王都での生活 アルフレート編
僕の名前は、アルフレート。
アルフレート=マチオ。
大樹の村の長の息子の一人。
一番最初に生まれたから、将来は父さんの跡を継いで村長になりなさいと母さんたちから言われている。
なので僕はその勉強と努力をしている。
だけど、正直なところ無理じゃないかなと思っていた。
なぜって?
父さんの真似はできないと思うから。
例えば、広い畑を一日で耕すとか、すっごい細工を作るとか、グラップラーベアを一撃で倒すとか、槍を投げてすごく遠い場所にある城を崩すとか、怒るルー母さんを宥めるとか。
できる気がしない。
僕が父さんの真似ができると思うのは、動物の世話とクロの子供たちの喧嘩の仲裁ぐらい。
だけど、それも父さん並ではなく、残念ながらちょっと劣る。
僕が父さんに勝てると思っているのは……釣りかな。
それに関しては、父さんより確実に上手いと思う。
でも、それだけで村の長を名乗るのは無理だろう。
父さんは、無理に跡を継ぐ必要はないと言ってくれた。
最初は諦められたのかと思ったけど、違った。
世の中には、色々な職がある。
それらを見てから、自分のやりたいことを探せばいいとの意味だ。
まだ僕は十歳。
自分の職を村長と定めるには、まだ早いらしい。
でも、色々な職を見て、よく考えたうえで村長になりたいのであれば、応援すると父さんは笑っていた。
それと、村長になるのだって父さんの真似をする必要はないとも言っていた。
世の中に百人いれば、百通りの村長になる方法があるそうだ。
とても勇気をもらった。
村長になるかどうかはまだわからないけど、頑張ろうと思う。
そして僕はいま、魔王国の学園に通っている。
父さんが、村の子供たちには村以外の場所を見て学んでほしいのだそうだ。
僕としては、色々な職を見ることができるいい機会だと思っている。
同行者はウル姉、妹のティゼル、土人形のアース、少し前まで温泉地の転移門の管理をしていた四村のアサ、そして混代竜族のメットーラ。
ウル姉とティゼルは、僕と一緒に学園に通って勉強をする。
アース、アサ、メットーラは僕たちの生活のサポート……のはずなんだけど、傍にいるのはメットーラだけだ。
メットーラ一人で、僕たち三人の生活のサポートをしてくれている。
大変かなと思って色々と自分でやろうとしたけど、メットーラが寂しそうな顔をするので諦めて任せている。
服ぐらい、自分で着られるんだけどなぁ。
学園生活では大きな問題は起きていない。
ゴー兄たち……いや、ゴール先生だった。
ゴール先生たちが事前に準備をしてくれていたからだ。
特にゴール先生たちの授業を受けている生徒とは、仲良くやっている。
まあ、初日の歓迎会で、僕が学園に持ち込んだ三十本の日持ちするケーキ、シュトーレンを全て放出することになってしまったけど。
ちょっとずつ楽しむつもりだったので、残念だ。
父さんに連絡して送ってもらおう。
ウル姉は問題ない。
新しい友だちと、のんびりと学園生活を満喫している。
ティゼルは少し不満そうだ。
なんでも、学園での派閥闘争に興味があったらしい。
だけど、ゴール先生たちの授業を受ける生徒で構成されたグループが学園最大派閥であり、僕たちは入学と同時にそこに組み込まれたから闘争する必要がない。
しかも、下っ端ではなく上のほうに。
それが不満なのだそうだ。
そんなに派閥闘争がしたかったのだろうか?
一応、第二勢力がウル姉に絡んでくれたのだけど、勝負にならなかった。
勝負になる以前の問題だった。
ティゼルは出番がなかったとさらに不満になったが、最近は少し機嫌がいい。
なんでも、商人の知り合いができたらしい。
学園に通っている者ではないそうだが、ティゼルの機嫌がいいのは嬉しいことだ。
今日も平穏な日々。
そう思っていたけど、問題が起きた。
勝負にならなかった第二勢力が、助っ人を連れて絡んできた。
ティゼルは……不在。
運の悪い妹だ。
いや、運が悪いのは僕か。
ん?
あー……第二勢力の助っ人は何を考えているのか、ウル姉に一騎打ちを挑んでいた。
ウル姉、目をキラキラさせないで。
駄目だよー。
いや、確かにこっちが挑まれた側だけど。
ちゃんと交渉しないと。
そう、なんでもかんでも引き受けてはいけない。
僕、知ってる。
はいはい、面倒な交渉は僕がするから。
「勝負を均等にするための調整を希望する!」
僕はそう言った。
相手は望むところだと返事した。
よかった。
これで死人は出ない。
とりあえず、僕はウル姉を鎖で縛る。
ウル姉はどちらの手でも剣を使えるけど、得意なのは右手。
なので右手も鎖で縛る。
剣は左手で持って。
あ、剣はやめよう。
剣の代わりに木の棒で。
足に重りも必要かな。
両足をまとめて、岩に繋いでおこう。
これでどうだろう?
僕が鎖で縛られたウル姉を見ていると、いつの間にかグラッツのおじさんが横にいた。
「足りないな」
足りないとは、ウル姉の封じ方だろう。
しかし、これ以上はどうすれば?
「ウルザを弱らせる方向ではなく、対戦相手を強くしよう」
グラッツのおじさんは、軍で使っている装備を相手に装着させた。
重武装だな。
動けるのかな?
あ、魔法でさらに強化するのね。
なるほど。
感心していたら、グラッツのおじさんが困った顔で僕のところに来た。
「あの男。
魔法で強化された自分の身体をコントロールできない。
慣らすのに時間が必要だ。
半年ぐらい勝負を先延ばしにできないか?」
「こっちが勝負を挑まれた側なんだけど……」
「そうか。
しかし、コントロールできる範囲だと……倍ぐらいの力しかだせないぞ?」
僕とグラッツのおじさんが悩んでいると、ビーゼルのおじさんがやってきた。
「こうすれば問題ない」
ビーゼルのおじさんはウル姉から棒を取り上げ、藁を一本、持たせた。
「藁以外での攻撃は反則負けだぞ」
なるほど。
髪や衣服での攻撃を考えていなかった。
さすがビーゼルのおじさん。
これで準備万端。
さあ、勝負開始だ。
そう思ったら、対戦相手の男性が泣き崩れた。
どうしたんだろう?
いや、プライドとか言われても……困る。
こっちは死人を出さないようにするので精一杯だし。
たぶん、あれでもウル姉が勝つよ。
え?
ウル姉の勝ち筋?
例えば……持ってる藁を相手の鼻の穴に突き立てるとか?
さすがに目は避けると思う。
そう信じたい。
あ、ウル姉に目隠しすればまだ勝負になったかな?
とりあえず、勝負は流れた。
よかった。
でも、勝負したかったウル姉の機嫌は悪くなった。
あと、ウル姉を縛った僕の評判が低下した。
ちょっと大変だった。
後日。
第二勢力が絡んできた理由が判明。
なんでも、彼らはシュトーレンが食べたかっただけらしい。
なので、父さんに送ってもらうのを待たず、みんなで作った。
味はイマイチだったけど、楽しかった。
これをもって最大派閥が第二勢力を吸収。
学園は平和だ。
三月も忙しく、なかなか更新ができそうにありません。
すみません。
「活動報告」で生存報告をしますので、お暇でしたら見てやってください。
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