スアルロウの挨拶
お昼。
屋敷の食堂で、双子天使のスアルリウ、スアルコウの母親であるスアルロウが俺の前で片膝をついていた。
「拝謁を賜り恐悦至極に存じます。
ロヒエール派筆頭、スアルロウでございます」
……
スアルロウから挨拶したいと言われたから頷いただけなのに、どうしてこんな感じに?
はじめましてー、いやいやこちらこそー、のフレンドリーな感じじゃ駄目なの?
周りにいる鬼人族メイドたちも面白がって、厳粛な雰囲気を作らない。
俺、食事の最中なんだけど。
スアルロウも片膝をつくのはやめて。
こっちが恐縮してしまう。
勘弁してくれ。
スアルロウは、三回ぐらい強く言ってやっと立ってくれた。
顔をみる。
俺の中でのスアルロウの顔のイメージ、泡を吹いたときで止まっていたからな。
元気そうでよかった。
ん?
なんだか、妙に気力に満ち溢れているような気がする。
「このスアルロウ。
ヒラクさまのために全てを捧げることを、ここに誓います」
え?
「さあ、ご命令を。
まずは魔族を滅ぼしますか?
それとも人間を?
両方を滅ぼしてしまうと、ヒラクさまの威光を後世に伝え残せませんが……ヒラクさまが望まれるのであれば私に躊躇はありません」
待って。
ちょっと待って。
えーっと……
俺の困惑を察したのか、ティア、キアービット、グランマリアがスアルロウを抱えて退室した。
……
俺は食事を中断し、スアルリウ、スアルコウの二人に母親のことを聞いた。
「お母さまを簡単に説明するとですね……
天使族が神人族を名乗っていたころの武闘派で、ティアさまの前に最強を名乗っていました」
そうなの?
「天使族に対して思い入れが強く、敵対者には容赦がなかったと聞いていますが……
私たちを生んでからは丸くなったと言われています」
そ、そうなんだ。
しかし、丸くなったのにさっき魔族や人間を滅ぼすとか言ってなかったか?
「お母さまが所属しているロヒエール派は、簡単に言えば……
天使族こそ神に認められし種族!
神と天使族がいれば世の中は平和で幸せじゃね?
というスタンスの派閥で、天使族のなかでは最も過激な派閥と認定されています」
確かに過激だ。
そ、そのロヒエール派の筆頭である彼女が、妙に俺を持ち上げているのはなぜなんだ?
「持ち上げているというか、崇めているのでしょう。
たぶん、お母さまは村長のことを神に等しいと認めたのではないでしょうか」
神に等しいって、なにをどう見てそう思ったんだ?
わからない。
だが、なんにせよ俺は神じゃない。
勘違いさせる原因があるなら、それを取り除かないとな。
「世界樹が育っているからではないでしょうか?」
……
「神から天使族に譲られたという世界樹。
これまでずっと育たなかったのに、村長の手に渡った瞬間に大きく育ったら、そりゃ神だって思いますよ。
誰だって思います」
いやいや、それは俺の力ではなく、【万能農具】の力。
あ、でも【万能農具】は神様からもらったから、その勘違いも仕方がないのか。
うーん。
とりあえず、心を込めて言うしかないだろう。
俺は普通の人間だと。
再開。
「さきほどは失礼しました。
どうも勘違いが先走ってしまったようで」
おおっ。
俺が説得するまでもなく、勘違いが解消されている。
ティアやキアービット、グランマリアが頑張ってくれたのかな?
ありがとう。
「ヒラクさまは平穏をお望みとのこと。
承知しました。
この村に敵対する勢力を全て殲滅していくことを、ここにお誓い申し上げます。
いや、命令を頂こうと驕った自分が恥ずかしい。
命令されずとも、自主的に動かねば」
はい、中断。
ティア、キアービット、グランマリア、頼んだ。
スアルリウ、スアルコウ、集合。
「え?
なに?
君たちのお母さんって、殲滅させるのが好きなの?」
素で聞いてしまった。
「どちらかと言えば、好きなほうですね。
ティアさまが活躍されるまでは、殲滅天使を名乗っていたそうですし」
そう言えば、そんな二つ名をティアが言ってたな。
グランマリア、クーデル、コローネは、皆殺し天使だったか?
考えてみれば、物騒な二つ名だ。
この村で暮らしているティア、グランマリア、クーデル、コローネをみているが、俺は彼女たちにそんな二つ名をつけようとは思わないけどな。
なんにせよだ。
まず確認するが、彼女はどれぐらい強いんだ?
ティアたちで抑えられるのか?
