ゴーレム
自分の屋敷で、俺は考える。
村の住人たちから、俺は考えなしで暴走すると思われていないだろうか?
そんなことはない?
ほんとうに?
ただ、今回の件は俺を煩わせる前に終わらせたかっただけ?
それはそれでありがたいが、相談はしてほしかったと思う。
あの映像を見てすかっとした気持ちは確かにあったが、あとあと考えると城に住んでいた人は大丈夫かなとか、鉱山もったいないなとか色々と考えてしまう。
とくに山脈を融かしたのは、大丈夫なのか?
気候とか変わってしまうのではないか?
そんな心配をしてしまう。
ただ、俺に相談したとしても報復は絶対に必要という、村の住人の意見は変わらない。
ここできっちりと報復をしておかないと、また子供が狙われてしまう。
その点は、俺も納得しているからハクレン、ザブトンに文句を言ったりはしない。
気をつかわせて、逆に悪かったと謝っておく。
そして、普段と態度が変わらなかったのは見事だ。
しっかり見てるつもりだったのだけどなぁ。
クロイチ。
お前はわかりやすかった。
色々と遠慮していたもんな。
撫でられるときも、順番は後ろのほうだったし。
俺からも距離を取っていたな。
ああ、内容はわからなかったが、なにか隠し事をしていることには気付いていたぞ。
ちょっと心配していたが、アルフレートたちのことだったか。
すまなかった。
アルフレートやウルザが黙っていてほしいと言ったんだろう。
よしよし、念入りに撫でてやろう。
脇腹がいいのか?
ここか?
ここがいいのか?
ははは。
クロイチのパートナー、アリスもほっとしている。
アリスにも、心配をかけたな。
撫でるのは順番だぞ。
クロイチのあとでだ。
いまはクロイチを甘やかす。
翌日。
アルフレートたちの家の中に飾る、創造神と農業神の像。
それと、アルフレートたちを守るようにクロイチをモデルにした像を作った。
小型なので三つまとめて持ち運べるだろう。
次にビーゼルが来たら、運ぶのをお願いしよう。
気分転換。
ゴーレムとは、魔力で動く土や石などで作られた物のことを指す。
人型が主流だが、そうでないゴーレムも存在する。
そんなゴーレムには、大きく二つの種類がある。
瞬間的に作り出すタイプと、事前に組み立てるタイプ。
瞬間的に作り出すタイプのゴーレムのメリットは、運用と収納に優れていること。
必要な場所で役目に応じて形を変えて作り出し、役目を終えたら消せばいいのだから、たしかに便利だ。
そして、術者の技量があればあるだけ、複雑な命令も実行可能となる。
デメリットは魔法の技術的にかなり難しいことと、大量の魔力を必要とすること。
なので、あまり使い手がいない。
ティアは希少な存在だったようだ。
事前に組み立てるタイプのゴーレムのメリットは、魔力消費がかなり抑えられること。
デメリットは、必要な場所にまで運ばなければならないのでとても面倒。
ゴーレムは総じて重いので、なおさらだ。
それに、事前に用途を想定して組み立てているので、想定外には弱い。
あと、複雑な行動をさせにくい。
シンプルなことをさせるのが限界だ。
穴を掘るとか、岩を砕くなど。
荷物を運べというのは、ぎりぎりらしい。
それなりに弱点が多いけど、世の中に存在するゴーレムの大半は事前に組み立てるタイプだそうだ。
主な使われ方としては、防衛戦力。
指定の空間に侵入してきた者を排除する装置として、ゴーレムはよく使われているらしい。
さて、そんな組み立てるタイプのゴーレムが、俺の目の前にあった。
人型ではない。
何型と例えるのがむずかしい形。
箱に棒がついた感じだろうか?
