酒を飲む環境
ドワーフたちは、常に酒造りに励んでいる。
だが、それだけではない。
彼らは、常においしい酒の飲み方を研究している。
酒自体をおいしくするのは当然として、酒に合う食べ物の研究に余念がない。
そんな彼らに、新しい境地が開かれた。
「酒を飲む環境によって、味が変化する。
わかってはいたが、それを主目的にして場を整えるとは……」
ドワーフのドノバンが、驚いた顔で俺を見ている。
いやいや、そう驚かなくても。
宴会と同じだ。
個人差はあるだろうけど、汚い部屋と綺麗な部屋では、綺麗な部屋で飲むほうが美味しいと思う。
綺麗な部屋と野外ではどうだろう?
飲む環境による温度や湿度の変化もあるだろうけど、飲み手が美味しく感じる環境というのは当然ある。
宴会は、大勢で飲むという環境を作った結果だ。
なので、大勢でわいわい飲むのが好きな人には、宴会は酒を美味しく感じる環境。
逆に一人で静かに飲みたい人には宴会はイマイチな環境になるだろう。
今回、俺が準備した環境は万能船。
そのデッキに酒を飲む席を用意した。
夏の暑い日の夜、万能船に乗って大空で風を感じながら酒を飲むというコンセプト。
遊覧船や、ビアガーデンのイメージだ。
まあ、万能船には防護魔法が張ってあって、あまり風は感じられないが雰囲気は楽しめると思う。
万能船の船員と相談して、スペースを決定。
そこに長テーブルと椅子を並べる。
夜の飛行になるので、デッキでの明かりをどうしようか悩んだが、ルーが魔法でなんとかした。
ありがとう。
酒はドワーフたちに頼み、料理は鬼人族メイドに頼んだ。
夕食後に出発する予定なので、料理はそれほどいらないと思うが……念のため。
俺としては酒が好きな大人だけの参加と考えていたのだが、子供たちの視線に負けたので子供スペースを作る。
眠くなった子供たち用の部屋も準備。
クロの子供たち、ザブトンの子供たちの視線にも負けたので、スペースを作る。
デッキだけのつもりだったけど、船内も使うことになった。
身内だけのつもりだったが、魔王、ビーゼル、ドース、ギラル、ドライム、始祖さん、スアルロウがどこから話を聞いたのか、すでに待機している。
まあ、彼らは身内みたいなものだし、問題ないか。
ヨウコ、聖女のセレス、ユーリも参加すると聞いている。
五村での仕事が終われば、急いで戻ってくる予定だ。
住人たちから多数の参加表明が出ているが、さすがにスペースの問題で全員は乗せられない。
日をまたいで、複数回の飛行を行うことになった。
うーむ。
一回、遊覧船っぽいことをしたかっただけなのだが……
夜。
夕食は全員、しっかり食べてもらう。
船に持ち込める料理には限りがあるのだから。
そして、一日目の飛行開始。
予定では、二時間ぐらいの遊覧飛行。
乾杯の挨拶の前に、一言。
絶対に落下しないように。
落下しなくても、危険な行為をした者が出た場合は、次回以降の開催がなくなるので注意を。
では、乾杯。
朝。
昨夜は飲んだ。
飲みすぎてしまった。
雰囲気に流されたようだ。
記憶が曖昧だ。
俺は危険な行為をしていなかっただろうか?
自分で注意しておいて、自分が危ないことをしていたら、笑いものだ。
思い出すと……
うん、酒の席だな。
わいわい飲んでいた。
子供たちにはジュース。
ハクレン、鬼人族メイドのアン、ラムリアスが見張ってくれているので安心。
妖精女王が子供たちとゲームをして盛り上がっていたな。
大人たちは……夜の空を楽しみながら酒を飲んでいた。
ハーピー族の数人が万能船の周囲を飛び、外敵への警戒と万が一の落下防止に努めてくれていた。
ありがとう。
そして席の中央では芸をする者が数人。
そうそう、スアルリウ、スアルコウの二人が、お腹にタオルを巻いて登場。
「妊娠しちゃった」
と声を揃えたところで、スアルロウが盛大に酒を噴いていたな。
あれはうけたのかな?
それとも娘たちの奇行に驚いたのか、どっちだろう。
万能船の船首で、クロとユキが並んで夜空をみていた。
いい雰囲気だ。
ザブトンの子供たちは、万能船の帆にぶら下がっていたな。
風に落とされないように……防護魔法で守られているから大丈夫か。
ザブトンの子供たちが集まって、帆に絵を描いてもいたな。
あれは見事だった。
うんうん、俺の行動に問題はなさそうだ。
……
あれ?
おかしい。
どうして俺はいま、太陽城こと四村にいるんだ?
万能船も停泊しているし。
周囲には、万能船に乗っていた者たちや、四村の住人たちが酔いつぶれている。
ベルやゴウ、クズデンも潰れているな。
……
…………
俺が酔って、四村に突撃とか言っちゃったかな?
潰れずにまだ飲んでいるヨウコに確認。
「途中で料理がなくなったので、近くの四村から補給という話になった」
なるほど。
「四村に到着後、ここで宴会をすれば船でやるのと一緒だな。
そう村長が言ったと覚えているが」
……言われてみれば、そんなことを言った気がする。
駄目だなぁ。
酒は控えよう。
そして飲んでも飲み過ぎない。
これが一番。
ベル、ゴウ、クズデンを起こして謝罪。
四村でこういった派手な宴会をやった経験が少ないから楽しかった?
それはよかった。
使った酒、食材はあとで補充するから。
鬼人族メイド、すまなかったな。
料理をずっと任せてしまって。
そしてドノバン。
日が昇るのを見ながら飲む酒はどうだ?
そうか、最高か。
俺としては夜酒を楽しんでほしかったが、それはそれでよしとしよう。
とりあえず、急いで帰るぞ。
村の者たちが心配しているだろうから。
以後、数日。
万能船による夜間飛行の宴席が開かれた。
未参加の者優先。
俺も同席するけど、酒は自粛。
そして、ドワーフたちは、酒を飲む環境作りにも拘り始めた。
迷惑になるような場所は駄目だぞ。
危ない場所もな。
発想はいいが、木の上は危ないと思うぞ。
酔ったら落ちる。
ため池に浮かべた船も。
絶対にひっくり返ると思う。
嫌いじゃないけどな。
酒に合わせた店の内装を考えるとか、そっち方向でどうだろう。
俺はドワーフたちの発想の軌道修正を頑張った。
ベル 四村勤務のマーキュリー種。太陽城城主補佐筆頭。
ゴウ 四村勤務のマーキュリー種。太陽城城主補佐。
クズデン 四村の村長代行。
今週来週、更新が乱れます。
すみません。




