冬の暇潰し
冬。
基本的に家に篭り、外出はしない。
外出するのはクロの子供たちと天使族が見回りに行くことと、ケンタウロス族たちの定時連絡。
あとはハイエルフたちによる狩り。
それらも吹雪となれば、外出中止となる。
魔物や魔獣も吹雪には勝てず、動かないらしい。
吹雪の中でも動ける魔物や魔獣がいたとしても、そういった魔物や魔獣はインフェルノウルフが群れている場所にはこないだろうとの判断。
万が一、来たとしても村に近付く前にやっつけると言ってくれたハクレン、ラスティ、グーロンデ。
頼もしい。
ドースはコタツで寝てたけど。
なんにせよ、冬はあまり外出をしないで、家の中でできる仕事に従事している。
家の中での作業に不満はないらしいが、会話が少なくなることにストレスを感じることがあるらしい。
だからか、吹雪の日であっても俺の屋敷のホールに集まり、まったりと喋っている住人が多い。
ホールは広いし、暖房設備があるから暖かいしな。
毎年のことだ。
そして、これだけの人数が集まって喋っているだけなのはどうなのだろうと、俺が突発的にイベントをおこなうのも毎年のことだ。
麻雀大会、リバーシ大会、チェス大会、ボウリング大会。
室内なので剣や弓は控えてもらっているが、相撲大会と腕相撲大会などの肉体的なイベントもある。
ほかに、ドワーフたちからの要望で利き酒大会や、鬼人族メイドたちからの要望で新作料理発表会、妖精女王からの要望で甘味大会などがおこなわれている。
突発的なので規模は小さいのだが、近年では開催を決定した一時間後ぐらいには村中の住人が集まるようになった。
連絡方法が確立したのだろう。
それにしても熱意がすごい。
ちなみに、俺は大食いや激辛メニューはあまり好きではないので実施しない。
また、村の住人たちに限らず、大抵の者が食料難を経験しているので、食料が無駄になる行為を嫌う。
なので甘味大会は甘味を大食いする会ではなく、ただ甘味を楽しむ会である。
とりあえず、今回は甘味大会ではなく、普通にチェス大会。
参加者全員によるトーナメント戦で、試合を消化していく。
そして、負けた者はそのまま横のボウリング会場か、麻雀会場に移動。
もちろん、そのままチェスの試合を見物しててもかまわない。
ボウリング会場、麻雀会場はチェスの試合を邪魔しないように、防音の魔法が使用されている。
改良型の緩めの防音の魔法ではなく、改良前のきっちりした防音。
なので防音の魔法がかかっているパーテーションを通過すると別世界のように思える。
ボウリング会場では、チェスに敗退した者と最初っからボウリングに参加している者たちが思い思いにボールを投げている。
こちらでもある程度の人数が集まれば、大会を催す予定だ。
色々な対戦方式があるが、三人でチームを組んでもらい、その合計点を競うスタイルが大樹の村では一般的だ。
リザードマン、ハイエルフ、山エルフ、獣人族たちが多く参加している。
麻雀会場でも、チェスに敗退した者と最初っから麻雀をやっている者たちで楽しんでいる。
四人集まればできるので、人数が揃っては開始されている。
ここにはドワーフたちの姿が多い。
酒を飲みながら楽しめるのがいいそうだ。
ミノタウロス族、巨人族用のテーブルと巨大牌も用意しているが、無理なく扱える者が少ないのでほぼ固定メンバー。
問題はないと楽しんでくれている。
あと、魔王、ビーゼル、ドライム。
三人はチェス大会に参加していたと思うが、早々に負けてしまったのかな?
それと、その三人を相手にしているザブトンの子供たち。
二十匹ぐらいでチームを作り、席に座っている。
糸を使った牌の扱いが、工場の機械みたいでなかなか小気味よい。
しかし、誰が指揮をしているんだ?
ちゃんとルールを理解して……しているな。
邪魔をしてすまなかった。
直後、ザブトンの子供たちが板を鳴らした。
なるほど、板を叩いて発声の代わりにしているのね。
すでにポンで二回鳴いて他者の牌を取っているが、どうやって鳴いたのか疑問だった。
賢い。
でもって振り込んだビーゼル、信じられないかもしれないが現実をみよう。
あれは対々和じゃないんだ。
清老頭で役満だ。
ザブトンの子供たちが親だから、四万八千点。
うん、一番高い手。
大樹の村では、役満を上がった者は専用のボードに名前を残せる。
振り込んだ者の名は、慈悲で残さないようにしている。
ボードに名前を書いてやろうとして、俺の手がとまった。
名前、どうしよう?
