ハンバーグと再戦と武闘会
武闘会が始まった。
魔王は奥さんを呼ぶのに失敗したようだ。
少しションボリしている魔王を、ビーゼルが慰めている。
魔王の娘のユーリは、母親が来ないことを気にしていないようだ。
この時期は無理と予想していたのだろう。
ビーゼルと一緒に魔王を慰めていた。
ゴール、シール、ブロンの獣人族の男の子たち三人、それとハイエルフのリグネも今回は不参加。
学園で色々と忙しいそうだ。
武闘会に参加できないことを謝罪する手紙をもらった。
残念だが、仕事なら仕方がない。
あ、いや、この考え方は駄目だな。
一日の休みも許可できない職場環境に文句を言わねば。
それに、教師をしているとはいえ、あの三人はまだ子供なのだから。
……
手紙に書かれていたが、学園では教師不足らしい。
なんでも数年前に教師が何人か辞めてしまい、以降はなかなか補充ができていないと。
ふーむ。
俺にはどうしようもないな。
少し前にビーゼルに渡した寄付金……まだ現金化できてないみたいだけど、それでなんとか頑張ってほしい。
そういえばルー。
シャシャートの街のイフルス学園では、教師不足とかないのか?
あ、やっぱり不足しているのか。
どこも大変だな。
村ではハクレンを中心に、ラスティ、フラウ、ユーリが協力して、子供たちの勉強をみてくれている。
恵まれた環境に、感謝しなければ。
ゴールたち三人とリグネは冬には顔を出すと手紙に書いていた。
魔王の奥さんも、そのタイミングでくるかもしれないな。
武闘会の会場の傍では、いつも通りに料理を提供するテントや屋台ができている。
そのテントの一つで、グーロンデがグラルと一緒に炭火でハンバーグを焼いていた。
「お母さま、少し焼き過ぎでは?」
「じっくり焼かないと中まで火が通らないと、村長が言ってましたから」
「焦げてませんか?」
「……表面を少し削れば」
「お母さま、無理です。
諦めましょう」
「仕方がありません。
アナタ」
焦げたハンバーグは、横で控えていたギラルが食べる。
大丈夫か?
奥さんの手料理だから平気?
愛だな。
だが、このままだと焦げたハンバーグを食べ続けることになるので、グーロンデとグラルにアドバイス。
串にハンバーグを刺して焼いているが、炭火に近過ぎる。
あと、頻繁にひっくり返さない。
片面焼けたら、もう片面ぐらいの感じで。
……
鉄板で焼かないか?
そっちのほうが簡単だぞ。
グラルの賛同と説得があり、ハンバーグは鉄板で焼くことになった。
すぐに道具を用意しよう。
ところで、テントの片隅で直立不動の三人……混代竜族の三人はどうしたんだ?
グーロンデとの挨拶に感動して、固まっている?
……気絶してないか?
大丈夫?
まあ、せっかく来たんだから、武闘会に参加したいだろう。
起こしてやろう。
一般の部はさっき終わったから、戦士の部になるけど。
今回の武闘会では、特別にエキシビションマッチが組まれていた。
フェニックスの雛のアイギスと、世界樹の蚕の対戦。
これはアイギスからの申し出だ。
以前、負けたことが悔しかったのだろう。
アイギスのセコンドには、鷲がついている。
対して世界樹の蚕のセコンドには、二村代表のゴードン。
鷲はアイギスに何かアドバイスをしているようだが、ゴードンは蚕に世界樹の葉を与えているようにしかみえない。
いや、実際に与えているのだろう。
ゴードン、どうして俺がここにいるんだって顔をしないように。
どちらも頑張れ。
勝負はすぐに終わった。
開始と同時に文字通り飛び掛ったアイギス。
それを糸で迎撃しようとする蚕。
蚕の吐いた糸を華麗に避け、アイギスは蚕に肉薄したが、蚕はぴょんとジャンプしてアイギスに体当たり。
驚いて動きを止めたアイギスに向かって蚕は糸を吐き、からめとって決着。
勝利した蚕はゴードンのもとに戻り、世界樹の葉をねだっている。
負けたアイギスは鷲に糸を解いてもらい、慰められていた。
うんうん、惜しかったな。
まさか蚕がジャンプするとは俺も思わなかった。
びっくりしても仕方がない。
おおっ、アイギスの目が死んでいない。
再戦に向けて燃えている。
ははは。
……
あれ?
アイギスの身体、燃えてない?
ちょ、大丈夫か?
あ……すぐに鎮火した。
よかった。
考えてみればアイギスはフェニックスの雛。
火を纏うぐらいはできるか。
以前、屋根の雪を融かそうと頑張ったこともあったしな。
だが、急に火を纏うのは駄目だぞ。
横にいた鷲がびっくりしているじゃないか。
俺もびっくりした。
いまのは勝手に火が出ただけ?
