赤鉄騎士の従者 五村報告 前編
私の名はキスン、キスン=ホリイズ。
今年で三十歳になる男性で、独身です。
職業は赤鉄騎士の従者をしています。
従者とは、一般的に主人と一緒に戦う人のことを指します。
戦場で一人の騎士の周囲に歩兵が控えているのを見たことありませんか?
騎士が主人だとすれば、その周囲の歩兵が従者です。
ええ、私はたくさんいる従者の一人です。
その従者ですが、騎士家に代々仕えている譜代の家臣もいれば、領地で徴兵された者、お金で雇われた者など様々です。
私は領地で徴兵された者になります。
平民です。
ただ、私は生まれた時から従者となるべく育てられました。
平民にしては家が裕福でしたから。
そして、幸運なことに私の仕える主人が、赤鉄騎士の称号を受ける実力の持ち主だったのです。
ええ、幸運です。
ある日、私は赤鉄騎士に憧れる若い少年から質問をされました。
「従者さまは普段、どの様なお仕事をされているのですか?」
私はこう答えました。
「苦情の受け付けと処理です」
冗談じゃありませんよ。
最近はカイザン王国の王様からも苦情係と認識されているのですから。
さて。
私は今、五村と呼ばれる村で日々を過ごしています。
もう二ヶ月になります。
従者の仕事はしばらくお休み。
だからでしょうか、朝の目覚めがすっきりです。
寝不足気味でなかなかとれなかった目の下のクマも消えました。
寝る前に枕を殴っていた日課を行わなくなったのが、よかったのかもしれません。
きっとそうでしょう。
宿で朝食を食べます。
朝食に限らず、宿で用意された食事は美味しいです。
しかも、毎食違う料理なのが驚きです。
カイザン王国にある宿では、毎日、同じ料理が出ても不思議ではないというのに。
この宿が特別なのでしょうか?
それとも、魔王国にある宿は全てこうなのでしょうか?
五村に来る前にシャシャートの街に滞在しましたが、あそこでは宿で食事をとらず、ビッグルーフ・シャシャートと呼ばれる巨大な施設で食事をとっていました。
カイザン王国に帰るときに、ちゃんと調べなければ。
食の多様性は、豊かさの証明です。
魔王国が豊かなのは聞いていましたが、どれほど豊かなのかは体感しておきたいところです。
朝食を食べ終わったあと、私は村を散策します。
赤鉄騎士さまの従者を休んでいる今の私の立場は、カイザン王国からの使者。
五村の村長代理であるヨウコさまに、カイザン王国の王様からの手紙を渡したことで、仕事は完了。
あとは赤鉄騎士さまが帰ると言うまでは、やることがありません。
本来なら粛々と待機するのですが、せっかくの魔王国。
色々と見聞したいと思っています。
そのための散策です。
さて、今日は……どうしましょう。
二ヶ月も滞在しているので、色々と見てしまっています。
困りました。
……
仕方がありません。
何を見聞するかを考えるために、いつものお店に行きましょう。
二ヶ月前、私が五村に来た直後ぐらいに五村の南側でオープンしたクロトユキ。
甘味とお茶のお店です。
一見、狭いお店のように見えますが、奥に広がってなかなか広いお店です。
開店直後はお客もまばらですが、時間が経つにつれてお客が増えていきます。
昼ぐらいになれば、外に行列ができるぐらいです。
私はそれを知っているので、昼以降は行きません。
行くなら昼前がお薦めです。
指定席のシステムはありませんが、いつも座っている席に座れると心が穏やかになります。
会話したことはありませんが、顔見知りの常連客がいたので会釈。
魔族の年配の男性ですが、誰でしょうか?
