戯(たわむ)れる 47日目
ドワーフたちが落ち込んでいた。
世界樹の葉を酒にしようとしたが、失敗したらしい。
「どうやっても水にしかならん!」
しかもその水は無味無臭。
ただの液体だ。
このままでも飲めることは飲めるが、砂糖と柑橘類を絞って投入すると飲みやすくなる。
妖精女王、飲んでいいから俺の背中を叩いて催促しないでほしい。
もうちょっと砂糖追加?
わかったわかった。
ザブトンの子供たちも飲むか?
どうぞ。
ところで、この水には何か効果があるのだろうか?
原料が世界樹の葉だから、回復効果?
「さあ?
飲んでみたが……疲労は取れたかな」
その程度か。
なら葉のまま使ったほうがいいだろう。
これ以上の生産は中止ということで。
「もう少し研究はしたかったが、仕方がない。
四村の新しい果実のほうを頑張るとしよう」
そういうことになった。
ああ、全部飲まないように。
少しは残してくれ。
俺が飲むんじゃない。
神様のところに奉納しようと思ったんだ。
疲労回復効果があるのだから、失敗作じゃないだろ。
望んだ成果がでなかっただけで。
わかった。
ちゃんとした酒も一緒に奉納しておくよ。
別に、その程度で神様は文句を言ったりしないと思うぞ。
創造神と農業神の像に、例の水と酒をお供えしたあと、俺はため池に行く。
ポンドタートルのいる最初のため池だ。
そのポンドタートルたちに、キャベツをプレゼント。
ちょっと収穫量が多くてな。
遠慮するな。
ポンドタートルたちは、あざっすと言いながら、キャベツを丸ごとムシャムシャと食べている。
豪快だな。
一匹、レタス派がいた。
いいぞ、レタスな。
かまわないが……いつ味を知った?
子供たちが食べさせたのね。
わかった、持って来るよ。
ハクサイも好み?
わかった、ハクサイも持ってこよう。
ポンドタートルにキャベツ、レタス、ハクサイを渡したあと、俺は後ろに控えているクロの子供たちをみる。
綺麗に整列して、次は僕たちですよねと待っている。
ポンドタートルにキャベツを与えているときから、集まり始めていた。
知ってる。
レタスとハクサイを取りに行ったとき、びっくりしたから。
えーっと、それじゃあどうしよう。
何か収穫物を食べる、一緒に狩りに行く、ボールなどで遊ぶ。
どれがいい?
全部?
素直だなぁ。
……
日暮れまで頑張った。
屋敷に戻って、俺はクロとユキの相手をする。
クロとユキは遠慮して、参加しなかったからな。
まあ、クロとユキだけでなく、役目を持ったクロの子供たちも不参加だ。
また別の日に開催するとしよう。
クロとユキのあとは、さっきからビシビシと俺の背中を攻撃してくる猫たち。
姉猫のミエル、ラエル、ウエル、ガエル。
子猫のアリエル、ハニエル、ゼルエル、サマエル。
魔王がいないときは、俺に相手をしろと迫ってくる。
少し離れた場所で、父猫のライギエル、母猫のジュエルが揃って申し訳なさそうな顔をしている。
姉猫、子猫たちを止めてはくれないんだな。
顔を逸らさないように。
猫たちと遊んでいると、獣人族の娘がやってきた。
牧場エリアで働いている獣人族の娘だ。
「すみません、村長。
牛が一頭、行方不明です」
牛?
「温泉地に行っていると思ったのですが、夜になっても帰ってきていないのです」
牛、牛、牛……あ!
クロの子供たちと遊んでいるときに、牛なら見かけた。
ため池の近くで寝てたはずだ。
「ため池の近くですね。
わかりました」
俺も手伝お……
猫たちに止められた。
「大丈夫です。
こちらで探しますので、村長はそのままで」
すまない。
見かけたのはため池の北側だ。
果樹エリア近く。
果樹エリアに入っているのかもしれない。
「わかりました」
三十分後、牛を無事発見したとの報告を受けた。
果樹エリアで迷子になっていたようだ。
一安心。
そして猫たちも俺に飽きたのか、解散になった。
次にやってきたのが、アイギスと鷲。
アイギスが、今日はこんな特訓をしたと俺に自慢し、それを鷲が温かく見守っている。
種族は違うが、親子のようだ。
いや、パートナーかな?
どちらにせよ、微笑ましい。
翌日。
妖精女王が大人バージョンでいた。
前に見たときより、大人っぽい?
だが、蔓はない。
どうしてだ?
「位階が上がったのよ」
位階?
「神に一歩、近付いた感じ……というのかしら」
「また急にどうして?」
「たぶん、昨日飲んだあれ」
「あれ?」
「世界樹の葉を使って作った水。
あれは神水よ」
「神水?」
「詳しくは貴方の妻に聞きなさい。
私から言えるのは、あれの生産は禁止。
わかったわね」
「ああ。
それよりも大丈夫なのか?」
「私は大丈夫よ。
少しすれば、いつも通りになるわ」
「それはよかった」
が、飲んだのは妖精女王だけじゃない。
ドワーフやザブトンの子供たちも飲んでいる。
「安心しなさい。
神水を飲んだからと、誰でも位階が上がるわけではないから」
「そ、そうか」
「問題があるとすれば、貴方よ」
「俺?」
俺はほとんど飲んでないぞ?
「そうではなくて、位階の上がった私が、まだ力を制御できないのよ。
それだけなら私の問題だけど、貴方はその影響を受けるから……」
また子供が増える可能性が高いそうだ。
「私の存在意義としては子供を生ませたいけど、子育ての大変さも知っているからね。
私が力を制御できるまで、情事を避ければ大丈夫だけど……」
「妻たちと相談するよ」
「そうしなさい。
それじゃあ、朝食をお願いできる。
甘いのがいいわ」
「甘くないのを頼んだことがあったか?」
「ないわね」
神水を飲んだドワーフやザブトンの子供たちに、特に変化はなかった。
よかった。
ただ、神様にお供えした神水は消えていた。
お供えを盗み飲むような者はいないだろうから……蒸発しちゃったかな?
大樹の木が元気なような気もするが、気のせいだろう。
感想、誤字指摘、ありがとうございます。
ポイント、ありがとうございます。
これからも頑張ります。
神水は、(ゲームで例えるなら)種族経験値増加アイテムみたいなものだと思ってください。
経験値が溜まると、レベルアップ進化。