五つの店
俺は失敗ばかりだな。
反省する。
そして、ちょっと後悔もしている。
五村で店を開く計画だが、最初は一軒の予定だったが、それが二軒になり、今では五軒になっていた。
どうしてこうなったかは簡単だ。
ヨウコが確保していた土地に店ができると知った住人たちが、揉めだしたからだ。
揉めると言っても出店お断りではなく、どちらかと言えば出店を希望する方向で。
正確に言えば、ヨウコの確保していた五つの土地の南側を除いた場所から抗議の声がでた。
どうして私たちのいる場所で開店してくれないのかと。
抗議の声が届けられたヨウコは笑って一喝。
「どこに店を開くかは村長の差配。
囀って迷惑をかけるな。
いずれ、他の地にも何か建ててくださるであろうから、しばし待て」
ヨウコの言葉で騒ぎは収まったのだが、俺が西側に二店舗目を出す計画をしていることが露見すると、ヨウコも笑ってられないぐらいの騒ぎになってしまった。
「西側の抜け駆けか?」
「西側だけ何かやったのではないか?」
「取りまとめ役は何をやっている?」
「我々は出遅れているのか?
協力者を募れ!
数を集めるんだ!」
などの声が住人たちから出て、同時に北側、東側、麓側で人が集まり、これに慌てた南側、西側も人を集め、不穏な空気が五村を覆った。
これには、さすがのヨウコも切れた。
「此度の話は、もとはお主ら住人の要望を我が村長に伝え、聞き届けてくれたもの!
感謝こそすれ、我が身に利をなさぬからと騒ぎ立てるとはいかなる了見か!
村長の行いに不満があるならこの地より去れ!」
ヨウコは各代表者……らしき者が明確にいなかったので、各所の発言力の強そうな者を無理矢理に集め、通告した。
慌てた発言力の強そうな者たちは弁明。
「村長の行いに不満があるわけではありません。
ただ、南側や西側の抜け駆けが気に入らんのです」
「不満ではありません。
私たちの住む場所は、南側や西側にも負けぬと思っております。
しかし、なぜ我らのいる場所を選んでくださらなかったのかと悲しく思っているだけです」
多少の差はあるが、ほぼこの二つの意見が主流。
「では、どうして待てぬ。
村長は南側に店を開き、西側にも計画をしている。
なれば次もあるとどうして考えぬ」
ヨウコはそう言って、騒動を収めた。
そして事の顛末がまとめられて俺に提出された。
はい、どう考えても俺が悪いです。
南側はともかく、簡単に西側にも店を出すって決めたのが駄目だった。
ニーズが乗り気だったし、南側のクロトユキの狙う客層が露骨に酒飲みを外しているから、酒を出す店なら客層も被らないし大丈夫だろうと思ってしまった。
五村に起こさなくていい騒動を起こしてしまったと反省する。
反省は言葉でするものではない。
行動でするもの。
南側のクロトユキはこのままオープンの準備を。
少し遅れるが、西側、東側、北側、麓でも店を開こうと思う。
ヨウコからは住人が図に乗ると止められたが、俺は強行する。
後回しにすると、今度はオープンする順番で揉めそうだから。
しかし、困るのは店の人手。
店の中心には読み書き計算ができて、店に専従できる人がいてほしい。
五村の住人は協力してくれるだろうけど、読み書き計算ができて店を任せられる人物ならすでに何かしらの仕事をしている。
シャシャートの街のマルーラから応援を呼ぶにしても限界がある。
特にシャシャートの街から計算ができる者を引き抜くと、シャシャートの街で会計を担当しているミヨが怒る。
ミヨが怒らなくても、マルビットの紹介でガーレット王国から会計ができる者がやってきて、やっとシャシャートの街の会計不足を解消しつつあるところだ。
逆の行動はできない。
では、どうするか?
