キリサーナ
私の名は、キリサーナ。
キリサーナ=ランドリッド=グリッチ。
グリッチ伯爵家の娘です。
さて、このたび、突然というか……数ヶ月前から決まっていたのですが、結婚することになりました。
ありがとうございます。
いえ、家の都合での結婚ではなく、私が自主的に見つけた相手です。
素敵なかたですよ。
名はゴールさま。
獣人族の男性で、男爵家当主相当という少し変わった身分をお持ちです。
男爵家当主相当は、そのまま男爵家の当主と同じという意味で、当然ながら貴族として扱われます。
ですが、男爵では伯爵家の娘である私とは釣り合いが取れません。
だからでしょう。
私の父は結婚に反対してきました。
さらに、私一人が嫁ぐのではなく、同時にもう一人が嫁ぐこともお父さまが反対する理由です。
私と一緒に嫁ぐもう一人は、お父さまがライバル視しているプギャル伯爵の娘であるエンデリ。
エンデリは私のライバルであり、友人です。
まさか、一緒の夫を持つことになるとは思いませんでしたが。
正直に言えば、私がエンデリとゴールさまの間に割って入った形です。
親の立場上、エンデリと私は同格となりますが、私が一歩引くのが慎みのある妻というものです。
その辺りを忘れないようにと心掛けているのに、私のお父さまが結婚に反対しています。
お父さまを無視して結婚を強行することもできますが、伯爵であるお父さまを敵に回すのは面倒なのでそれはできません。
私個人も、お父さまには結婚を祝福してもらいたいと考えます。
なので決闘しました。
ええ、私とお父さまとで。
さすがはお父さまでした。
一回の決闘では納得せず、三回もすることになるとは……
私の手が痛くて仕方がありません。
まあ、その手はゴールさまが癒してくれたのですが……ふふふ。
ともあれ、ゴールさまは無事に私のお父さまに挨拶しました。
お父さまをヘッドロックで抑えていたお母さま、ご苦労さまです。
ええ、こんな家族ですがよろしくお願いします。
お父さまは家ではあのような感じですが、仕事の時はしっかりしていますから。
問題は、ゴールさまのお父さまに私が挨拶すること。
実の父親ではないとのことですが、そんなことは関係ありません。
ゴールさまが父親だと思っていることが大事なのです。
それに、貴族社会では養子縁組は珍しいことではありませんからね。
ただ、男爵家当主相当の父親が爵位を持たない村長というのは、どうなのでしょう?
お父さまにお願いして、何かしらの爵位を受け取れるように動いたほうがいいのでしょうか?
エンデリに相談したら、同じことを考えていました。
さすがです。
ですが、爵位には義務が付きまといます。
義務は色々ありますが、簡単に言えば国を守る貴族の一員たれ。
ということです。
それは誰にでもできることではありません。
そういった義務が果たせないので自主的に爵位を返す者もいます。
ゴールさまのお父さまも、辞退しているのかもしれません。
なので、様子をみてからということになりました。
ゴールさまも日々、言っていますしね。
自分が喜ぶことでも、他の者も喜ぶとは限らないと。
押し付けはよろしくありません。
あっという間に段取りが出来上がり、ゴールさまのお父さまに挨拶する日になりました。
一日の延期があったので心の準備は万端と思ったのですが、ドキドキしています。
……
ところで、王城の会議室に集合と言われているのですが、場所はほんとうにここでいいのでしょうか?
ここって国政とか大事なことを話し合う場所では?
あ、クローム伯。
おはようございます。
えっと、私がここにいるのはですね……知っていましたか?
そうですよね。
この会議室で集合ですから……その、クローム伯もご一緒されるのですか?
送迎担当?
転移魔法で?
四天王のクローム伯が?
いえ、その、クローム伯がゴールさまと親しいのは知っていますけど、クローム伯の転移魔法は秘中の秘だったのでは?
最近は十日に一回の割合でグラッツ将軍を愛妻のもとに送っている?
あはははは。
ご冗談を。
クローム伯の転移魔法は、魔王国の外交を担う重要な魔法……これも外交の一部?
そうなのですか?
納得できませんが、わかりましたと笑顔で返しておきます。
今回の挨拶には、私とエンデリ以外にも、ゴールさまのご兄弟同然のシールさま、ブロンさまも結婚することになり、一緒に行くことになっています。
なのでシールさま、ブロンさまの奥さまがたも揃いはじめています。
話には聞いていましたし、何人かと顔を合わせたことはあるのですが……
シールさまの奥さま、九人が勢ぞろいするのは初めてみました。
……
いてはいけない人がいる気がするのですが?
気のせいでしょうか?
えっと、一番右端のかたは四天王のレグ財務大臣ですよね?
クローム伯と同じように送迎……コネギット?
……
承知しました。
初めまして、コネギットさま。
キリサーナです。
よろしくお願いします。
ブロンさまの奥さまは……普通ですね。
すごく心が落ち着きます。
そしてゴールさま、シールさま、ブロンさま、魔王さまがやってきます。
……
「どうして魔王さまがぁぁぁぁぁっ!!!」
思わず叫んでしまいました。
他にも何人か同時に叫んでいるので、目立ちません。
よかった。
落ち着いて考えれば、魔王さまがいてもおかしくはありません。
ゴールさま、シールさま、ブロンさまは魔王さまが監督を務める野球チームの一員ですからね。
ははははは。
そんなわけあるかぁぁぁっっっ!!
おっと、口調が狂いました。
いけない、いけない。
落ち着いて。
ええと、ゴールさま、シールさま、ブロンさまが魔王さまの野球チームの一員だとしても、それはプライベートでのお付き合い。
王城で会うのとは意味が違います。
となれば……魔王さまが私やエンデリのお父さまに気遣って?
ありえません。
今の魔王さまは強いです。
歴代最強と言われるぐらいの強さです。
よって、魔王さまが私やエンデリのお父さまに気遣う必要はありません。
魔王さまが気遣うとすれば、クローム伯か……レグ財務大臣!
そうでした。
魔王さまが気遣う相手がいました。
なるほど、納得。
すっきりです。
つまり、魔王さまはレグ財務大臣の応援に来たのです。
そうに違いありません。
だから魔王さま、違いますよ。
レグ財務大臣の結婚相手はシールさまです。
ゴールさまは私とエンデリの旦那さまです。
野球の話で盛り上がらないでください。
●決闘の様子
お父さん「結婚は許さん」
キリサーナ「決闘です」
決闘→勝利
お父さま「ちょ、本気過ぎだろ? い、いや、確かにいまのは油断してたが……」
キリサーナ「では、もう一回ですね」
決闘→勝利
お父さま「無理無理無理っ! もう無理! おい、いま俺を押したの誰だ! 治癒魔法を使うなっ!」
キリサーナ「まだ認めませんか」
決闘→勝利
お父さま「結婚は認めるから、側近の粛清に手を貸せ。こいつら、俺が殴られるたびに歓声を上げてた」
キリサーナ「私の応援をしていたのよね?」
側近一同「そうです! ご結婚、おめでとうございます」
更新、遅くなってすみません。
株主総会がありまして……ええ、色々とあるのです。
本業もなろうも頑張ります。