じゃあ、制御が今後の課題だな。
頑張れ。
だが、練習は野外でな。
室内では駄目だぞ。
武闘会は順調にスケジュールを消化していった。
今年の戦士の部の優勝は、ガルフの息子の奥さん。
出産の疲労からは完全に回復したようだ。
初出場ながら、強かった。
そして、混代竜族の三人は出場を見合わせたようだ。
観客席から、大きな声援を送っていた。
騎士の部の優勝は、レッドアーマー。
こちらも強かった。
ルー、ティア、リア、アンの強豪を次々に打ち破り、優勝した。
同じく出場していたホワイトアーマーは、一回戦でクロの子供に敗れてしまった。
そのクロの子供はルーに負けたので、レッドアーマーが仇を取ったと言える。
まあ、勝負に絶対はない。
相性もある。
また頑張ればいいさ。
ガルフとダガは一回戦を突破したものの、共に二回戦で敗退。
ただ、勝てたことを凄く喜んでいた。
反対に、ガルフとダガに負けたクーデルとコローネはティアだけでなく、観戦していたマルビット、スアルロウ、ラズマリアから説教されていた。
二人の油断ではなく、ガルフとダガが頑張った結果だと思いたい。
そして最後は模範試合。
一部からは、英雄の部と呼ばれていたりする。
これは優勝者を決めるわけではないので、まったりと観戦。
注目は魔王が誰と対戦するか。
「参加を拒否することって、できないのかな?」
魔王の無駄な抵抗だった。
今年の相手はギラル。
グーロンデの応援があるから、今年のギラルは強いと思う。
あ、でもハンバーグの食べ過ぎでギラルのお腹がぽっこりしている。
……
魔王、チャンスだぞ!
魔王もそう思ったのか、果敢に攻め込んだ。
うん、頑張ったと思う。
その勇姿は忘れない。
ユーリ、食事に集中してないでもっと応援してあげて。
ビーゼルも。
グーロンデは不参加。
人の姿では満足に動けないし、ドラゴンの姿になると舞台からはみ出してしまうから。
ただ、大樹の村以外からの参加者たちに、顔見せの意味でドラゴンの姿を披露してもらった。
酔ってよくドラゴンの姿になっているから、驚かせないためだ。
たぶん、今晩も飲むだろうし。
グーロンデの八つ首のドラゴンの姿は、すんなりと受け入れられた。
そして、相変わらず子供たちからの人気が凄い。
ちょっと羨ましくなる。
盛り上がったのはマルビットとスアルロウの戦い。
空中での激しい戦いを見せてくれたが、なぜか決着は舞台の上で関節技だった。
勝ったのはマルビット。
あれ?
スアルロウってティアの前に天使族で最強じゃなかったっけ?
「天使族の長として負けられないものを背負っているから、勝てました」
なるほど。
スアルロウ、戦いを振り返って一言。
「あいつ、関節を極めながら私の太ももを抓ってたのよ!
ずるくない!?」
……
えーっと、両者の健闘に拍手。
夜はいつも通りの宴会。
ドワーフたちが、グーロンデに勝負を挑んでいる。
戦うほうではなく、飲むほうで。
子供たちにも夜更かしを許しているが、限度はあるぞ。
ヒイチロウはそろそろ寝る時間だな。
頭がゆらゆらしているぞ。
ヒイチロウより小さい子供たちは、とっくに寝室に行っている。
ヒイチロウは頑張ったほうだ。
よし、俺が抱えて連れて行ってやろう。
俺じゃなくてライメイレンがいい?
わかったわかった。
ライメイレンに任せよう。
ライメイレンがすっごく喜んでいるしな。
ん?
ラスティ、どうした?
ああ、確かにお前もライメイレンの孫になるよな。
それを俺に言われても困るが。
扱いに差があるのは、ライメイレンがお前の母親グラッファルーンに遠慮しているからだぞ。
自分の娘の子なら色々と口や手を出せるが、自分の息子の妻の子ではライメイレンでも口や手は出しにくかったらしい。
ライメイレンからそう聞いている。
ちなみに、ヒイチロウと同じく自分の娘の子になるヘルゼルナークは、生活している場所のせいでなかなか会えなかったそうだ。
ライメイレンが戻ってきたら、甘えてみるか?
恥ずかしがる必要はないだろ。
あと、あっちでお爺ちゃんだぞって顔でドースが期待しているぞ。
ははは。
娘のラナノーンはもう寝ているし、こういった夜だ。
気楽にな。
話をするだけでも十分だと思うぞ。
武闘会の夜は更けていった。
修正)
アイギスの火に関して、村長が初めてみた感じだったのを修正しました。
すみません。