一人で悩んでも仕方がないので、五村でヨウコや聖女のセレスに相談した。
ヨウコからは、会計に関しては今回の騒動に関わっている商人から出させる意見がでた。
無理矢理は駄目だぞ。
セレスからは、教会関係者で一店舗の管理なら任せてくださいと頼もしい言葉をもらった。
ありがとう。
しかし、それでも足りない。
どうしようかと悩んでいると、護衛で同行しているガルフから提案。
「警備隊から人手を集めるのはどうです?
たしか、何人かは商売をやっていた経験があるはずです。
あと、エルフ帝国出身の者たちは読み書き計算ができたかと」
なるほど。
俺はすぐさまピリカのもとに行き、相談した。
「全ては村長の意のままに」
いや、相談だから。
命令じゃないぞ。
ガルフをあいだに立たせ、相談。
ピリカは、隊員が店で働くことを希望するなら警備隊を辞めてもいいし、警備隊の仕事と兼任しても構わないと言ってくれた。
なので朝礼時にピリカから隊員に伝えてもらった。
最終的に二十人ほどの希望者が出てくれたが、朝礼時に即答したのは警備隊の訓練に参加していた青銅騎士と、エルフ帝国出身の者が二人。
まず、青銅騎士。
君、ここで永住するつもりじゃないだろ?
帰らないといけないんじゃないか?
永住するから訓練から解放してくれ?
いやいや、まてまて。
そんな後ろ向きな姿勢で店をやられても困る。
それに訓練は強制じゃないだろ?
嫌ならやめたらいいじゃないか。
白銀騎士や赤鉄騎士が続けているのに、青銅騎士だけがやめたら逃げ出したことになる?
まさに逃げ出そうとしているんだろ?
大義名分がほしいと。
それなら俺がやめさせるように言おうか?
俺に何ができるって?
いや、そう言われても……この村の村長だからピリカに言えば、大丈夫だと思うけど。
そう、そのヨウコの上の立場。
一応。
いい歳の男性に泣きながら頼まれた。
あ、うん、じゃあ訓練から解放するように伝えるから。
あとは好きに行動していいよ。
え?
店をやる?
全力で?
貴族出身だけど、商売やってた経験もあるから任せてほしい?
それはありがたいけど……大丈夫なのか?
いや、商売の実力じゃなくて、立場的に。
気にするなと胸を張って言われた。
本当に大丈夫だろうか。
エルフ帝国出身の一人目。
「私は元々、帝国皇家の財務を担当していた者の娘です。
自身で店をやっていた経験もあります。
肉体や精神を鍛えることが無意味とは言いませんが、すでにある知識や経験を使ってお役に立ちたいと考えております」
彼女は文武に自信があったのだけど警備隊の訓練にはついていけず、落ちこぼれのポジションなので商売に関われるなら、そちらのほうがありがたいと訴えられた。
小さい店だけど大丈夫?
店の大小は問題なし?
商売はうまく行けば、いやでも大きくなります?
ははは。
採用。
エルフ帝国出身者の二人目。
「私は元皇族です。
お願いします。
助けてください。
あの訓練から逃げられるならなんでもします」
なんでも?
「はい。
幸いなことにあの訓練で、理不尽に耐える精神力はついたと自負しております。
大丈夫です。
なんでもします!」
理不尽に耐える精神力がついたのに訓練から逃げたいのか?
「私は元とはいえ皇族です。
お姫さまなのですよ。
それが今日は何キロの重りに耐えられるかな、とか。
よーし、今日は穴を二メートル掘ってみよう、とかを自然に考えているのが怖いのです。
休暇の日、誰に言われたわけでもない腕立てと腹筋を延々とやって終わらせたことが何度あるか。
みてください。
この腕の筋肉を。
これがお姫さまの腕ですか?
違いますよね?
どう見ても違いますよね?」
あー、えっと大丈夫だから。
エルフの筋肉は見えにくいから。
しかし、これは予想だけど……店をやっても筋トレは続けるんじゃないかな。
もう十分に染まってると思うから。
そんなことはない?