一度、名前が耳に入ったのですが、長くて覚えきれませんでした。
おっと、詮索はマナー違反。
私は従業員を呼び、いつもの注文をします。
このお店、従業員たちは揃いの制服を着て接客をしてくれます。
揃いの制服はいいですね。
誰が従業員かすぐにわかります。
ただこのお店。
従業員の年齢が少し高めなのですよね。
個人的にはもう少し若い女性の従業員を期待したいのですが……今の落ち着いた雰囲気が壊れるかもと考えると、難しいところです。
すぐに私の前に、紅茶とミニパンケーキが届けられます。
色々と試しましたが、このセットが至高だと思っています。
特にこのミニパンケーキ。
初めて見た時は小さいことにがっかりしましたが、今ではこのサイズが丁度いいと思っています。
紅茶を一口。
そしてミニパンケーキを一口。
ふふふ。
私は至福のときを過ごしました。
しまった。
見聞のことを完全に忘れていました。
それに気づいたのはお店を出たあと。
お店にいる間は、頭の中がお茶と甘味に支配されていました。
うっかりです。
まあ、美味しかったのでいいでしょう。
さて、これからどうするかですが……
せっかくですから、クロトユキに縁のあるお店を回ってみましょう。
このクロトユキのオープンに遅れること一ヶ月、四軒のお店がオープンしました。
南側にオープンしたクロトユキに対抗するかのように、西側、東側、北側、そして麓に。
私としてはクロトユキが一番と言いたいのですが、お店の種類が違いますからね。
優劣は付けられません。
では、西側のお店……は、夜のお店なので、東側のお店に向かってみましょう。
東側に開店したお店の名前は、青銅茶屋。
クロトユキと同じように甘味とお茶のお店です。
お店の広さもクロトユキと同じぐらいです。
ただ、明確にクロトユキと違う特徴があります。
それは、お店の名前からわかるとおり、青銅騎士が働いていることです。
いいのでしょうか?
青銅騎士は、四十代の口髭が似合う男性。
男性の私から見ても、イケメンです。
その彼が、ビシッとした服装で接客しています。
しかも、お客が女性であれば、片膝をついて目線を落としての接客。
相手の身分などは気にしていません。
年齢も気にしていません。
常にお客のことをお嬢様と呼んでいます。
青銅騎士のやることではないと思うのですが、彼は平然とやっています。
悔しいですが、似合っています。
そして、当然ながら青銅騎士一人で接客は無理です。
なので他の従業員がいるのですが、その従業員たちもイケメンで揃えられています。
しかも、年齢の幅は広いです。
だからでしょう。
女性に大人気のお店になっています。
熱気がすごいです。
男性客お断りのお店ではありませんが、男性一人では入れない雰囲気になっているので私は遠目でお店を見ます。
青銅騎士、生き生きしてるなぁ。
この青銅茶屋。
商品のラインナップはクロトユキと同じような感じなのですが、お値段はクロトユキより一回り高めに設定されています。
青銅騎士ほか、イケメン従業員の笑顔分、上乗せされているのでしょう。
私は青銅茶屋の前を通り、五村の北側にオープンしたお店に向かいます。
北側に開店したお店の名前は、甘味堂コーリン。
名前からわかるとおり、コーリン教が関わっているお店です。
従業員は、コーリン教の関係者でしょう。
五村の教会でみたことのある顔をみつけることができます。
時々、悪辣フーシュが姿を見せるとの噂がありますが、噂でしょう。
彼女はレイワイト王国から離れられないはずです。
五村に来れるわけがありません。
それに、五村に彼女が来ているなら白銀騎士に対して何かあるでしょう。
なのに白銀騎士はいまでも五村の警備隊の訓練に参加しています。
つまり、悪辣フーシュが姿を見せるというのは完全なるデマ。
噂なのです。
なので、お店の前で列整理をしている彼女は悪辣フーシュのそっくりさんでしょう。
あ、ひょっとしたら悪辣フーシュの血縁者かもしれませんね。
ははは。
フーシュさまと呼ばれていますが、私は聞かなかったことにします。
さて、甘味堂コーリンでは店内での飲食はできず、持ち帰りオンリーの甘味屋です。
メニューは、お煎餅と季節のお団子の二つだけ。
この二つが大人気。
販売される量が決まっており、売り切れで終了となるので手に入れるのはなかなか難しいのが難点です。
本気でほしいなら、日の出前から並ぶのがいいでしょう。
私は一回、並びました。
お煎餅も季節のお団子も美味しかったです。
日持ちしないのが残念です。
あと、当然ながら一人のお客が買える量が決まっているので、量を求める場合は人手が必要になります。
大商人のところで働く若手が、日の出前に列を作るのは恒例の風景になりつつありますね。
ちなみにですが、季節のお団子はクロトユキの裏メニューにあります。
お客が少ないときにしか出してくれませんが、それを知ったときは嬉しかった。
とりあえず、お煎餅を並んで買えそうかチェックして……無理そうなので諦めました。
私は五村の南側に戻って、麓に向かいます。
長くなってしまったので、前後編になります。
フーシュは時々、手伝っているだけで定住はしていません。
作業中、台風で停電しました。
マシン、ダウン。
なので書き直しです。
すごい台風でした。
会社の倉庫が転倒、クーラーの室外機も転倒断線。
近所の電柱、曲がる。
信号機も曲がる。
車の上には瓦が乗ってました。
みなさんはご無事でしょうか?




