ウィルコックス
ワシの名はウィルコックス。
エルダードワーフの一人だ。
村長からはドワーフと呼ばれている。
村長からすれば、エルダードワーフもドワーフも同じということなのだろう。
ひょっとしてドノバンの最初の自己紹介がまずかったのかもしれないが。
もう慣れた。
問題ない。
夕食のあと。
ワシは外に出る。
昼よりは涼しくなっている。
風もあって気持ちがいい。
外はまだ明るいが……すぐに暗くなるだろう。
今の季節は、星空が綺麗だ。
それを待つのも、なかなか楽しい。
ワシは村の要所に設置されている丸太の椅子に座り、目の前の丸太のテーブルの上に荷物を置いた。
荷物は米から造った酒と鬼人族メイドの一人が用意してくれたいくつかの三角のおにぎり。
おにぎりに具はなく、塩だけの味付けだ。
これはワシのリクエストで、鬼人族メイドがケチったわけではない。
そのおにぎりを一口。
そして、用意した小さなコップに、米から造った酒を注ぎ、飲む。
……
ワシ、この瞬間のために生まれたのかもしれないなぁ。
そう思っていたら、ワシの前にドノバンがきた。
ドノバンは黙って、ワシの向かいにある椅子に座る。
そして、そっとテーブルの上に置いたのは……
「大根の漬物と、キュウリの浅漬けだ。
おにぎりも悪くはないが、米の酒にはこっちだろう」
まったく、なにを言ってるのやら。
塩のおにぎりにかなうわけがなかろう。
まあ、漬物は漬物でおいしいが……腕を上げたな。
ぬか床を作り直したのか。
ドノバンが持っているコップに、米から造った酒を注いでやる。
塩のおにぎりもまだあるから、試してみるがいい。
あ、こら、おにぎりは半分に割らずにそのまま齧るのだ。
一口で食うのも駄目だぞ。
味わうのだ。
米と塩、そして酒のハーモニーを。
ドノバンの次にやってきたのは村長だった。
村長は持ち運べる火鉢……七輪だったかな。
その七輪で何かを炙り始めた。
……
匂いでわかった。
「それはずるい」
ドノバンがそうぼやく。
まったくだとワシも同意する。
村長が炙っているのは、鮭の皮だ。
季節的にはまだ早いから、去年の鮭だろう。
普通は味が落ちるのだが、村長の食に対する意欲はそれを許さない。
冷蔵、冷凍の魔道具をフル活用して、去年の鮭でもおいしくいただけるようにしている。
ワシにはよくわからんが、真空パックとやらも使っているらしい。
さすが村長だ。
しかし、村長。
「皮はそれだけなのか?」
つい、聞いてしまった。
仕方があるまい。
鮭はかなり巨大なのに、村長が炙っている鮭の皮は少しだけなのだから。
ああ、ドラゴンたちが食べたのか。
主にドースさまね。
文句は言いにくい。
ドースさまたちは村で自由に飲み食いするが、その分の代金はきっちりと支払っている。
酒造りにも機材面で協力してもらっている。
残念だが、鮭の皮は今ある分で我慢しよう。
ワシ、ドノバン、村長で飲んでいると、酒スライムがやってきた。
酒の匂いに引き寄せられたか。
いつもなら酒をわけてやるが、今日は何かを持ってこないと飲めない流れに……醤油?
酒スライムは醤油を持ってきていた。
どこから持ってきたのか。
村長が、醤油を受け取り、ワシの前に残っている三角のおにぎりをみた。
そして、七輪をみる。
あれか。
焼きおにぎり。
酒スライムも参加となった。
酒スライムの次は……ヨウコ殿か。
五村でのお勤めは、大したものだと素直に褒められる。
ワシにはできん。
しかし、ヨウコ殿。
今宵の席は何か一品を……
お櫃?
中は炊いた米か。
ワシの塩のおにぎりと被るな。
違う?
まず、小さな器に炊いた米を入れる。
次に、米で作った酒を温めるのか?
熱燗というやつか?
夏の暑い夜に熱燗はチョイスミスではないか?
そのまま飲むためじゃない?
じゃあ、どうする……炊いた米の入った器に、熱燗を注ぐだとぉっ!?
酒茶漬け。
それは美味いのか?
味が想像できん。
ヨウコ殿は、全員の前に酒茶漬けを置いた。
最初に手を出したのは酒スライム。
続いてドノバン、村長。
うぬっ、遅れてなるものか。
ワシも手を伸ばした。
……
「好みが分かれるところだな」
冷たい米に冷たい酒も試してみたい。
星空のもと、ワシたちは酒と肴を楽しんだ。
あ、村長は奥さんたちに連れられて、途中退場したけど。




