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十六年目の春

20180812 村長の学園に関しての認識を修正しました。


 春。


 マルビットが帰らなかった。


 抵抗した。


 すっごく抵抗した。


 コタツに潜り込んで、一児の母とは思えない抵抗をした。


 帰りましょうと説得していたルィンシァを折れさせたのは凄いと思う。


 結局、マルビットとルィンシァは春のパレード終了まで滞在することになった。


 その決定を喜んだのはクロヨン。


 チェスの対戦相手がいなくなるのは寂しかったらしい。


 さっそくマルビットのもとにチェスをやりに向かった。


 マルビットが帰るまでチェスを楽しむといい。


 ただし、ほどほどにな。


 クロヨンのパートナーのエリスが俺に訴えてくるから。


 チェスに夢中になって家庭を疎かにしてはいけないぞ。


 ……


 偉そうに言っているが、俺はどうだろう?


 家庭を疎かにしているつもりはないが、そうなっていないとは限らない。


 注意しよう。





 起きてきたザブトンと挨拶。


 ザブトンはなぜか俺が五村に行ったことを知っており、五村で着る服を作れなかったことを残念がった。


 いやいや、ちゃんとザブトンの作った服を着て五村に行ったんだぞ。


 ちゃんと状況に合わせた服装をするべきと……


 確かにそうかもしれないが、あの服もそれほど悪いものではなかったと思うのだが……


 そういうことじゃないのね。


 俺の服はザブトンに任せている。


 そのザブトンが駄目だというなら駄目なのだろう。


 ひょっとして、俺の知らない服装のマナーやメッセージ性があるのかもしれない。


 以後、注意しよう。


 あと、緊急時用に何着か用意しておいてくれると……あ、すでに用意している。


 俺が嫌がると思って伝えていなかっただけなので、なおさら悔しいと。


 申し訳ない。





 ザブトンが起きたので、そろそろかと思ってため池の様子を見ると、ため池の中央が凍っていた。


 おかしい。


 確かにまだ肌寒いが、ため池が凍るほど寒くはない。


 そして、ため池が凍る時は外周部からだ。


 池の中央だけが凍っているのは不自然。


 そう思ってみていたら、バキッと大きな音を立てて氷の中央が割れ、ポンドタートルの甲羅が突き出てきた。


 おおっ!


 そして氷は粉砕され、ため池に散っていく。


 あ、あの氷はポンドタートルが魔法で作ったのね。


 でもって、今のは冬眠明けの運動みたいなもの。


 へー。


 しかし、寒いから冬眠するのに氷で遊ぶのはどうなんだ?


 まあ、いいか。


 とりあえず、おはよう。


 ほかのポンドタートルはまだ冬眠中かな?


 そう聞いた瞬間、ため池の中央に新しい氷が張られた。


 起きているようだ。





 春になれば、ウルザとナートを魔王国の学園に行かせる話があったのだけど、これは延期になった。


 五村で揉めたこともあるけど、魔王国の学園で何を学ばせるかが問題になった。


 ことの発端は、ゴールたちからの報告書。


 ハクレンから教えてもらっていることで学問、魔法、武術は十分じゅうぶん


 魔王国の貴族になるなら学べることはあるけど、そうでないならガルガルド貴族学園はお薦めできないと言ってきた。


「ガルガルド貴族学園は、将来的に魔王国の貴族となる者の交流の場の意味合いが強いですから……

 派閥作りには最適なのですが、ウルザさま、ナートさまには不要かと」


 文官娘衆たちからも、そうアドバイスされた。


 ゴールたちを魔王国の学園に行かせたのは、見聞を広める以外にも嫁探しの面もあったから問題はなかった。


 しかし、ウルザやナートの婿探しをするわけではないのなら、ガルガルド貴族学園に行くのは意味がないそうだ。


 なるほど。


 どうも魔王国の学園は俺の考えている学園、学校とは違うようだ。


 文化祭や体育祭などの行事がないと聞いて驚いた。


 これはガルガルド貴族学園だけではなく、他の学園などでもそうらしい。


 学園には遊びに行っているのではないのだから、当然だそうだ。


 そんなものか?


 例えばガルガルド貴族学園の場合、そういった行事は派閥作りには便利そう……派閥の対立をあおり過ぎるからかな?


