集団飛行とキノコ狩り
空を見上げると、ティア、グランマリア、クーデル、コローネ、スアルリウ、スアルコウ、キアービット、マルビット、ルィンシァ、スアルロウ、ラズマリアが飛んでいた。
速度を合わせた綺麗な横一列だ。
そして村の上空を一周すると、マルビットを中心にフォーメーションを組み変えて集団飛行を始める。
カチッカチッと音が聞こえそうなフォーメーションチェンジは見事の一言。
一団を指揮しているのはマルビット。
フォーメーションの中心で、合図を送っている。
普段の様子とは違い、立派な指揮官だ。
彼女たちが集団飛行を始めた理由は単純だ。
まだ秋なのに子猫たちとコタツの奪い合いをしているマルビットをみたティゼルが、ティアに聞いたのだ。
「お母さま。
天使族は、みんなあんな感じなのですか?」
一応、マルビットの名誉のために言っておくが、マルビットはルィンシァから割り振られた仕事を終えていた。
久しぶりのまったりタイムだったのだ。
だが、去年の冬の怠惰なマルビットを見ているティゼルからすれば、言いわけに聞こえるだろう。
これはいけないと、ティアがルィンシァに相談した結果。
集団飛行は、ティゼルだけでなく子供たちに響いたようだ。
大きな歓声を上げている。
オーロラは……まだわからないか。
でも、喜んでいるからよし。
ん?
クーデルがこっちに合図を……
俺は駄目と腕をクロスさせて意思表示。
だが、クーデルは粘る。
一回だけ、一回だけでいいからと合図を送ってくる。
駄目。
絶対に駄目。
クーデルの要望は、クロの角を装備した槍の使用。
あれは子供たちの睡眠時間外でないと許されない。
いまの時間、ルプミリナとローゼマリアが寝ている。
あれを響かせたら、アンたちが激怒する。
俺は改めて駄目と意思表示。
近くにいたクロの子供たちにも協力してもらい、地面に人文字ならぬ狼文字で×印を描く。
見えなかったとは言わさないぞ。
ん?
…………
クーデルはフォーメーションから離れ、屋敷に。
そして、しょんぼりしながら屋敷から出て空に戻った。
アンを説得できなかったようだ。
また今度、機会を作るから。
今日は子供たちを喜ばせてやってくれ。
集団飛行によって、ティゼルだけでなく子供たちの中で天使族の地位は保たれたかどうかはわからない。
だが、多少はマルビットをみる目が変わったのは確かだ。
だからマルビット。
今はコタツに入るのを控えよう。
今だけ。
うん、今だけだから。
いや、明日ならって問題ではなく……
わかった。
天使族の別荘にコタツを設置するから。
あっちだと仕事がついてくる?
大丈夫だ。
屋敷のコタツに入っていても、同じだから。
あと、ライメイレン。
ヒイチロウに言われたからって、ドラゴンを集めないでくれるかな。
ドラゴンの集団飛行は、見たいっちゃ見たいけど……以前の太陽城みたいに何かがやってきたらどうするんだ?
それを避けるために自粛していたんだろ?
何かが来るなら、とっくに来ている?
いや、そうかもしれないけど。
とりあえず、今日はやめて。
天使族の集団飛行をみて、俺も少し考えた。
俺は子供たちからどう思われているのかと。
威厳がある父親ではないと思う。
物分りは悪くないと思うが……どうだろう。
あまり甘えられた覚えがない。
うーん。
考えていても仕方がない。
天使族の集団飛行と同じ、父親としていいところを見せればいいのだ。
しかし、畑は耕してしまった。
森で狩りをするのも悪くないが、子供たちを同行させるわけにはいかない。
子供たちに見せる……いや、一緒にやれたらいいのだから……
よし、キノコ狩りだ。
思い立ったら即行動……もうすぐ夜だから、今日は無理だな。
じゃあ明日。
子供たちと一緒に、キノコ狩りに行く。
そう宣言した。
翌日の朝。
子供たちが集合している。
アルフレート、ティゼル、ウルザ、ナート、リリウス、リグル、ラテ、トライン、ヒイチロウ、グラル、リザードマンの子供が二十人ほど。
リザードマンの子供以外は、森に入っても大丈夫なようにズボンと長袖だ。
そして、使う機会はないだろうけど、安全のために短剣などの武器を持っている。
武器の携帯禁止が言い渡されているウルザにも許可。
さすがに森に武器なしで入れとは言わない。
グラル、ヒイチロウは……素手でも問題ないか。
子供たちの他にいるのが、ハクレン、ラスティ、ライメイレン、ドース、ドライム、あと、籠を背負った大人のリザードマンたちが十人。
子供たちと一緒に行動してもらう予定だ。
そして、ここにいる一団のほかにハイエルフのリアを中心とした一団が、先行して俺が作ったキノコの収穫場所に向っている。
魔物、魔獣がいたら危ないからな。
クロの子供たちやザブトンの子供たちもリアと一緒に先行してくれたので、安心だ。
過保護?
