夏を振り返る
俺は秋の収穫に向けて畑を耕しながら、今年の夏は五村の店に掛かりっきりだったなと少し反省する。
大樹の村での夏の祭りも、文官娘衆に丸投げしてしまった。
今年の祭りは音楽祭。
歌、演奏、音さえ出せればなんでもあり。
審査員を用意して優勝者は決めるが、音楽を楽しんでもらえればいいというコンセプト。
優勝したのは歌うような鳴き声を披露したフェニックスの雛のアイギス。
アイギスがあんな凄い特技を持っているとは思わなかった。
間違いなく、優勝だ。
俺の横で同じように審査員をやっていたルーが、生命の鳴き声と呟いていた。
気持ちはわかる。
俺はあの鳴き声を聞いたとき、思わずアルフレートが生まれたときを思い出してしまったからな。
惜しかったのは牛たち。
牛一家が並んで、鳴き声でコミカルに合唱していた。
一頭、ラッパーがいるに違いない。
他に、ザブトンの子供たちによる楽器演奏、クロの子供たちによる遠吠え合唱も悪くなかった。
ハイエルフたちの演奏は上手いのだが、イベントでよく演奏しているから聴き慣れてしまっていた。
新曲が待たれる。
祭りの他に今年の夏にあったのは、ガルフ騒動。
冒険者ギルドが五村にもできているので、ガルフは冒険者として定期的に仕事をすることができた。
以前、一定期間活動をしなかったので冒険者登録を抹消され、一からやり直すことになったのでかなり助かると喜んでいた。
活動しなかったら登録抹消されるのは少し厳しいと思うが、冒険者ギルドとしては冒険者の身元保証をしているので冒険者として活動しない者を登録したままにはできない。
それに、活動しなくても居場所の報告だけでも構わないとしているのだから、十分に譲歩しているそうだ。
これだけなら騒動になるはずがないのだが、ことの発端はシャシャートの街の冒険者ギルド。
ガルフはシャシャートの街の冒険者ギルドで、再登録をして冒険者としての活動を開始した。
五村に冒険者ギルドができるまでは、シャシャートの街に報告に行っていた。
ガルフは冒険者として、すごく優秀なのだそうだ。
だから、シャシャートの街の冒険者ギルドは、ガルフがいることを大いに宣伝していた。
しかし、五村の冒険者ギルドができると、ガルフはそちらに報告に行くようになり、シャシャートの街にはなかなか顔を出さなくなった。
そうなると、ガルフがいることを大いに宣伝していたシャシャートの街の冒険者ギルドは困り、あの手この手でガルフをシャシャートの街に呼ぼうと画策を始めた。
その動きを察した五村の冒険者ギルドは、ガルフにシャシャートの街に行かないように画策。
最終的に、シャシャートの街の冒険者ギルド代表と、五村の冒険者ギルド代表が決闘するまでになった。
十人対十人の冒険者たちによる集団戦は五村の麓のイベント施設で行われ、それなりに盛り上がったそうだ。
結果は、途中で乱入した警備隊五人の勝利。
その五人の中に白銀騎士や赤鉄騎士がいて、大活躍だったそうだ。
勝負がうやむやになったところで、ガルフの一言。
「俺、この村の村長の護衛をやってるからシャシャートの街に行くのは無理」
五村の冒険者ギルド、大勝利。
いや、まあ、最初から争う必要は欠片もなかったのだが。
ガルフが態度をはっきりさせなかったというか、はっきりしていたのだがその表明が遅れたのには理由がある。
ガルフに初孫が生まれたから。
ガルフの息子の子で、女の子。
孫娘だ。
ガルフの息子の奥さんが出産による疲労から回復するまで、毎日のように孫娘の面倒を見ていた。
その際、息子が生まれた時の千倍嬉しいと口を滑らしてしまい、ガルフの奥さんと大喧嘩。
そりゃ、ガルフの奥さんにすれば孫娘がかわいくとも、自分の生んだ息子と比べられていい気分にはならないだろう。
俺が仲裁に入ることになってしまった。
俺も時々、失敗するからお互い注意しよう。
でもって、冒険者ギルドの件。
次からはトラブルが大きくなる前になんとかするように。
いや、お前は一切、悪くないのだけどな。
そうそう、プールだ。
今年の夏もプールを開放していたのだが、天使族のスアルロウが珍しがった。
後からやってきたラズマリアも。
マルビットはプールの存在は知ってたが、夏場に来たのは初めてだった。
だからか、大きな娘を持つ母親たちとは思えない盛り上がりだった。
エンジョイしてるなぁと思いつつ、三人の水着姿は眼に優しかった。
大きな娘たち、グランマリア、キアービット、スアルリウ、スアルコウに抓られてしまったが。
ははは。
君たちも素敵だぞ。
ん?
俺がラズマリアの胸ばかり見てる?
そんなことはない。
絶対にだ。
不名誉な疑惑はやめてほしい。
あとで色々と大変なんだから。
他に夏にあったのは……妖精女王事件。
妖精女王は甘味を好む。
好むのであって、甘味以外を食べることもできる。
滅多に食べないけど。
問題となったのが子供たち用に作ったハンバーグ。
子供たちが喜んで食べていたので興味を持った妖精女王が、ハンバーグを要望した。
その時、ハンバーグは子供の数だけしか作っていなかったので鬼人族メイドが急いでハンバーグを作った。
この時、ミスがあった。
子供たち用のハンバーグには、チーズが入っていたのだ。
だが、妖精女王に出したハンバーグにはチーズが入っていなかった。
誰も指摘しなければ気付かなかったかもしれないが、子供たちが言ってしまった。
「ハンバーグの中のチーズが美味しいよね」
妖精女王、自分の前に半分残っているハンバーグを静かに確認。
拗ねた。
めちゃくちゃ拗ねた。
どこかに引き篭もるなら迷惑もかからないのだけど、俺の前でこれ見よがしに拗ねた。
さすがに邪魔だったので、相手した。
一日、甘味作り。
一人だと寂しかったので、子供たちと一緒に。
妖精女王の機嫌が直ったころに、ハンバーグを作ってくれた鬼人族メイドに謝るように言っておいた。
チーズを入れ忘れたとはいえ、作ってくれたのだから。
感謝の気持ちを忘れてはいけないぞ。
そんなものだろうか。
色々あったように思えるが、意外と少ない。
その分、平和ということか。
いいことだ。
さて。
ギラル、そこで立たれても困るんだ。
ギラルの奥さんがグラルに会いたがっているのは聞いたよ。
俺は止めないから、素直にグラルを連れて帰ったらいいと言っただろ。
グラルがヒイチロウの傍を離れたがらないのは知ってるけど、ヒイチロウは駄目だぞ。
まだ小さい。
どうしてもと言うなら、ライメイレンが一緒に行くことになる。
まあ、その場合、ライメイレンの説得はギラルがやって……いや、だから俺に言われても。
ギラルの奥さんをこの村に連れてくるのは無理なのか?
大怪我を負っていて、あまり動けない?
……
なぜそれを先に言わない。
治療は?
無理?
気にするな?
いや、気になるだろ。
怪我をしたのは五百年前?
確かに大怪我だが、命の心配はない。
その状態でグラルを産んでいる。
そう言われると大丈夫そうだな。
駄目なのは人の姿になれないことと、外出が困難なことぐらいと。
それはそれで大変そうだ。
本当に治療は無理なのか?
「うむ。
世界樹の葉でもなければ、治らん」
……
…………え?