王都での生活 アース編
前日にも更新しています。
一つ前のティゼル編を先に読んでから、読んでください。
私の名はアース。
死霊王さまによって生み出された土人形。
死霊王さまはウルザさまに変わられてしまったが、私にとっての主であることには変わりない。
この命、全てをウルザさまのために捧げる。
それが私の生きがいであり、使命!
「アース。
今日からティゼルについて、アサをサポートしてあげて」
え?
……
え?
ウルザさまのお言葉なのに、二回も聞き返してしまった。
そんなわけで、私はティゼルさま、アサと一緒に王都を歩いている。
王都を歩くなら、ウルザさまと一緒がよかった。
いや、ティゼルさまに不満があるわけじゃないんですよ。
ただ、忠誠心の方向というか……チンピラが絡んできました。
おかしいですね。
私とアサ、それにティゼルさま。
厄介そうに見えませんか?
それとも、服装だけで判断しているのでしょうか?
なんにせよ、ぶん殴ります。
相手の数は五人。
気絶させてもご近所に迷惑なので、痛めつけるだけにします。
「お、覚えてやがれ!」
陳腐な捨てセリフです。
私はそう思ったのですが、ティゼルさまがそう取りませんでした。
「“覚えてろ”というのは、“必ず復讐してやるから覚えていろ”ということよね」
衝撃でした。
確かにそうです。
その通りの意味です。
そして、相手はそれを口にしました。
つまり、それは私たちに復讐してやると言っているのです。
目が覚めました。
つまり、あのチンピラは敵。
殲滅すべき敵でした。
痛めつけるだけにせず、きっちりと息の根を……おっと、殺害はいけません。
殺しては、ウルザさまを讃える者が減ってしまいます。
生かして改心させ、ウルザさまを讃えさせるのです。
逃げたチンピラは、路地裏にある怪しい建物に入っていきました。
見た感じ、掃除してなさそうで入りたくありません。
ですが、チンピラを見逃すわけにはいかないので突入。
ティゼルさまから、意識があるのは一人で十分と言われたので、遠慮なく昏倒させていきます。
二十人ぐらいいますが、相手になりません。
ルーさまによって作られた魔粘土の肉体を得た私は、森の中でウサギを狩れるぐらいには強いのです。
数分で終わりました。
ティゼルさまの要望通り、一人は意識を保たせています。
「ゆ、ゆ、許してくれ……」
この場で一番偉そうな人を選んだつもりだったのですが、違ったのでしょうか?
必死に謝罪しています。
どうしましょうか?
とりあえず、判断をティゼルさまに任せます。
「アース。
中途半端は駄目よ」
中途半端?
どこがでしょうか?
少し考えてもわからなかったので、素直に聞きます。
「その男。
右足を折ってるけど、左足は無事じゃない」
ああ、なるほど。
「しかし、それだと無事な両腕とのバランスがおかしくなりませんか?」
「もちろん、両腕も折らないとね」
私は本気でしたが、アサに止められました。
「まあまあ、彼が協力的であるならこれ以上、痛めつける必要はないのでは?」
「アサ、甘い。
大甘よ。
こういう手合いは、今は謝っても必ず後で恨みに思うの。
だから徹底的に。
二度と逆らわないようにしないと」
私もその意見に賛同です。
この会話がよかったのでしょうか?
彼はとてもスムーズに私たちの質問に答えてくれました。
骨を折るのは許してあげましょう。
問題発生です。
このチンピラたちは、私たちを偶然狙ったのではなく、誰かに頼まれて狙ったそうです。
彼らに頼んだのは、トニーと名乗る男。
まあ、偽名でしょう。
前払いで、それなりの額を差し出したので引き受けたそうです。
なるほど。
なるほどなるほど。
放置できない明確な敵です。
ティゼルさま、喜ばないように。
いや、確かに私たちを狙う存在に気付けたのは喜ばしいですが。
わかりました。
そのトニーと名乗る男を突き止めましょう。
ええ、ほかのチンピラを雇って、同じようなことを繰り返されても迷惑ですから。
しかし、どうやって探しましょう?
チンピラへの連絡は、一方的だったそうですが?
「大丈夫よ」
ティゼルさまには何か手があるのでしょうか?