「直接対決はしていませんが、最強はティアさまです。
それにキアービットさまとグランマリア、クーデル、コローネが加勢すれば、負けることはないでしょう」
そうか。
では、クーデル、コローネを呼んでおこう。
「いえ、その……ティアさまたちが頑張らなくても、クロさまのお子様が十頭もいれば、なんとかなりますよ」
……
考えてみれば、ティアも初めてここに来たときにクロたちにやられていたな。
では、クロの子供たちを呼んでおくか。
あ、もう待機済みね。
よし、スアルロウが暴走してもこれで大丈夫。
さっきは俺が怯んで中断してしまったけど、今度は頑張る。
でも、ティア、キアービット、グランマリアの説得に期待。
再開。
「重ね重ねの無礼、ご容赦ください」
よし、まとも。
しかし、油断はしない。
「改めて。
スアルリウ、スアルコウの母、スアルロウでございます。
以後、お見知りおきをよろしくお願いします」
こちらこそ、よろしくお願いします。
あと、もう少しフランクな話し方で。
慣れないから。
「はっ。
ありがとうございます。
では、多少軽く……」
おおっ。
普通に話ができた。
話の内容は、スアルリウ、スアルコウがこの村で何をやっているか。
二人は頑張っていると答えておいた。
実際、頑張っている。
多少、指示待ちな姿勢が強いけど、言われたことは確実にこなしている。
村には欠かせない戦力になっている。
なので、盛りすぎないように注意しつつ、できるだけ正直に伝えた。
スアルロウは満足したようだ。
よかった。
ところで昨日、気絶したのは……
あ、世界樹が育っていることと、その世界樹の葉を食べている虫がいることに驚いたのね。
天使族は神が世界樹の葉を食べて生みだした種族?
そうなのか。
まあ、あの虫……巨大な蚕は世界樹が飼育しているようなものだから。
敵じゃないからね。
世界樹のためにいるような感じだから。
見逃してやって。
大きな問題もなく、スアルロウの挨拶は終了。
スアルロウは客室に戻った。
スアルリウ、スアルコウの二人はそれに同行。
案内と見張りを兼ねるそうだ。
マルビット、ルィンシァがお金を出して建てた天使族用の別荘は完成しているが、内装が揃っていないからな。
内装に関しては、次の冬にマルビットとルィンシァが来たときに五村で揃える予定になっている。
一安心したので、俺の腹が鳴った。
そう言えば、食事を中断していた。
完全に冷めてしまったが、もったいないのでちゃんと食べる。
食べながら、ティア、キアービット、グランマリアに、スアルロウにどう勘違いを解いたのか確認しておく。
この後、俺が変なことをしてまた勘違いさせてはいけないからな。
「村長は人間のふりをしているので、それを暴くような真似は喜ばれませんと伝えました」
ティアの言葉に、俺の食事が止まった。
キアービットが続ける。
「ティア、グランマリアのように村長の子を儲けるチャンス。
戦で世を乱すよりは、スアルリウ、スアルコウに頑張らせては、と私は提案しました」
な、なるほど。
確かに先ほどの会話の端々で、夜の生活に関して匂わされた。
最後、グランマリア。
「神の軍に敗北は許されません。
万が一の敗北を避けるため、日々の鍛錬をしつつ、号令が掛かる日を待つのが正しき姿ではないかと、私は進言しました」
……
つまり、三人は俺が神であるというスアルロウの勘違いを正さず、勘違いを利用して大人しくさせたのか。
なるほどなるほど。
「いやいやいや、俺が神じゃないって説得してほしかったんだけど」
「そんな山を動かすようなまねは、できません」
三人に口を揃えて言われた。
「スアルロウの勘違いを正すのって、山を動かすレベルなのか?」
「いえ、村長を神じゃないと言い張るのがです」
グランマリアが窓の外を指差した。
「死の森に村を作りました。
これだけでも神の御業、神の奇跡です。
これを誤魔化すのはどうやっても無理かと」
……
な、なるほど。
わかった。
あー、確認だが、お前たちは俺を人間だと思っているよな?
大丈夫だよな?
もちろん?
よかった。
ありがとう。
一応、理由を聞かせてもらえるかな。
……
どうして目を逸らす?
まさか、俺が人間のふりをしているって信じてないよな。
三人の冗談だった。
よかった。
ははは。
俺はしばらく、人間だとアピールする活動を行った。
ビーゼルやマイケルさん、ドライムたちは大丈夫だと信じたい。
スアルロウは狂信者ではありません。
ただ、ちょっと目の前に神様がいて有頂天になっているだけです。
普段はまともなキャラのはずです。




