野外学習と宴会と相談 45日目
昼過ぎ。
村の南側、森の近くにとある一団がいた。
ハクレン、グーロンデ。
村の子供たち。
クロの子供が二十頭ぐらい。
ザブトンの子供が五十匹ぐらい。
なんでも野外学習らしい。
それはわかるが、投石機はなんのために引っ張り出したんだ?
科学の要素が山盛り?
テコの原理とか、滑車の原理とか、なるほど……
だが、それだと実際に石を投げる必要があるのか?
弾道計算のため?
あと、子供たちの興味を引く必要があると。
うーん。
弾道計算は子供たちには早い気もするが……
安全には十分、注意するように。
次にヨル。
なぜここに?
温泉地の転移門の管理はどうしたんだ?
「兵装の管理は私の仕事です」
綺麗な目で言い切ったなぁ。
まあ、転移門の管理はそれほど忙しい仕事じゃないし、少しぐらいならかまわないか。
前任のアサも、転移門の管理をしながら色々とやっていたようだし。
それで、ヨルはここで……ああ、投石機を組み立てたのね。
発射も担当?
わかったわかった。
取り上げたりしないから、安全第一で。
でもって、最後に山エルフ一同。
色々な弾を抱えている。
それ、投石機で投げる弾だよな。
子供たちの勉強が優先だからな。
あと、毒とかガスを撒き散らす系はないだろうな?
そういったのは禁止だぞ。
大丈夫?
そのあたりは、ルーとティアに徹底指導されていると。
そうだったのか。
今度、ルーとティアに感謝を伝えておこう。
すっごい威力の大爆発が、投石着弾地点で起きた。
クロたちの角を超える威力だ。
俺は山エルフに説明を求めた。
「はい。
ただいまの弾は、ルーさま考案の連鎖式爆炎弾です。
爆炎の魔法を込めた石を適切に配置することにより、効果が相乗的に上昇するのです」
褒めてほしそうな顔で言わないでほしい。
あと、子供たち。
次を催促するのをやめて。
怒りにくくなるから。
ハクレンとグーロンデが魔法でガードしているらしいけど、心臓に悪い。
連鎖式爆炎弾はまだあるのか?
あと三発もある。
厳重に保管……するよりは、使い切ってしまったほうが安全だな。
全部、投げてよし。
ただし、以後の生産は禁止する。
「わかりました。
それでその……」
「なんだ?」
「連鎖式爆炎弾タイプⅡと、連鎖式氷結弾があるのですが……」
全部、使い切るように。
あ、まて。
タイプⅡはどれぐらい威力が向上しているんだ?
二割増し。
ハクレンとグーロンデの魔法でガードは……大丈夫と。
連鎖式氷結弾も大丈夫だな。
では、全部使い切るように。
類似品を含め、生産は禁止だ。
俺からも伝えるが、山エルフからもルーに伝えるように。
まったく。
あんな威力の爆弾を、なにに使うというのか。
さきほどの爆発で村の住人たちが集まってきた。
ドワーフたちが酒樽を担いでいる。
これは宴会の流れだ。
妖精女王もいる。
わかっている。
甘味だな。
キャンピング馬車がケンタウロス族に引かれてやってくるみたいだから、そこで作らせてもらおう。
子供たち優先だからな。
完成するまで、サトウキビでも齧っていてくれ。
投石機の投げた弾が激しい爆発音を響かせ、大歓声が起きる横で、俺はカレーを作っていた。
あれ?
甘味を作っていたはずなのに。
いや、確かに甘味を作った。
今日のメニューはドーナツだ。
子供たちだけでなく大人たちからの評判もよく、かなりたくさん作った気がする。
妖精女王は二十個ほど食べていた。
それから……
ああ、そうだ。
鬼人族メイドたちがドーナツ作りを交代してくれたので、代わりにカレーの下拵えを手伝ったのだった。
下拵えのはずが、いつの間にかカレー鍋を担当することになっているが。
鬼人族メイドたちが俺に気を使って、楽な仕事を回してくれたのかな。
あ、これ俺の分?