「手掛かりは、そこにいるから」
え?
……あ、窓から誰かが覗いている。
そして逃げた。
罠かとも思いましたが、私たちは追いかけました。
ティゼルさまの判断です。
逃げている彼が、トニーと名乗る男でしょうか?
それともただの連絡員?
とりあえず怪しい男Aと名付けましょう。
全力で走れば怪しい男Aに追いつけますが、ティゼルさまの指示で一度、見逃します。
泳がすわけですね。
そして、私がこっそりと追跡。
そういったことは得意ではないのですが……ウルザさまを追跡することに比べれば簡単です。
怪しい男Aは、二回ほど建物を素通りして、とある廃墟に入りました。
廃墟とは怪しさ満点です。
しかも、廃墟には地下があるらしく、下への階段を降りていきました。
アサとティゼルさまは、まだ到着していません。
どうしたものでしょうか。
地下に別の出口があれば、追跡は失敗となります。
ここに怪しい男Aの仲間がいたりすれば最高なのですが……
そう上手くはいかないでしょう。
私はアサとティゼルさまにだけ伝わるメッセージを残し、地下に向かいます。
「ここまで追ってくるとは……愚かな」
怪しい男Aは、地下の広い空間で私を待ち構えていました。
追跡、バレてたのかな?
ちょっと反省です。
そして、怪しい男は体を変化させました。
なるほど、怪しい男は人間や魔族ではありませんでした。
アンデッド。
リッチと呼ばれる死霊です。
怪しい男Aは指を鳴らし、地下にスケルトンを召喚します。
百はいないけど、五十以上はいる感じかな?
広い空間が、一気に狭くなりました。
「我が名はトニー=アルマージ!
死霊王が配下の一人!
そして、貴様に死をもたらすものだ!」
あー……本名を名乗っていましたか。
残念なかたのようです。
そして、死霊王の配下……
死霊王の……
…………
「なーんだ。
同僚でしたか。
すみません」
こんなところで会えるとは世の中、奇妙なものだ。
いや、最初に言ってくれたらこんな追跡もしなかったのに。
あと、彼が雇ったチンピラには悪いことをした。
どういった目的だったのか知りませんが、申し訳ない。
「ど、同僚?」
あれ?
理解されていない?
ああ、失礼しました。
自己紹介をしていなかった。
「死霊王が配下。
アースと申します。
私は西進トンネルを掘っておりました」
「トンネル?」
「はい。
貴方もトンネル掘りに参加していたのでは?
こう見えて、私は現場監督的なポジションにいまして……」
「なにをわけのわからないことを言っている!
死霊王さまがそんなことを命じるわけがないだろう!」
……
「トンネルをご存知でない?」
「知らぬ!
死ね!」
……
………………
ああ、なるほど。
騙りですか。
死霊王さまは有名ですからね。
なるほどなるほど。
ぶっ殺す。
私は廃墟の地下を清めながら、アサとティゼルさまの到着を待ちます。
地下には巧妙に魔法陣が隠されており、これでスケルトンを大量に召喚したのでしょう。
小細工ですね。
壊しておきます。
スケルトンぐらい、こんなものなくても呼べなくてどうするのですか。
私だって呼べますよ。
トンネル掘りには向かないので呼ぶことはなかったですが。
しかし、どうしましょう。
トニーがどうして私たちを狙ったかを聞く前に、消滅させてしまいました。
この地下に何か手掛かりがあればいいのですが……期待はできませんよね。
アサとティゼルさまが到着する前に何か手を考えなければ、二人に怒られてしまいます。
ん?
誰かが廃墟に侵入してきました。
アサとティゼルさまではありません。
数が多い。
二十人……二十一人、いや、二十二人かな。
統率は……あまり取れてない。
装備はバラバラ?
しかし、個々の動きは悪くない。
役割分担はしっかりできている。
つまり……冒険者だ。
「やはり、ここにいたか!
死霊王の配下め!」
えっと……確かに私は死霊王さまの配下ですが……
それ、私のことじゃないですよね?
どうしよう。
遅くなりましたが、レビューありがとうございます。
あまり返事できませんが、感想欄も読んでます。
これからも、よろしくお願いします。