まあ、それなら構わないんだけどね。
「それで、採用ですか?」
採用で。
「ありがとうございます。
このキネスタ=キーネ=キン=ラグエルフ。
永遠の忠誠を……すみません。
お名前とお立場をお聞きしても?
……村長?
ここの?
…………………………
愛妾とかいりません?
本当になんでもしますよ?」
ははは。
お気持ちだけで。
遠慮します。
はっきり言わないと駄目かな?
いりません。
こうして採用した人材を組み込み、各店舗の経営を再構築した。
南側、甘味とお茶の店、クロトユキ。
店長代理、キネスタ。
本当はニーズが担当する予定だったが、キネスタに任せた。
マルーラからの応援が多いので、トップが多少不安でも大丈夫だろうとの判断だ。
ニーズにはクロトユキの店長代理からは離れてもらったが、五つの店の副総支配人の立場をお願いした。
ちなみに、総支配人は俺。
各店舗の店長も俺。
村長なんだけどなぁ。
東側、こちらも甘味とお茶の店、青銅茶屋。
店長代理、青銅騎士。
クロトユキに似た喫茶系の店のつもりだったけど、青銅騎士が自分の武器は顔だと胸を張って言うのでそれを前面に押し出す形にしたら、執事喫茶みたいになってしまった。
住人に受け入れられるかが少し不安だ。
五村からの集めたスタッフも、青銅騎士が顔で選んだと思われる。
男の俺からみても、イケメン揃い。
北側、甘味堂コーリン。
店長代理、聖女のセレス。
ここでは煎餅と団子を売ってもらうことになった。
店内で飲食させるスタイルよりは、店頭販売のほうが無理がないからと。
一応、セレスが店長代理だけど、常時店にいられない。
教会関係者が交代で担当する。
人手が足りない可能性があるので、大樹の村に来ていた始祖さんに相談し、フーシュに人手を追加してもらうことを検討しているそうだ。
麓、麺屋ブリトア。
店長代理、元エルフ帝国の財務担当者の娘。
ここはラーメン店をすることになった。
ちょうど、シャシャートの街のマルーラにラーメンを専門にやりたいという者もいて、とんとん拍子に話が進んだ。
その者と財務担当者の娘の二人三脚で頑張ってほしい。
もちろん、他のスタッフも。
警備隊と兼業で働く者の多くが、この店で働くようだ。
西側、酒肉ニーズ。
店長代理、ニーズ。
酒を出す店ということで最初は酒場になりそうだったが、近所にある酒場に遠慮して焼肉屋に。
酒だけの注文はなし。
これも近所の酒場に遠慮してだ。
ここは種族に合わせた大中小の火鉢を用意するのが大変だった。
あとタレ。
一村住人と鬼人族メイドが協力して作ったタレを、大樹の村から卸す形になった。
大樹の村で生産している野菜や調味料をたっぷりとつかっているので他店では真似できないだろう。
酒に関しては、ドワーフのドノバンに任せた。
専門家に任せるのが一番。
それと、赤鉄騎士もこの店で働くそうだ。
青銅騎士と違って、感覚的にはアルバイト。
滞在費を稼ぎたいそうだ。
目的がはっきりしているし、ニーズが採用したいと言っていたので問題なし。
なんだかんだと苦労して五つの店がオープン。
どの店も客足が順調のようで、一安心。
そして、俺の反省を行動で示せたと思うのだが……
俺が後悔している点もある。
それは原材料。
特に甘味につかう小麦と砂糖、お茶の葉、煎餅や団子のモチ米。
今年、来年は大樹の村の備蓄でなんとかなるが、再来年は怪しい。
なので大樹の村の畑を拡張することになった。
いま、頑張ってる。
ミヨ 太陽城出身のマーキュリー種で、シャシャートの街に会計の応援で派遣中。