謝罪 70日目
ある日、ルーに誘われて出かけることになった。
行き先は魔王国の王都。
アルフレートたちが通う学園がある場所だ。
だが、目的地は学園ではなく王城。
なにかイベントでもするのか、大きいホールに通された。
ホールの少し高いステージの上に用意された椅子に着席。
俺の横にルー。
テーブルを挟んで向かいに魔王、アルフレート、ウルザ、ティゼル。
子供たちは元気そうだ。
ただ、緊張しているのかな?
笑顔が硬いぞ。
そして、ステージの下に文官、武官がずらっと数百人勢ぞろい。
ビーゼル、ランダン、グラッツ、ホウの四人もいる。
あと、土下座姿勢で微動だにしない……一団がいるのだけど、なんだろ?
謝罪だった。
学園に通うアルフレートたちが、問題に巻き込まれたらしい。
「申し訳ない」
魔王がそう言って、謝ってくれる。
だが、魔王が俺の子供たちの保護者になったわけでもないのだし、魔王はこの国の王なのだ。
子供たちをずっと見張っているわけにもいかないだろう。
俺としては謝る必要はないと言いたいが、子供たちが絡んでいる。
そう簡単に済ませられる話じゃない。
詳しい話を聞く。
詳しい話を聞いた。
簡単にまとめると、魔王国で混乱を起こしたい勢力があの土下座姿勢の一団を唆して、アルフレートたちを襲った。
どうしてアルフレートたちが狙われたかというと、それはルーの子供だから。
アルフレート以外は実子ではないが、ルーの子供で間違いない。
しかし、どうして魔王国で混乱を起こそうとしてルーの子供を狙うのだろうか?
その疑問にはルーが答えてくれた。
「直接、被害を与えるのはあそこの集団で、あれは魔王国を支える商会の一員なの。
アルフレートたちに被害があれば、私が商会、もしくは魔王国に攻撃すると考えたみたいね」
なるほど。
混乱を起こしたい勢力は、裏で隠れているからルーの攻撃は受けないと。
「そう考えたみたいよ」
ふむ。
「あと、アルフレートたちが私の子供だって情報は……私が発信源みたい」
発信源というか、事実だろ?
隠していなかったと思うが?
「隠していないけど、言い触らしてもいないのよ。
私を恨んでいる相手から狙われるかもしれないでしょ?」
まあ、そうだな。
ルーが言うには、長生きしているぶんだけ味方もいるけど、敵もいるそうだ。
だから用心していたルーなのだが、口を滑らした相手がいる。
「少し前に私が治療した某国の王子がいたでしょ?」
ああ、治療に指名されて行ったんだったな。
「結婚してくれと言われたときに、旦那と子供がいるって自慢しちゃったから」
その王子が情報を?
「その王子の付き人の一人がね」
ルーに子供がいるとわかれば、五村で情報収集すれば簡単にアルフレートたちに行き着く。
なるほど。
事情はだいたい、理解した。
いや、ごめん。
一部、理解できていない部分があるけど、それはあとでルーから聞くので……
この場を収めることを優先する。
アルフレートたちが襲われた場所は、王都の外。
魔王、悪くない。
襲おうとした人たちが学園に侵入していた。
これも魔王が悪いのではなく、学園の警備に問題があるのではなかろうか?
学園に警備強化をお願いする。
襲ってきた人たち。
すでにルーによって罰を与えられているらしい。
ならば言うことはない。
え?
あの人たち、ウルザの友達?
……
殴り合ったから友人的な感じ?
そうじゃなくて?
わ、わかった。
あとで挨拶しておこう。
ティゼルにも友達がいるのだったな。
そっちにも、挨拶に伺わせてもらおう。
こんな感じ?
結果、魔王は悪くない。
悪いのは、土下座姿勢の一団を唆した勢力だろう?
そっちはどうなっているんだ?
その勢力ってのが、ルーが治療した王子の国?
現在、その王子がクーデターを起こして政権を奪取中?
マルビットたちが協力してる?
そうなの?
王子はこっちの味方なんだな。
アルフレートたちを狙うように指示した王と大臣は捕まえてある?
いやいや、首なんていらないから。
その国の法で罰するように。
あと、俺じゃなくて魔王国に謝罪。
それでいい。
俺はルーと一緒に別室に行く。
最高級ホテルの一室みたいな場所で、落ち着かない。
……
とりあえず、言うべきことは言わないといけないので言う。
「ルー、今回だけだぞ」
「今回だけって?」
「誤魔化すな」
子供たちのトラブルなら、事前に俺に情報が入ってもおかしくなかった。
なのに、入ってこなかった。
謝罪したいなら、魔王が村に来てすれば済む話だ。
なのに、俺が呼び出された。
でもって、あの大きなホールで文官武官の勢ぞろい。
「謝罪を大々的にやることで、俺が怒らないようにしたんだろ?」
「……ごめんなさい」
「怒らないわけないだろ。
子供たちが狙われたんだぞ」
村から出すんじゃなかった。
腹の奥に怒りがある。
アサ、アース、メットーラはなにをしていたんだ?
子供たちを危険な場所に送り込むなんて……
いや、あの三人はお世話役であって護衛ではない。
制限するのは厳しいか。
八つ当たりだな。
事件の詳細をまとめた資料をもらったが、グラッツやゴールたちも頑張っている。
襲ってきた勢力が大きいのが問題だった。
それはどうしようもない。
だが、そんな勢力が放置されているとは……
ああ、なるほど。
俺の怒り先としては、魔王国になるのか。
それを避けるために、ルーは手を回したと。
アルフレート、ウルザ、ティゼルが魔王側に座っていたのも、魔王を庇うためか。
……
「ともかくだ、誤魔化されるのは今回だけだからな」
「うん、ごめんなさい」
「それじゃあ、怒っている俺をなだめるように」
「わかってる。
ほら、子供たちが来たわよ」
アルフレート、ウルザ、ティゼルが部屋にやってきた。
無事でよかった。
無茶はしていないな?
無理も駄目だぞ。
お前たちが強いのは知っているが、油断は駄目だからな。
俺は子供たちを抱き締めながら、少し涙した。
「ところでルー」
「なに?」
「今回の件、ティアやハクレン、ザブトンには伝えているのか?」
「ティアには伝えてるけど、ハクレンとザブトンには……アナタからお願い」
「難題だな」
魔王がこのあと、アースがやっているお店に連れて行ってくれるので、そこで対策を考えるとしよう。
襲撃者編、これで決着となります。
甘い判定かもしれませんが、主人公としては「子供たちが留学先でトラブルに巻き込まれた」感覚です。
怒りはすれども「留学先の国の大統領に全ての責任がある」とは、なりません。
また、子供たちを心配していますが、子供たちの行動すべてを肯定するわけではありません。
自分たちから王都を出た点、騎兵を倒した点は、子供たちのミスと見てます。
それらをひっくるめつつ、ルーが手を回したのを感じたので「今回は見逃す」となったわけです。
次回、メイド(本物)喫茶に行きます。