいとの考えなのだが……
そうそう山エルフたちの技術レベルを持った職人はいないし、いても手が空いていない。
なので、職人希望者を集めて山エルフたちが指導している現状。
その指導の一環として造らせた部品が、目の前の山なのだろう。
山エルフたちの検品を潜り抜けただけあって、品はいいが……
同じ部品だけ、これだけあってどうするんだ?
山エルフたち、数の調整をせずに発注しているな。
まあ、どれだけ合格するかわからないから、仕方がないとは思うが……
夕食のときにでも、確認しておこう。
とりあえず、いまはクロとユキだ。
大量の荷物があるので、ホールで遊ぶのは厳しい。
どうする?
クロとユキに聞くと、クロは部屋でゴロゴロ。
ユキはため池の外周散歩を提案してきた。
さて、どっちにするか……
ユキの説得で、クロもため池の外周散歩ね。
了解。
俺は外出用の麦わら帽子を被る。
クロとユキも被っておこう。
去年作ったクロたち用の麦わら帽子はボロボロになってしまったので、新しく作った分だ。
似合ってるぞ。
ため池の外周には、ポンドタートルたちが並んで日向ぼっこしていた。
大小合わせて十二匹。
これで全部じゃないだろうけど、増えたな。
小さいのは、今年生まれた子かな?
ああ、そのまま日向ぼっこを続けてかまわない。
ポンドタートルを避けて散歩するぐらいは大丈夫だ。
俺はクロとユキを従え、ため池の外周を散歩する。
ため池のそばなので少し涼しい。
あ、ポンドタートルが魔法でため池に氷を浮かべているのか。
日向ぼっこを続けてかまわないと言ったのに。
ありがとう。
ため池の北側にある、小さな池はリザードマンたちの産卵場所。
柵が作られており、簡単には近付けない。
いまは卵がある時期ではないが、不用意に近付いていい場所じゃないだろうから迂回する。
ため池の西側に到着すると、クロの子供たちが数頭、出迎えてくれた。
村の外周を警備していたのだろう。
ご苦労さまと褒める。
……
クロの子供たちが、クロとユキの被っている麦わら帽子を羨ましそうに見ている。
見ている。
……
わかった、あとで作ろう。
ただ、全員には無理だからな。
交代で被るように。
西側には水路と、川に向かう道がある。
水路にはスライム用のプールがあり、そこで水を浄化しているのだが……
スライム用のプールには、スライムが溢れていた。
スライムも暑いのだろう。
交代で入るように。
川に続く道は、整備されていて綺麗だ。
ん?
この足音は……
ケンタウロス族たちだな。
そろそろ定時連絡の時間だったか。
定時連絡にやってきたケンタウロス族は、いつも通り三人。
俺に挨拶し、異常なしと報告して、そのまま屋敷に向かった。
屋敷では、定時連絡を受け取る役目の者が待っているからな。
俺がここで引き止めてはいけない。
定時連絡のケンタウロス族が行ったあと、二頭のクロの子供が姿を現した。
定時連絡のケンタウロス族を護衛していたのだろう。
ご苦労さま。
俺は定時連絡のケンタウロス族を追いかけるように道に沿って移動。
道はため池の南側にある居住エリアに続く。
ため池の外周からは少し離れるので、氷を作ってくれていたポンドタートルに感謝を伝えて別れた。
居住エリアでは、外を歩いている者は少ない。
この時間は、大半がプールに行っているのだろう。
残っているのはザブトンの子供や、世界樹の蚕、あとはニュニュダフネ。
ニュニュダフネは暑さに強いからな。
だが、あまり無理はしないように。
お前たちに帽子は……逆に辛いか。
そうだよな。
え?
網目の粗い麦わら帽子なら大丈夫?
一村産の麦わら帽子はきっちりしているから駄目?
俺が作った麦わら帽子なら大丈夫と。
催促が上手だな。
わかった。
いま、作ってるのがあるからあとで持ってこよう。
ザブトンの子供や世界樹の蚕は……風通りのいい場所を知っているのか。
涼しい場所で昼寝中と。
本格的な活動は、日がもう少し傾いてからか。
なるほど。
昼寝の邪魔をして申し訳ない。
居住エリアを横断して、屋敷に戻ろうとすると向こうから子供たちとハクレン、それとヘルゼがやってきた。
ヘルゼはマークと一緒に村に来てから、ずっといる。
村を気に入ったのか、帰らない。
なのでマークも、村に残っている。
マークは夏場で暑いのに、温泉地に入り浸っている。
子供たちとハクレンは、午前の勉強が終わったからプールに向かうのだろう。
ヘルゼはそのお手伝いかな。
ヘルゼが持っているのは分厚い本。
見かけない本だな。
そう思っていたら、ヘルゼがクロとユキを見ながら本をめくった。
「やっぱり」
ヘルゼが新しい発見をしたようで、嬉しそうにハクレンに報告していた。
なんでも、クロとユキは普通のインフェルノウルフではないそうだ。
正確には、クロは王を統べる者、ユキは王を統べる者の妻と呼ばれる存在らしい。
なかなか仰々しい名前だ。
麦わら帽子ではなく、王冠を被せるほうがよかったかな?
ちなみにだが、クロの最初の子供とそのパートナー……
クロイチ、クロニ、ウノ、クロヨンはインフェルノウルフ・キング。
アリス、イリス、クロサン、エリスはインフェルノウルフ・クイーンだそうだ。
なるほどとは思うが、クロの子供たちはクロの子供たちだ。
俺は差をつけたりはしないぞ。
俺はハクレンたちと別れ、屋敷に到着。
やっぱり、屋敷の中は涼しい。
ホールでは、戻って来ていた山エルフたちが荷物を倉庫に運んでいた。
山エルフのヤーが、俺に報告する。
「やはり、スライダー式硬貨計算機は私たちだけで作ることになりそうです」
そうか。
なかなか楽にはならないな。
だが、なんでもかんでも量産を外部に委託するのはよろしくない。
安易に技術を広めるのは危険だと、文官娘衆たちからも注意をされている。
頑張ろう。
山エルフたちは、荷物を片付けるために一時的に戻ってきただけで、半数はまた五村に戻るそうだ。
残りの半数で、スライダー式硬貨計算機の量産を始めると。
わかっている。
俺も手伝うよ。
クロ、ユキは……俺についてくるのね。
かまわないぞ。
ああ、その前にニュニュダフネに先に麦わら帽子を届けないと。
クロの子供たち用の麦わら帽子も作らないといけなかった。
……頑張る。




