仰向け寝とトレント 61日目
動物の寝顔というのは癒されるものだ。
特に犬……ではなく、狼。
ベッドで仰向けになり、角でシーツを破ることを数回経験したクロは、体は仰向け、首は横向きという睡眠姿勢を習得した。
そこまでして仰向けに拘らなくてもと思うが、気持ちよさそうに寝ているので文句は言わない。
ただ、首を寝違えないか心配だ。
クロの子供たちでも、何頭かは仰向けで寝ている。
彼らは藁を敷いた場所で寝ているので、仰向けでも角で何かを傷つけることはない。
時々、寝ぼけて壁や床に角をぶつけて傷を作るぐらいだ。
姉猫、子猫たちは仰向けではあまり寝ない。
仰向けで寝ることがあるのは父猫のライギエルぐらいだ。
彼は上級者で、枕を使う。
この状態で寝ているときのライギエルは熟睡だ。
近くで子猫たちが暴れても寝続ける。
それゆえ、寝ているところを子猫にキックされたりすることが時々ある。
怪我してないか心配したら、なんと魔法で防御。
そのまま寝続ける。
寝ながら魔法を使っているのか、寝る前に防御魔法を使ったのかは知らないが、たいしたものだ。
そうしないといけない目に遭ったのかと思うと、涙がでる。
子猫たち。
ライギエルが寝ているのだから、暴れないように。
親子のじゃれあいかもしれないが、それはライギエルが起きているときにするように。
起きてたら駄目?
照れてるのか?
違う。
娘はむずかしいなぁ。
アイギスが仰向けで寝るのは、普通。
そういう生物だと俺は認識している。
牛や馬、山羊や羊で仰向けは……見たことがないな。
牧場エリアで働く獣人族の女の子たちに聞いても、見たことがないそうだ。
まあ、体のバランスを考えると仰向けで寝るのは無理だな。
いや、いいんだぞ馬。
挑戦しようとしないでくれ。
体を痛めるから。
仰向けで寝るのはこんなものかなと思っていたら、まだいた。
蜂だ。
あの例の丸々と太った蜂の女王が仰向けで寝ていた。
最初、死んでいるのかと思ってビックリした。
だが、そうではなかった。
仰向けでの熟睡だった。
最初はうつ伏せで寝ていたが転がって今の状態になったと。
周囲を守る兵隊蜂が、申し訳なさそうに俺に謝っていた。
謝る必要はないんだ。
それより、あの蜂の女王。
起き上がれるんだよな?
また回転して起きてる?
そうか。
丸々と太った蜂は蜂で、動きに工夫があるんだな。
褒めようとしたら、兵隊蜂に止められた。
甘やかさないでほしいそうだ。
そうか。
村を見て回って屋敷に戻ると、玄関に飾ったチェスのコマの前にクロヨンがいた。
前に俺が彫った、クロたちをモデルにした変わりコマだ。
クロヨンはことのほか気に入ったようで、暇さえあればその前にいる。
時々、キングのコマと同じポーズを取ったりしているが、それは見なかったことにしてあげるのが優しさだと思う。
こら姉猫たち、クロヨンをからかうんじゃない。
ん?
猫をモデルにした変わりコマを作れ?
なるほどなるほど。
羨ましかったのね。
かまわないぞ。
だが、キングは父猫のライギエルにするからな。
こらこら、急速に興味を失うんじゃない。
チェスのコマを作るための木材を調達に行こうとしたら、妖精女王に捕まった。
妖精女王はまだ元に戻らない。
大人バージョンのまま。
この姿だと、子供たちに好かれないので基本的に暇なのだそうだ。
それはわかったが、俺に甘味をねだらないでほしい。
鬼人族メイドに言えば、用意してくれるだろう。
少し前の鬼人族メイドたちは妖精女王にそれなりに厳しかったが、いまは甘やかしまくりだ。
理由は……伏せておく。
「村長が作る甘味を食べたいのよ」
そう言われると悪い気はしない。
妖精女王に団子を作ったあと、木材の調達を再開する。
木材は作業場にいくらでもあるが、ぴんっとくるのがなかった。
ぴんっとくるのは、大半を神像にしてしまったからな。
仕方なく、俺は森に移動。
クロの子供たち数頭が護衛についてくれる。
しかし、やはりぴんっとくる木がない。
これは少し時間がかかるかな?
もう少し、森の奥に入る。
……
トレントがいた。
でっかいトレントだ。
背の高さが十メートルはある。
幹の太さは、根元付近で……直径五メートルぐらいあるか?
五村の近くにいたトレントとは別の個体だな。
なんにせよ、護衛のクロの子供たちを解放してもらいたい。
でなければ、【万能農具】で木材になってもらうしかない。
……あれ?
このトレント、ぴんっとくるな。
チェスのコマにするのはもったいない。
立派な像が彫れそうだ。
女神像とかいいかもしれない。
こちらの考えが伝わったのか、トレントはクロの子供たちを解放してくれた。
害がないなら、手は出さない。
ん?
ニュニュダフネのイグに会いにきたのか?
五村周辺のトレントから話を聞いたと。
よくここまで来られたな。
わかった、イグのいる一村まで案内してやろう。
待てよ。
トレントの移動速度はどんなものなんだ?
巨大だから遅い……かと思ったら、俺が歩く速度とそう変わらなかった。
俺より速く移動することもできるらしい。
そうでなければ、五村周辺のトレントから話を聞いて、ここに来るには早すぎるか。
ただ、速く動けるのは森の中だけだそうだ。
それでも十分、凄い。
あ、川は駄目なのね。
橋も。
すっごく遅くなってしまうのか。
気にしなくていいから、頑張って渡ろう。
俺は一村までトレントを案内し、イグに引き合わせる。
旧友だったらしく、仲良く……二本の木が並んでいるようにしかみえない。
まあ、当人たちで伝わっていれば、問題ないか。
俺が一村から出ようとしたら、トレントから案内のお礼にと枝をもらった。
おおっ、ぴんっとくる。
枝は太いところで十五センチぐらいで、長さは一メートル五十。
サイズ的にもチェスのコマにしやすい。
ありがとう。