ザブトンの子供たちが期待した目で俺をみている。
この場合、チーム名だよな。
……
チーム“チンロウトウ”でいいかな?
駄目?
あ、なるほど。
チーム“ヤクマンズ”ね。
これからも、色々な役満を上がっていくそうだ。
頑張れ。
チェス大会は、順調にトーナメントを消化。
ベスト十六が揃うのを待っているところだ。
予定通りというか、予想通りにクロヨンとマルビットはしっかりと勝ち残っている。
そして、クロの子供たちが他に六頭、ティア、キアービット、ルィンシァ、リアが残っている。
あと四人か。
ルーは……あ、クロヨンに負けたのね。
フローラは?
まだ残っているが、劣勢。
フローラが対戦しているのはスアルロウ。
あー……決着。
スアルロウの勝利だ。
ははは、フローラを慰める。
はいはい、ルーもね。
うおっ。
クロもか。
ははは。
誰に負けたんだ?
え?
鷲?
おお、アイギスの応援を受けた鷲がベスト十六に残った。
やるな。
チェス大会が白熱しているところで、勉強を終えた子供たちがやってきた。
おおっ、走っていない。
勉強の成果がでているぞ。
ただ、並んでの行進はやめよう。
面白い感じになってるから。
わかっている。
オヤツだな。
妖精女王が座っているから、そろそろだと思っていた。
アンたちが準備してくれているから、座っていて……運ぶのを手伝ってくれるのか?
よし、一緒に運ぼう。
そうそう、子供たちも参加できるイベントをいくつか考えていたのだが……
剣と弓は駄目だぞ。
ガルフやダガはベテランだからいいの。
壁や床を傷つけないだろ。
俺がやったら壁と床を傷つけてしまい、アンに悲しい顔をされてしまったので剣と弓は駄目。
いや、俺よりも扱いが上手いのは知ってるけどな。
勝てない勝てない。
ウルザやアルフレートのほうが強い。
それなりに本気でそう思う。
子供たちと妖精女王、あとは希望者にオヤツを配ったあと、俺は手の空いているハイエルフ、山エルフたちと協力して子供たち用のイベント会場を作った。
イベント会場といっても、パーテーションで区切っただけだが。
その中央に置かれているのは、子供用に小さく作られた四台のビリヤード台。
ルールは知っているな?
ビリヤード台はこれまで何台か作ったが、全て俺が適当に作った大人サイズ。
子供たちには大きすぎて扱えなかった。
なので、今回は子供用を作ってみた。
棒から球まで、全て子供サイズなので大変だった。
おっと、待て待て。
山エルフたちが、水平を測っているから。
ビリヤード台は、水平が命。
水平を測る装置でチェックしながら、台の高さを調整している。
球を転がして、最終チェック。
よーし、問題なし。
交代で遊ぶように。
独り占めは駄目だぞ。
文官娘衆が何人か見張りについてくれるので、任せる。
ああ、俺はちょっと急ぎで作らないと駄目なものがあってな。
ビリヤード台のサイズが問題で遊べなかったのは子供たちだけではない。
ミノタウロス族、巨人族もそうだ。
手の空いているハイエルフ、山エルフ、ビッグサイズの台と棒の製作を頼めるかな?
俺は球を作るから。
歪みの少ない球は、【万能農具】に頼らないとまだ作れない。
この辺りも要研究だな。
夜。
まったりとする。
チェス大会は、決勝でクロヨンとマルビットが激突。
三回、引き分けたところで夕食の時間になったので、翌日に持ち越しとなった。
ボウリングは、リザードマンのチームが優勝。
三人全員がパーフェクトとはすごい。
麻雀は……夕食後も楽しんでいる。
子供たちのビリヤードは、まあまあ楽しめたようだ。
ただ、ウルザには合わないらしい。
自分の番は問題ないが、待っている時間がイライラするらしい。
同じ理由で、ウルザはボウリングも合わない。
一人でガンガン投げられるなら喜ぶんだろうなぁ。
逆にアルフレートは、ビリヤードを気に入ったようだ。
棒の構えも、ビシッと決まっていたしな。
まあ、球を綺麗に突くのは練習次第だろうけど。
ははは。
今日、初めてなんだから仕方がないさ。
子供用のビリヤード台は、専用の部屋を作ってそこに設置しておくことにしよう。