三人の旅立ち
春のパレードは無事に終了した。
今回のパレードのメインは、アルフレート、ウルザ、ティゼルの三人。
しばらく戻ってこないから、各村を回った。
特に、三人は五村出身とするので、五村では大々的にやった。
それはかまわないが、どの村のパレードでも出陣式みたいな感じになっていたのは、なんでだろう?
五村の住人なんか、三人に何かあったら必ず行きますの連呼。
それが剣や槍を振り回しながらだから、三人に何かあったら必ず攻め込みますに聞こえる。
二村の一員として参加しているグラッツ、行軍ルートを考えない。
魔王国は味方だろ。
五村のパレードの最後で、三人を出迎える役をしてくれた魔王の顔が引き攣っていたぞ。
魔王が三人を出迎えて旅立つ演出だが、そのまま行ったりはしない。
ちゃんと大樹の村に戻ってくる。
出発は明日。
三人に同行する土人形のアース、元温泉地の転移門管理人アサ。
混代竜族から送ってもらう一人は、さきほど到着した。
「メットーラと申します。
よろしくお願いします」
青白い鱗のドラゴンだったが、人間の姿は三十代ぐらいの女性。
びしっとした姿勢で、ロングスカートのクラシックなメイド服を着ている。
ドラゴンがメイド服は珍しいなと思っていたら、ドライムが説明してくれた。
彼女は、ライメイレンのところで働いている混代竜族の一人なのだそうだ。
クジラ退治に集まった混代竜族の者たちに頼まれ、やってきた。
もちろん、ライメイレンの許可は出ている。
ちなみに彼女、別の名を持っていてその名はダンダジィ。
その名は聞き覚えがある。
前にハクレンに教えてもらった。
混代竜族最強だ。
どうして別の名があるのかというと、どうにも本人がダンダジィの名の響きが気に入っていないのが一つ。
もう一つが、ダンダジィと名乗ると混代竜族最強の座を求めて、挑んでくる者がいるからだそうだ。
「私に勝っても、遥か上にドースさまやライメイレンさまがいますからね。
あまり誇れないのですが、どうにも“最強”の響きに魅了される者が多く……」
ダンダジィは少し困った顔をした。
いや、メットーラだったな。
どう名乗ろうが、俺は気にしない。
本人が求める呼び方でいいと思う。
問題は、混代竜族最強に子供たちのことを任せてもいいのかということだ。
ライメイレンに仕えていたということで、能力を疑ったりはしない。
ただ、失礼なんじゃないかなと……
俺の不安は、ドライムが察してくれた。
そして、まったくの杞憂であると笑われた。
メットーラは誰かに仕えることに忌避感を覚えることはないし、嫌ならたとえライメイレンの命令があってもこの場に来ていないそうだ。
それに、お世話をお願いする三人の一人、ウルザは俺とハクレンの娘扱い。
ハクレンの娘は、ライメイレンの孫。
仕えることに、なんの問題もないとメットーラも笑っている。
そんなものなのだろうか。
そんなものと思おう。
「ところでヒラクさま」
メットーラが、急に真面目な顔をした。
「どうした?」
「私がお世話するのは、あちらの三人ですか?」
メットーラの視線の先には、ウルザ、アルフレート、ティゼルがいた。
「そうだ。
すまないが、よろしく頼む」
「仕事内容は、魔王国の学園に通われるご子息、ご息女の身の回りのお世話と聞いておりましたが、間違いありませんね?」
「ああ、間違いない」
間違いないよな?