山エルフの一人が説明してくれる。
「ゴーレムを構成する要素は、大きく四つ。
動力、命令受信装置、可動部、頭脳です」
動力は、そのまま動力。
ゴーレムが動く力の源で、魔力や魔石がそれにあたる。
組み立てるタイプの場合は、魔石が使われることが多い。
命令受信装置は、ゴーレムに命令を与えるための部位。
簡単に言えばスイッチ。
これは色々な種類があって、そのままスイッチもあれば、視覚で認識するものや、音声で認識するものなどがあったりする。
可動部は、ゴーレムが動く部分。
人型なら、手足など。
ゴーレムの目的が詰まっている。
最後の頭脳は、ゴーレムの行動を覚えさせる場所。
スイッチが入ったら、可動部を動かす。
もう一回、スイッチが入ったら、可動部を止める。
などだ。
たくさん覚えさせればさせただけゴーレムは応えてくれるが、この頭脳部分にも魔石が使われ、多く覚えさせるには大きな魔石が必要なのでコストが上がる。
動力と頭脳の魔石は共用される場合が多く、組み立てるタイプがシンプルな動きしかしないのは、それが原因らしい。
俺の目の前にある、箱に棒がついたゴーレムも小さい魔石が使われており、シンプルな動きしかしない。
山エルフの一人が、箱の前に硬貨を置いた。
小銅貨。
ゴーレムは無反応。
山エルフは小銅貨を取り、代わりに中銅貨を置く。
それでも、ゴーレムは無反応。
山エルフは中銅貨を取り、代わりに大銅貨を置く。
ゴーレムの棒が動いた。
山エルフは大銅貨を取り、代わりに銀貨を置く。
ゴーレムの棒が動き、元の位置に戻った。
「ご理解いただけましたか?」
山エルフの問いに、俺は頷く。
大銅貨だけに反応して、棒を上げるゴーレムらしい。
それがどうしたんだ?
そんなことを言ったりはしない。
俺はこのゴーレムの可能性を感じていた。
山エルフたちもだ。
三日後。
スライダー式の硬貨計算機が完成した。
スライダーに硬貨を流せば、小銅貨、中銅貨、大銅貨、銀貨、金貨、それぞれに反応するゴーレムがカウントする。
同時に、硬貨の仕分けも行う優れ物だ。
硬貨以外の物は戻す仕組みなので、ゴミをお金と数えることもない。
現在、二百回ほど実験をしているが、計算違いは一度も起きていない。
さらに三日後。
自動販売機ができた。
いや、自動販売機ゴーレムができた。
スライダー式硬貨計算機で投入した硬貨を数え、押されたスイッチに応じた商品とお釣りを出す。
とてもいいものだ。
「村長。
商品の展示スペースが必要ですね」
そうだな。
自動販売機ゴーレムは改良をさらに加えられた。
そうして完成した自信作の自動販売機ゴーレムだが……
ティアたちに見せると、技術の無駄使いと言われた。
人を一人雇えば済む話だと言われると……困る。
確かに、ゴーレムは比較的安価に作れているが、それでも人を雇うよりは高くついている。
小さい魔石でも、それなりに高いのだ。
だがしかし!
忘れてはいないだろうか?
ゴーレムは休まない!
一日中、販売してくれるのだ!
「夜は買う人も寝てます」
……
自動販売機ゴーレムは、不用品と評された。
だが、それはある程度、想定していた。
大樹の村では、硬貨が流通していない。
自動販売機ゴーレムが必要とされるのは、硬貨が流通している場所。
つまり、五村だ。
俺と山エルフたちは、自動販売機ゴーレムを五村に設置してみた。
「村長、設置したのはいいですが、なにを販売します?」
自動販売機と言えばジュースだが……飲み物の販売はまだ難しい。
食べ物も同じ。
保温に難がある。
素直に、野菜の販売にしてみるか。
「それだと野菜を販売しているお店に迷惑がかかりませんか?」
確かにそうだな。
では……なにがいい?
薬草とか薬は、自動販売機ゴーレムで売るのは少し抵抗がある。
ルーも、相手を見て売りたいと言っていたしな。
武器や防具も、相手に合わせた調整が必要だから自動販売機ゴーレムでの販売には向かない。
となれば……宝石とか?
売ってみた。
三日間、誰も買わなかった。
前を通るけど、通り過ぎるだけ。
値段、高すぎたか?
ゴロウン商会から仕入れた額、そのままなのだが……
三日目の晩、二十人ぐらいの集団が自動販売機ゴーレムを奪おうとしたので捕まえた。
馬鹿め。
見張っているとは思わなかったのか。
だが、自動販売機ゴーレムを価値あるものとして見たことには……
違う?
展示してある宝石狙い?
……
警備隊、連れて行け。
自動販売機ゴーレムが評価されるには、まだ研究を重ねる必要がありそうだ。
俺と山エルフたちは、挫けずに研究を続けようと誓った。
……
あ、そろそろ収穫なのでそっちを優先で。
本業を忘れてはいけない。
研究は収穫が終わって、次の畑を作ったあとでだ。
今週の頭、ちょっと風邪でダウンしてました。
季節の変わり目というか、気温の上下にやられたのでしょう。
みなさまもお気をつけて。