いやいや、油断はしない。
出発。
ハクレンやドライムから、ドラゴン姿で送ろうかと言われたが、子供たちが歩くと言ったので歩くことにした。
俺も子供たちと一緒にいる時間は、少しでも長くしたい。
一時間ほど森の中を歩き、キノコの収穫場所に到着した。
道中、色々と話ができた気がする。
満足。
……
目的を思い出す。
キノコ狩りだ。
昔、この辺り一帯で、俺は“食用キノコ”と念じながら【万能農具】を振るった。
なので、地面をよく見ればシイタケ、マイタケ、マツタケ、ヒラタケがそこかしこに育っている。
まず、子供たちにはそれらを収穫してもらう。
夢中になって森の奥に行き過ぎないように。
周囲にいるリアたちに合図を送り、見張りを改めて頼む。
ある程度の収穫が終わったら、場所を移動。
次の場所もキノコだけど、種類がトリュフ。
地中なので見ただけでは、場所がわからない。
なのでクロの子供たちに出てきてもらう。
子供たちには何人かでグループを作ってもらい、そこにクロの子供が一頭入ってトリュフ掘り。
こらこら、素手で掘ろうとしない。
ちゃんと道具を用意しているから、それで。
ライメイレン、ドース。
ヒイチロウばっかり見てないで、他の子供たちも見てやってくれ。
ドライム、手本は一回でいいぞ。
やり過ぎると子供たちが掘る分がなくなる。
本当なら、子供たちが一日かけても採り切れない量があるのだが……どうも魔物か魔獣に先を越されたらしい。
半分ほど、荒らされていた。
見張り、置いてないからな。
仕方がない。
少ししたら、別の場所に移動しよう。
そっちは荒らされてないといいな。
ん?
見張りをしているリアから合図があった。
魔獣が出たらしい。
クロの子供たち、ザブトンの子供たちが出ているが……
魔獣の数が多い?!
まずい。
俺は子供たちに集合と声をかける。
ハクレン、ドラゴンの姿で子供たちを空に避難させてくれ。
そう指示したところで、巨大な猪が一頭、姿を現した。
こちらに突撃してくる。
その猪にザブトンの子供たちが何匹か乗っていたが、俺の姿を見て飛び離れた。
俺の邪魔にならないようにだろう。
助かる。
俺は【万能農具】のクワで、巨大な猪を仕留めた。
そして、ザブトンの子供たちの案内で、他の巨大な猪のもとに向った。
巨大な猪は全部で八頭いた。
なかなかの群れ。
俺たちよりも先にトリュフを掘っていたのは、この巨大な猪たちのようだ。
俺たちが来たことで、縄張りを荒らされたと思ったのかな?
ちょっと申し訳ない気がする。
まあ、トリュフは俺が育てたのだけどな。
冬前に大量の肉を手に入れられたと喜ぼう。
ただ、キノコ狩りはここで中止。
狩った巨大な猪を村に持ち帰らないといけない。
残念だ。
トリュフを見つけて、子供たちにいいところを見せたかったのに。
え?
巨大な猪を狩ったところがすごかった?
そ、そうか?
ははは。
照れるなぁ。
うん、満足。
巨大な猪の輸送のため、ドライムに何往復かしてもらった。
ありがとう。
子供たちも、ライメイレンに乗って村に帰った。
帰りは疲れているからな。
俺も村に戻ると、フーシュがいた。
すごく疲れた顔をしていた。
始祖さんと同じく、落下した島関連で忙しいらしい。
え?
島を壊した冒険者、脱獄したの?
怖いなぁ。
あ、もう捕まえたんだ。
よかった。
まあ、フーシュものんびりしてよ。
今晩はキノコ鍋だから。
そう、子供たちが頑張ったんだ。
活動報告で、異世界のんびり農家04の書影(表紙)を発表中。
今回も素敵な表紙です。
みてやってください。
忙しい時に限って、新しい仕事がくる。
書きたいことがいっぱいあるのに、時間がない。
悔しい。