クエンタン、動く!
俺の名はクエンタン!
自我のある剣、インテリジェンス・ソードのクエンタン!
俺はいま!
怨念炉の管理をしている!
あらゆる敵を討ち倒す剣として生み出された剣だけど、自我があるからと!
死なないからと!
怨念炉の影響を受けないからと!
便利な道具扱い!
いや、俺は道具だから道具扱いに文句はない!
用途に問題がある!
俺は剣だから、何かを斬ってほしい!
あ、いや、死霊魔導師さま、紐の端を切ったりとか、そういうことではなく。
敵を打ち倒すために!
ここは空中に浮かんでいる島だから、敵は来ないと?
そうかもしれませんが……あ、はい、仕事、頑張ります。
何年ぐらい続けただろうか。
五百年を超えたのは覚えている。
千年ぐらいかな?
怨念炉に問題はない。
常に快調。
膨大なエネルギーを生み出し続け、それを貯蓄タンクに流し込み続けている。
貯蓄タンクはそろそろいっぱい。
死霊魔導師さまー、そろそろ貯蓄タンクを交換しないと危ないですよー。
返事がない。
どこかに出かけているのだろうか?
このままだと爆発するので、生み出されたエネルギーを貯蓄タンクには流さず捨てる。
もったいないが、爆発させるよりはいい。
そのうち、死霊魔導師さまも来るだろう。
死霊魔導師さまが来ない。
五年ぐらい。
……
ちょ、どういうことだ?
これまで、どれだけ期間をあけても一年に一回は怨念炉の様子を見に来ていた。
死霊魔導師さまは死んでしまったのか?
いや、すでに死んでるから浄化されたとか……言葉なんぞ、どうでもいい!
死霊魔導師さまのあの狂気に近い恨みを考えれば、自決、自浄は考えられん!
つまり、他者による浄化!
もしくは封印された!
これは一大事!
ええい、動けないこの身が恨めしい!
どうしたら。
どうしたらいいのだぁぁぁ!
……
どうしようもない。
俺にできるのは怨念炉を弄るだけ。
あとは、放出している怨念炉のエネルギーを、こうやって放り投げるだけ。
あ、ドラゴンに当たりそうになった。
まずい。
怒ってここを攻撃されるかも!
……
…………
ドラゴン、向こうにいった。
よかった。
危ないところだった。
ん?
これか?
ドラゴンほどではないにしろ、何かを怒らせて島を攻撃させる。
そして、俺に触れさせることができれば、そのあとはなんとでもなる。
おおっ!
いい考えじゃないか!
では、さっそく……
……
周囲、何も飛んでないな。
だよな。
ずっと平和だったもんな。
さっきのドラゴンが変なんだよな。
しかし、さすがの俺でもドラゴンを相手にはできない。
そんなのはドラゴン退治専門の剣に任せればいいんだ。
だから悔しくない。
とりあえずだ。
いつ、なにが来てもいいように準備だけしていよう。
まずは怨念炉からエネルギーを……俺に集めてみるか。
大丈夫だろう。
大丈夫じゃなかった。
爆発した。
島も落下した。
酷い目にあった。
だが、俺は無事。
頑丈さには自信がある。
だが、ピンチだ。
目の前に、怨念炉によって生み出されたエネルギーを溜め込んだ貯蓄タンクがある。
落下によってタンクにヒビが入っている。
これ、割れたら爆発するよな。
さすがに、その爆発に巻き込まれたら死ぬ……死ぬでいいのかな?
死ぬでいいか。
死ぬかもしれない。
ピンチ。
ど、ど、ど、どうしよう。
パニックになっていると、見知らぬ男がやってきた。
チャンス。
俺、俺を触れ!
おっと、いきなり剣が喋ったら怪しまれるか?
いや、見逃されても困る。
ここは度胸だ!
「ここに高価そうな剣が落ちてるぞー」
よし、男の気を引くことに成功!
俺に……触れた!
意識を乗っ取る!
俺を握れ、そして逃げるんだ!
ん?
なんだ、他にも人がいるのか?
ええい。
「ここは爆発するぞ!
急いで逃げるんだぁぁぁぁぁぁっ!」
なぜか捕まった。
俺が意識を乗っ取っている男が爆発の犯人にされてしまったようだ。
すまん。
俺は男の手から離されているが、まだ意識は乗っ取っている。
うーん。
とりあえず、出してやろう。
頑張った。
すぐ捕まった。
コーリン教から派遣された部隊が強過ぎる。
どうしたものか。
悩んでいたら、偉そうな神官がやってきた。
ちょっと見ただけで、凄い力を持っているのがわかる。
ドラゴン並か、それ以上だ。
意識を乗っ取るのは不可能だろう。
これはどうしようもない。
普通の剣の振りをしながら隙を窺う。
……
いかんな。
インテリジェンス・ソードであることがバレたか?