それで問題ないはずだ。
「失礼しました。
いえ、魔王国に攻め込む準備のように見えたので」
物騒な。
何をどう見たら、そう思えるのか。
「周囲にあれだけの数のインフェルノウルフを従えていますと、どうしても……」
……
クロの子供たちが、別れを惜しんでいるだけだぞ。
アルフレートたちが明日出発ということで、俺は三人と個別面談をして注意を促していく。
口煩いと思われるだろうが、子供を心配する父親としては言わずにはいられない。
まあ、十の注意のうち、一つでもかまわないから覚えておいてほしい。
あとは……村の外の世界を楽しむことを忘れないことだな。
言っちゃ駄目かもしれないが、辛かったら帰ってきてもかまわない。
逃げることを恥と思ってはいけない。
大事なのは生き残ることだ。
まだまだ話したいが、ルーやティアに止められたので切り上げる。
うう……
ウルザは今年で十三歳。
アルフレート、ティゼルは今年で十歳。
学園に通うのはかまわないが、寮で生活するのは早いと思うんだけどなぁ。
その日の夜は、送別会で盛大な宴会。
普段はあまり飲まない俺が、かなりの量を飲んでしまった。
翌日、ウルザ、アルフレート、ティゼル、土人形のアース、元温泉地の転移門管理人アサ、混代竜族のメットーラの六人は、ビーゼルの転移魔法で出発した。
あっさりしたものだ。
ゴール、シール、ブロンの三人に加え、魔王やビーゼル、グラッツなど顔見知りが大勢いる場所だから、あまり不安がないのかな?
俺は心配で仕事が手につかない。
屋敷の自室でぼーっとする。
ルーやティアは、子供たちのことを心配はしているだろうが、それを感じさせない。
いつも通りだ。
もう少し、寂しがってもいいんじゃないかなと思うが……ルプミリナとオーロラがいるからかな?
俺と同じように寂しがってくれているのはザブトンだ。
かなり、しょんぼりしている。
ザブトンは、とくにウルザをかわいがっていたからな。
一番、手がかかったともいう。
あ、駄目だ。
思い出すと泣きそう。
いやいや、そんなに不安になってどうする。
子供たちのことを信じなければ。
俺はザブトンと一緒に、昼過ぎには立ち直った。
これで通常通り。
ではなかった。
子供たちを見送ったあとから、自分の部屋に篭っている者がいる。
ハクレンだ。
ハクレンはウルザと離れたくなかった。
なのに、平気そうな演技を続けていた。
厳しいことも言った。
その反動もあるのだろう、ずっと泣いている。
俺は何度か部屋を訪ねて励ましたが、駄目だった。
「ライメイレンも、ハクレンが家出したときにあのようになった」
夕食時、ドースが思い出すように呟いた。
「今日は許してやってください。
明日以降もあの調子なら、私が許しません」
ライメイレンが、照れながら俺に言う。
許すもなにも俺は怒っていないぞ。
それより、頑張ったなと褒めてやりたいぐらいだ。
「ライメイレン。
ハクレンが家出したとき、お前は一年も泣き続け……」
ドースはライメイレンに殴られ、席から転げ落ちた。
大丈夫か?
すごい勢いのパンチだったが……
生きてるよな?
よかった。
ドースは席に戻ってライメイレンを諭す。
「ハクレンが子を思って泣くのだ。
喜ばしいことではないか」
「ですが、あの子が産んだのはヒイチロウですよ。
それを忘れているのではないかと私は不満です」
「それはお前がヒイチロウをかまい過ぎるからであって……あ、いや、なんでもありません。
えーっと……まあ、お前ですら立ち直るのに時間が必要だったのだ。
娘だからと厳しくするのはどうだろう」
「ウルザは学園に行くだけではありませんか?
あの子は家出で、行方知れずだったのですよ」
「そうだが、ハクレンが家出をしたときはそれなりの年齢だったぞ。
それに、各地から報告というか苦情はきたわけだし……」
「ですが……」
ドースが頑張ってライメイレンを抑えてくれたので、ハクレンのことは様子をみることになった。
ハクレンのことだ、さすがに一年も泣き続けはしないだろう。
数日で復活してくれるはずだ。
きっと。
俺はハクレンを信じている。
ハクレンが復活したのは五日後。
復活のきっかけは、ウルザからの手紙。
……
いや、俺の励ましもあったと信じたい。