 まあ、学園の行事はないかわりに、生徒たちで狩猟会やお茶会を開くそうで、自主性は育まれているようだ。



 とりあえず、俺だけで悩んでも仕方がないので母親のハクレンとナーシィ、それと本人たちを交えて相談したら、ウルザとナートが学園にはまだ行かないとはっきり言った。


 それをハクレンとナーシィが承認したので、今年は魔王国の学園に行かないことに決定。


 まだ行かないと言っているので、気が変わることもあるだろう。


 なので延期扱い。


 ただ、村にいるならいるで、そろそろ働いてもらう年頃。


 年下の子供たちの面倒をみるのが仕事とも言えなくはないが……どうしたものか。


 ちょうどいいので聞いてみた。


 ウルザはハイエルフたちの狩りに同行するそうだ。


 春前にハイエルフのリアに伝え、今は狩りの練習中らしい。


 そして、ナートは獣人族の女の子たちに混じって色々と作業すると。


 こちらも春前に獣人族のセナに伝えているらしい。


 ……


 俺よりもしっかりと考えているようで安心。


 いや、俺が考えなさ過ぎか?


 反省。


 もっと子供たちのことを考えよう。


 一緒に遊んでいるだけじゃ駄目だよな。





 春の種族会議、褒賞メダルの授与を終えたあと、俺は畑を耕す。


 作付けは例年通りだが、新しい畑を二面作った。


 一面は村の東側、薬草畑の近くに。


 カレーのスパイスになりそうな新しい作物を育ててみた。


 一村住人からの希望だ。


 さらなる味の追求をしたいらしい。


 ただ、俺の知るカレーのスパイスになりそうな作物はすでに育てている。


 そこで、まことに勝手ながら【万能農具】頼み。


 申し訳ないと謝罪しつつ、カレーのスパイスになる作物と願って耕した。


 何が育つかは、育ってからのお楽しみ。



 もう一面は、村の北側。


 果樹園のさらに北、花畑近くに作った。


 育てるのは世界樹。


 育つかどうかわからないけど、一つしかない苗木を大樹の村に根付かせてしまっている現状。


 マルビットやルィンシァは気にしないでと言っているが、気にしてしまうのが俺。


 なので、他の天使族が文句を言ってきた時に返せるようにと育ててみることにした。


 無事に育って欲しいと願う。



 畑作業が終わればパレードだ。


 他の村から応援が集まってきている。


 そして山エルフたちの指揮で組み立てられる移動式の櫓。


 今年は旗指物が多いな。


 旗指物だけでなく、ポール……葉を落とした竹も多いように思える。


 キアービットたちは花を集めて何をやっているんだ?


 パレードの最中、上から降らせると。


 なるほど。


 蜂や妖精のための花畑だから、取り過ぎないようにな。


 ティアはゴーレムを呼び出して……行進の練習か。


 ゴーレムたちの一糸乱れぬ姿は美しい。


 ……


 あれ?


 ゴーレムの数、多くない?


 前に水路作りを手伝ってもらったとき、三十体ぐらいが限界とか言ってたのに、俺の前で行進しているゴーレムは百体ぐらいいそうだ。


「私も成長しているのです」


 ティアが胸を張る。


「と言っても、魔石を使っての自律行動なので、複雑なことはさせられませんけど」


 歩け、止まれ、暴れろ。


 それぐらいの命令しか聞いてもらえないらしい。


 ちなみに、暴れろと命令したとき、敵味方の識別をしないので今みたいに密集していると同士討ちをするそうだ。


 実用面ではイマイチだが、こういった行進の時の見栄えには使えるとティアはまた胸を張る。


 そう胸を張らなくても、わかっている。


 俺はティアの要望通り、頭を撫でて褒めた。


 それを兵隊蜂が見ていた。


 そして、俺の前で綺麗な集団飛行を見せてくれる。


 ……


 お前たち、俺に頭を撫でて褒められたいのか?


 違う?


 褒めなくていいから、ザブトンの子供を一匹貸してほしい?


 どうするんだ?


 太った女王蜂を脅して痩せさせると。


 自力で飛べない状態はさすがに問題だと。


 なるほど、わかった。


 ただし、パレードが終わってからな。


 ザブトンの子供たちもパレード、楽しみにしているから。



 パレードの本番は明日。


 頑張ろう。





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― 新着の感想 ―
今のところ学園、貴族ごっこで遊びに行ってる(しかも子供の喧嘩に親が出てくる)って言うダメな所しか出てないんだけど……
[気になる点] 文官娘衆がウルザをウルザさまと呼ぶのはまだわかるけど、なぜにナートにまでさま付け??
[良い点] あの子だね太った女王蜂 懐かしい。。。昨日読んだわ…
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