厳重に保管されてしまった。
いや、ただのマジック・ソードとして俺を保管しているのか?
俺、見た感じは高価な剣だからな。
……
森の中にある村に連れて来られた。
ここはどこだ?
いや、なんだここは?
周囲にいる連中は……駄目だ。
誰も彼も、俺では意識を乗っ取ることはできそうにない猛者だ。
もっと脆弱なやつはいないのか?
いるだろう。
いないなら絶望だ。
ここは神に祈るべきなのか?
ん?
いた!
おおう、どこからどうみても村人!
頼むぞ。
俺に触れてくれ……って、なんだこの猫は?
勝手に触れるな。
猫の意識を乗っ取っても意味がない。
お、俺にじゃれる猫を抱えようとして、村人が俺に触った……ふはははははははははっ!
……あれ?
あれ?
え?
乗っ取れない?
「どういうこと?」
思わず喋ってしまった。
神官が俺に質問を投げかけてくる。
悪いが、協力する気はない。
俺には目的があるのだ。
そう、死霊魔導師さまの仇を討つという!
それまでは、雌伏のとき!
ええい、乗っ取れないなら乗っ取れないで構わん。
そこの村人、俺をちゃんとした場所に飾るのだ。
安易な場所に置くなよ。
壁に飾る?
まあ、悪くはないな。
隅は駄目だぞ。
真ん中に飾れ。
……
んんん?
……
俺は死んだ振りをする。
ばか、喋りかけるな。
俺はただの剣だ。
壁に飾られていたのは、圧倒的に格の違う剣。
近づくのもおこがましい。
あ、待て。
村人、なにをする気だ?
え?
俺とあの剣を取り替えるって……
ちょっと待て。
待て。
待って!
うおおおおおおいっ、聞け、聞いて!
お願いだから聞いて!
うるさそうにしないでぇぇぇぇ!
俺は死霊魔導師さまの仇を討つことも忘れ、自決した。
自分の力では動けないはずだが、頑張った。
それぐらい耐えられなかった。
村人のやっていることは、王様に席を譲れと言うのと同じなの。
わかる?
わからないか……
そっか。
そこで猫と遊んでいる男を、魔王って呼んでるぐらいだもんな。
俺は自分で刀身を砕いたが、生きてた。
でも、柄だけの役立たずに成り下がった。
物陰にでも置いておいてください。
ええ、ゴミ箱の中でもかまいません。
へへっ。
俺のような小物にはそこが似合いの席ってもんです。
卑屈になるな?
そう言われても……
許可なく、誰かの意識を乗っ取らないと約束するなら、修理する?
約束してもいいけど、俺を修理って簡単じゃないぞ。
腕のいい鍛冶師が……めっちゃいた。
復活!
やったね!
そしてなんと、村人……村人ではなく、村長だった。
村長は死霊魔導師さまの居場所を知っているという!
おおおっ!
生きて……生きているわけじゃないけど、生きておられたのですね!
よかった。
ほんとうによかった。
はい、死霊魔導師さまにお会いできるなら、なんでも話します。
よろしくお願いします。
こうして、俺はまた死霊魔導師さまの手に戻ることができた。
嬉しい。
死霊魔導師さま、雰囲気が変わりましたね。
あ、俺も変わったんですよ。
わかります?
ドラゴンの鱗の粉を使ってもらって、パワーアップしているんですよ。
ははは。
何か試し切りしたいなー。
あ、森の木は駄目ですよ。
あと、ドラゴンの鱗で作った盾も。
落ち込むだけなので。
●おまけ
村長、村長、あそこにある剣は?
「ウルザが抱き枕代わりにしている剣だ。
今は武器の携帯を禁止にしているのだけど、あれを取り上げるのはちょっとな……」
抱き枕?
「鞘に入れて、抜けないように固定しているから安全だぞ」
そうかもしれませんが……
鞘越しでもわかる、高貴な人の身体にでも封印されていたっぽい風格のある剣なのですが……
いえ、抱き枕になりたいわけではなく。
ただ、その……剣は剣として使ってあげて欲しいなと思う次第でありまして。
ええ、強くそう思うだけです。




