三人の騎士
人間の国には、白銀騎士、青銅騎士、赤鉄騎士と呼ばれる三人の騎士がいる。
この三人の騎士は自称ではなく、それぞれ正式な称号。
白銀騎士はレイワイト王国にあるコーリン教から与えられる称号。
各地を放浪し、自分の信じる正義を守る騎士。
それゆえ、子供たちからの人気が高い。
青銅騎士はルーガ王国、ガーレット王国、ベルル王国を代表にした十二の王国の承認を得た騎士に与えられる称号。
それゆえ、十二の王国を自由に往来することができ、時には王国間の仲介、仲裁を行う。
武だけでなく、文にも優れていなければ与えられない。
赤鉄騎士はカイザン王国の第二騎士団の団長を勤めた者が、団長引退後に与えられる称号。
団長引退後に与えられるので名誉称号の意味合いが強く、子供たちからの人気はイマイチだ。
しかし、大抵の赤鉄騎士は団長引退後に隠居したりせず、カイザン王国の軍事の相談役や、王族の専属護衛として活躍する。
カイザン王国では王様よりも知名度が高い。
ちなみに、カイザン王国の第一騎士団の団長は王様なので、第二騎士団の団長は実質的なカイザン王国の騎士の頂点になる。
白銀騎士、青銅騎士、赤鉄騎士は唯一無二の称号ではないが、一時代にそれぞれ一人か二人しかいないとされている。
その理由が、三人の騎士には強さが求められるからだ。
剣技だけでなく、あらゆる戦いで。
もちろん、戦いに身を置くのだから敗北はある。
だが、敗北しても決して折れない心を持ち。
最後は勝利する。
それが三人の騎士。
場所によっては勇者や剣聖よりも崇められていたりする。
俺は五村で、ピリカから三人の騎士の話を聞いた。
なるほど。
「それで、そこに倒れているのが誰だって?」
「白銀騎士です」
……
確かに白い鎧を着ているな。
白銀騎士と言われたら、そうかもしれない。
「そっちで壁に突き刺さっているのは?」
「青銅騎士です」
見える下半身には、青い鎧が着けられている。
青銅騎士と言われたら、そうかもしれない。
「じゃあ、あそこで震えているのは赤鉄騎士か?」
「いえ、彼は赤鉄騎士の従者です。
赤鉄騎士は逃げました」
……
そうか、逃げたのか。
「あ、いま捕まえたとの報告が入りました」
そうか、捕まえたのか。
……
えっと……
どうして、こうなったんだ?
俺は五村に定期的に訪問していた。
五村で店を開かないかと、ヨウコに持ち掛けられたからだ。
シャシャートの街のマルコスからも、何人かの従業員を五村で働かせたいとの要望も出ていた。
また、五村であれば一村から通えるので、子供のいる一村の者たちも働きやすいとのことだ。
なるほどと俺は現地視察。
ヨウコは五村が大きくなる前から土地を確保しており、俺が店を出す場所の候補は最初から五つに絞られていた。
どの場所も悪くない。
いや、いい場所だ。
なので、クジで場所を決めた。
南斜面の中ほど。
五メートル×二メートルの一見、狭い立地だが……実は五村がある小山を掘っているので奥が広い。
掘られた部分は十メートルぐらいある。
なので、使える面積は五メートル×十二メートル。
ビッグルーフ・シャシャートには敵わないが、それなりに広い。
弱点は日の光が入らないから、奥が暗いことかな。
昼間でも魔法の光が必須になる。
ちなみに、五村の規則で許可なく五村がある小山を掘るのは禁止になっている。
住人が好き勝手に掘ったら、五村がある小山が崩れる可能性があるからだ。
この場所は、ちゃんと許可をもらってというか、許可を出すヨウコの主導で掘られた場所なので問題なし。
あとは一村住人と相談しながら、五村の大工に内装を仕上げてもらうだけというところまで話を進めた。
そして、俺は五村に来たついでに、ピリカたちの様子を見に行ったら……
二人の騎士が倒れており、一人の騎士が逃げていた。
……
「とりあえず、誰がやったんだ?」
ガルフは俺の護衛についていた。
ダガは五村に来ていない。
となれば、ピリカ、ヨウコ、あと可能性がありそうなのは……ヒー、ナナ、チェルシーに……ニーズかな?
ニーズは武闘派のイメージがないけど。
あ、ピリカの弟子がやった可能性もあるな。
考えていたら、犯人が手を挙げた。
ピリカだった。
意外性がないな。
揉めた原因は?
腕試しを挑まれた結果?
なるほど。
トラブル……ではないんだな?
よかった。
それじゃあ、捕まえた赤鉄騎士は逃がしてあげような。
駄目?
「私は未熟者です。
ですので、私が馬鹿にされるのは受け入れましょう。
ですが、先代を馬鹿にされては引き下がれません」
ああ、うん、そうだな。
つまり、この三人の騎士はピリカの師匠である先代剣聖を馬鹿にしたと。
それを許せとは言えないな。
しかし、騎士というのは、もう少し礼節を重んじるものではないのか?
亡くなっている先代剣聖を馬鹿にするとは。
ちなみに、なんと言われたんだ?
「先代が愚か者だから、お前たち弟子がこのような地の果てにおいやられるのだ。
これと似たようなことを何度も」
これは擁護できないな。
あと、五村を地の果てって……
わかった。
試合形式でちゃんとやるように。
私刑は駄目だぞ。
一対一を二十回?
まあ、いいだろう。
お前たちの力、見せつけてやれ。
赤鉄騎士の従者は……どうする?
一緒に試合がしたいなら、ピリカに言ってやるが。
絶対に嫌?
赤鉄騎士が助けろとお前を見ているが、構わないのか?
さっき見捨てられたから、構わない?
わかった。
それじゃあ、俺と少し話をしよう。
三人の騎士が、どうして五村に来たのか聞きたい。
俺はピリカたちから離れ、赤鉄騎士の従者から話を聞く。
ガルフの指示で、お茶が用意された。
助かる。
従者の話では、三人の騎士はまとまって行動していたわけではないらしい。
白銀騎士と赤鉄騎士はシャシャートの街に向かう前の港街で出会い、青銅騎士とはシャシャートの街で出会った。
三人の騎士の目的は同じ、剣聖であるピリカ。
ピリカと弟子たちをスカウトに来たそうだ。
いや、それならどうして先代を馬鹿にしたんだ?
逆効果だろ?
ピリカたちの実力を確かめるためと。
……
三人の騎士には、自業自得の言葉を送りたい。
目を覚ました三人の騎士は、五村警備隊による特別訓練に強制参加。
五村のエルフたちが仲間ができたと喜んでいた。
一方、赤鉄騎士の従者は、五村への正式な客としてヨウコに出迎えられていた。
偉い人からの手紙があるなら、最初に出せばあんな風にならなかったのに。
「語るよりは剣を合わせるほうが、相手を理解できるそうですから」
そんなものか。
しかし、赤鉄騎士を放置して本当に大丈夫なのか?
普段から偉い人の会話は自分が担当しているから平気と。
なるほど。
では、五村でのんびりと過ごしてくれ。
問題があったらヨウコに言ってくれたらいいから。
あ、俺?
一応、この村の村長。
赤鉄騎士の従者を宿に案内したあと、俺はヨウコ屋敷に戻って赤鉄騎士の従者が持ってきた手紙の内容を聞く。
迷惑をかけるかもしれないが敵対の意思はないと、カイザン王国の国王から凄く丁寧な手紙だった。
……
赤鉄騎士、カイザン王国で持て余しているのかな?