パレードの後片付けと花見
パレードが終わったので、後片付け。
櫓を解体し、倉庫に保管。
俺の屋敷前に設置された階段は、どうするか少し悩んだけど砕いて薪にした。
必要になればまた作ればいいだろうと。
階段上の椅子は、取り外して普段使いに。
あとは任せて欲しいと文官娘衆や山エルフたちが言うので任せ、俺は畑で耕していない部分を耕す。
それほど広くはないので一日で終わった。
やっと一段落。
そう思って屋敷に戻ると、マルビットとルィンシァが口論していた。
あー……別に説明は不要。
パレードが終われば帰るとの話だったけど、マルビットが抵抗したんだな。
うん、理解した。
マルビット、ちゃんと約束は守らないと……
「見苦しい」
リグネがマルビットを背後から抱かかえ、豪快にブリッジ。
つまり、バックドロップ。
しかし、マルビットは後頭部が地面にぶつかる前に両手でガード。
凄い。
あと、マルビットはスカートだが、下にはズボンを履いている。
天使族は大抵がそうだよな。
マルビットはそのまま後方に回転。
逃げるのかと思ったら、ブリッジ中のリグネにドロップキック。
天使族の飛行能力も使っているのだろう。
空中で二段階ぐらい加速した。
凄い。
しかし、そのドロップキックが命中する前にルィンシァがマルビットを抱え、床に叩きつけた。
一対二の変則マッチになるようだ。
立ち上がったマルビットの顔に焦りがみえる。
しかし、そこに救世主が現れた。
マルビットの横に、やれやれ仕方がないなと並んだのはクロ一家の誇る頭脳派、クロヨン!
それを見て、マルビットの顔から焦りが消えた。
二対二なら負けないと満面の笑み。
対するルィンシァとリグネの顔に焦りが浮かぶ。
チャンスだとマルビットが飛び掛った。
クロヨンもそれにあわせた。
……
しかし、クロヨンは動けなかった。
クロヨンの尻尾を、クロヨンのパートナーであるエリスが噛んでいたからだ。
銜えていたのではない。
噛んでいた。
そして、エリスは話がありますとクロヨンを後ろに引き摺っていく。
クロヨンは慌てるが、抵抗できない。
悲しそうな顔で俺に助けを求められても困る。
ちゃんと話し合うように。
そして、クロヨンがいなくなったマルビットは……まあ、語らないでおこう。
勝負のあと、素直に帰る準備をするマルビット。
「当人もそろそろ帰らないとまずいのは理解していますから」
そう言うルィンシァは土産をまとめている。
二人では持ちきれないので、キアービットとグランマリアが同行する予定だ。
キアービットは母親であるマルビットの指名。
グランマリアは自分の母親に子供を産んだことを伝えにいくためらしい。
グランマリアとしてはローゼマリアがある程度、大きくなってからと考えていたのだけど、マルビットやルィンシァの口から出産のことが母親に伝わると揉めると判断。
先手を打つらしい。
というか、揉める母親なのか?
拗ねると面倒……なるほど。
グランマリア不在時のローゼマリアは、ティアを中心にクーデル、コローネがみるらしい。
もちろん、俺もみるぞ。
リグネは少しのあいだ、村に残ってハイエルフたちを鍛えるらしい。
学園のほうは大丈夫なのかな?
大丈夫だそうだ。
春は冬のあいだに実家に戻っていた生徒や新入生を受け入れる期間なので、授業がほとんどないのだそうだ。
加えてリグネはすでに卒業資格を取っており、気楽な学生の立場で自由にやっているとのことだ。
「気楽ではあるが、派閥からの勧誘が激しくて困った」
聞いた事のない貴族の名前を言われても困る。
ギリッジ侯はどこかで聞いたな。
プギャル伯は知ってる。
「勧誘を断るために、形だけだがブリトア侯の派閥に入った。
問題ないか?」
問題ないかって、俺の許可は必要ないだろ?
「いやいや、村長に敵対する派閥では困るからな。
向こうは必死に村長とは友好的だとアピールしていたぞ」
ん?