悪いね。
じゃあ、ちょっと休憩していただこう。
うん、美味しい。
外で食べるカレーは、どうしてこう美味しいのか。
「ここは気付けば宴会をしておるな」
カレーを食べていると、ヨウコがやってきた。
五村から戻ってくるには、まだ日は高いが……
そう言えば、五村でいくつかの相談事があると言われていた。
「すまない、忘れていた」
「なに、かまわんさ。
こちらに戻る口実ができた。
そこのドワーフ、我にも酒を」
ヨウコは酒とドーナツ、カレーを持って俺の横に陣取る。
「いま、投げているのは連鎖式爆炎弾か?
聞いていた話より威力があるな」
「タイプⅡだ。
知っていたのか?」
「爆炎の魔法の配置には、我も知恵を出した」
「そうか。
それで、五村の相談事とは?」
「うむ。
まずは五村での学園建設に関してだ。
村長の希望する、希望者なら誰でも入学できる学園の校舎は完成したのだが、教師が足りん。
ニーズとゴランドのツテで集めているが……開園にはまだ時間が掛かりそうだ」
ニーズは蛇の神の使いで、酒肉ニーズの店長代理。
ゴランドは五村の商人。
二人共、ヨウコに色々と協力してくれているので、助かっている。
今度、感謝の品でも贈ろう。
「教師が足りないなら仕方がないな」
「開園は住人から強く求められているので、早くなんとかしたい」
「そうだが……無理はするなよ」
「わかっている。
それと、麺屋ブリトアなのだが……」
「なにか問題でも?」
「ラーメンが人気で、弟子入りが殺到している。
それにともなって店舗の拡張をすると、店長代理とニーズから連絡を受けている」
「弟子入りが殺到?
ラーメンのレシピに関しては、公開してもかまわないと言ったと思うが」
「公開されたレシピを再現できる者がほとんどいなかったそうだ」
「そんなに難しいか?」
「材料の仕入れがな。
手に入らない材料を別の物で代用したラーメンでは……客が呼べないらしい」
まあ、目の前に代用じゃないラーメンがあればそうか。
「だから弟子入りだそうだ」
弟子入りして、認められたら支店を任される可能性がある。
その際、材料は本店から流すだろうから……
「なるほど。
店舗拡張はかまわない。
予算は?」
「預かっている金で足りている。
商人たちは、早々に支店の候補地を探しているぞ」
「麺屋ブリトアの横に出せばいいだろ」
「ん?
さすがにそれでは、商売にならんだろう」
「いや、味を変えればいい」
「醤油と塩以外にもあるのか?」
「いっぱいあるぞ。
ラーメン店を集中して出せば、ラーメン通りができる」
「ラーメン通り……そうか。
ラーメンを欲する者が集まる場所か」
「遠出できる人ばかりじゃないから、適度に散らすのもありだろうけど」
「麺屋ブリトアの行列は、それなりに問題になっている。
支店でも行列ができると考えれば、集めるほうが得策だな」
「そうか。
とりあえずは店舗の拡張を急いで、今のお客を捌くことを優先だな」
「わかった。
店長代理とニーズには、そう伝えておく。
次は地下商店通りの開発に関してだ」
俺はヨウコと五村の相談を進めていく。
進めながらもヨウコはなんだかんだと三杯目のお酒を飲んでいる。
コップが空くと、ドワーフたちがやってきて注ぐからな。
「おっと、ヨウコ」
俺はヨウコの後ろを指差す。
そこにはヨウコの娘のヒトエが狐姿でいた。
「仕方がない」
ヨウコはヒトエを膝に抱え、余っているドーナツを渡した。
仕事モードは終わりのようだ。
「今日はここまでにしようか」
俺がそう言ったところで、一層大きな爆発音が響いた。
なにごとかと投石機のほうをみると、ルーがいた。
期待した威力がでたようで小躍りしている。
周囲も大歓声だ。
まったく。
ルーの近くにいる山エルフが持っている弾が、いまの大きな爆発の正体だろう。
タイプⅢなのかな?
なんにせよ、保管するのも怖いので全部使うように。
あと、生産は駄目だぞ。
俺はルーにそう伝えた。
「鉱山の採掘爆破用なのだけど」
……くっ、ちゃんとした理由があった。
「さすがに、そうでなければ我は手伝わんぞ」
ヨウコの意見。
納得。
厳重な保管を考えよう。
更新が遅れて申し訳ありません。
リズムを取り戻せるように頑張ります。
また、更新が止まっているあいだの誤字脱字指摘、感想、ありがとうございます。
これからも頑張ります。