ブリトア侯って俺の知り合い?
……確かにどこかで聞いた覚えが……どこだっけ?
「グラッツさまのことですよ」
近くを通った文官娘衆に教えてもらった。
そうかそうか、忘れていた。
ははは。
グラッツって偉かったんだな。
俺は客間の片隅でロナーナに謝罪しているグラッツをみる。
どうやら、グラッツはロナーナの作った料理に対しての感想で失言があったようだ。
うかつだな。
まあ、喧嘩できない夫婦よりは、喧嘩できる夫婦のほうがいい。
頑張れ。
そしてリグネ。
訓練では手加減を忘れないように。
かなり暖かくなってきた。
こういうのを陽気な天気というのだろう。
ドワーフたちが世界樹の傍で酒盛りをしている。
花見ならぬ、世界樹見かな?
ちなみに、世界樹は冬のあいだも青々とした葉を茂らせていた。
見た感じ、常緑樹っぽくはないのだけど……そういう種類の木なのだろう。
葉も落ちてないし。
……枯れた葉は落ちずに世界樹に戻るのね。
変わった木だ。
ドワーフに誘われたので、世界樹見に参加する。
参加するが先に屋敷に戻る。
酒だけじゃなく食べ物も欲しいからだ。
簡単にサンドイッチでいいだろう。
タマゴサンド、ハムサンド。
カツサンドは揚げるのが面倒なのでパス。
あとは酒のツマミとして、チーズ、塩味のビスケット、ハムやウィンナー、ピーナッツもあったな。
燻製用の箱があるから、現地でスモークチーズを作ってみようかな。
スモークサーモンもいいな。
サーモン……鮭は倉庫にまだあったはず。
凍らせているから、鬼人族メイドに解凍をお願いしないと。
鬼人族メイドは……あ、もう参加する準備しているね。
俺は世界樹のところに行くと、人数が増えていた。
先ほどのドワーフたちに、ハイエルフ、山エルフ、リザードマン、獣人族が加わっている。
宴会になっていないのは料理を待っているからだそうだ。
世界樹は居住エリアにあるから、各家庭で準備中だそうだ。
少し離れた場所で、ハイエルフが牙の生えたウサギを丸焼きにしようとしている。
ガットも火を用意し、焼肉……じゃなくてバーベキューだな。
参加人数は多そうだ。
俺の作って来たサンドイッチでは数が足りそうにない。
鬼人族メイドたちが、屋台を持ってきた。
わかった手伝おう。
ああ、子供たちが来るだろうから、子供たち用のスペースを作ってくれ。
そこには酒の持ち込みは禁止だからな。
世界樹見は、真夜中まで続けられた。
魔法の光によって照らされた世界樹はなかなか綺麗だった。
翌日。
俺は一人で桜の木の下にいた。
世界樹見は悪くなかったが、どうしても俺の中には、花見は桜というイメージがある。
二日続けてはさすがにと思い、一人で桜を楽しむ。
手にしているのは酒の入った瓶とコップ。
昨日、作っておいたスモークサーモン。
来るのが少し遅かった。
葉桜になっている。
まあ、仕方がない。
桜が綺麗な時期とパレードの時期が被るんだよな。
綺麗な桜は、パレードのときに櫓の上から見た。
パレードが終わった直後に花見をすると、帰る人たちが帰れなくなるからな。
ん?
クロとその子供たちが何頭かやってきた。
ははは。
俺の花見に付き合ってくれるのか。
上?
桜の木の上ではザブトンの子供たちが足を振っていた。
お前たちもか。
ありがとう。
でもって酒スライム。
さっきから俺の酒瓶を狙っているよな。
昨日、思いっきり飲んでたのにまだ飲むのか?
構わないが、俺の分も残して……ああっ!
全部飲まれた!
なに?
慌てるな?
酒スライムが示す方向をみると……
ドワーフたちが酒樽を担いでこちらに向かっていた。
……
二日続けての花見、宴会になった。
ちょっと反省。
更新が遅れて申し訳ありません。
頑張ります。