世界よ恐怖せよ!
俺の名はメネク。
山羊の頭部を持つ魔族だ。
獣人族と間違われやすいが違う。
獣人族はもっと人間寄りだ。
人間の頭部に動物の耳と多少の毛があるのが獣人族。
俺の頭部は完全に山羊。
だが、喋れる。
饒舌なほうだ。
そして、俺の肉体は山羊寄り。
完全に山羊ではない。
山羊寄りだ。
だから、服を着ているし立って歩いている。
全裸で四つんばいになると高確率で山羊と間違えられるから、絶対に全裸で四つんばいにはならない。
それが俺のプライド。
なぜ、俺の頭部は山羊なのか?
魔族に限らず、自分の中の魔力を制御できないと、魔力によって身体を変質させてしまう。
それゆえにだ。
魔族は元から持っている魔力が多く、身体を変質させてしまった者は珍しくない。
まあ、俺みたいにほぼ全身を変質させてしまった者は珍しいだろうけど。
俺は生まれつき魔力が多く、生後一年でこの姿になってしまった。
だが、悲観はしていない。
今の俺の姿は、古の魔族の姿を連想させる。
バフォメットのダセキ。
人間だけでなく魔族も恐怖のどん底に叩き落した王だ。
言い伝えにあるその姿に、俺はピタリと一致する。
姿だけではない。
俺には他者を圧倒する力もあるし、難しい魔法も軽々と使える頭脳と魔力がある。
俺はバフォメットのダセキ、そのものだ。
自信を持ってそう言える。
そして、俺の実力と姿に魅せられた者によって一つの勢力ができあがった。
反魔王軍。
総勢、十万人。
一箇所に十万人がいるのではなく、魔王国の各地に少人数ずつ。
俺の合図で行動を開始することになっている。
ふふっ。
ふふはははははははははっ!
世界よ!
恐怖せよ!
まずは魔王国からだ!
……
捕まった。
超強いエルフとやり合っている最中に、取り囲まれてしまった。
エルフ一人ならなんとかなったのに、残念だ。
すみません。
嘘です。
エルフ一人に手も足もでませんでした。
あれ、ずるい。
反則だ。
エルフのくせに、あんなに強いなんて。
きっと有名なエルフに違いない。
エルフじゃない?
ハイエルフ?
ハイエルフって、あのマンイーター?
ははは。
まさか。
……
本当?
冗談じゃないの?
うわぁぁぁぁ……あぶなかったぁ。
衛士に取り囲まれて、俺は助かったのか。
よかった。
そう思うと、この衛士小屋で取り調べを受けているのも幸せに思えてくる。
「それで、君はどうして捕まったか理解しているのかな?」
若い衛士が俺に聞いてくる。
子供をあやすような喋りかたにカチンとくる。
魔族は年齢がわかり難いが、どう見ても俺より年下だろう。
俺はこれでも四十年は生きているのだ。
魔王国では年齢はあまり重視されないとはいえ、年長者には敬意を払うべきだ。
そうじゃないかね?
「俺は今年で五十になるが」
……
すみませんでした。
お若い外見ですね。
「よく言われる。
それで、もう一度聞くけど、君はどうして捕まったか理解しているのかな?」
学園の敷地内に無断で侵入し、パーティーをしていたからです。
「そうだね。
でも、それだけじゃないよね」
大きな焚き火をしていたからです。
「それだけじゃないよね」
……
「それだけだと思ってる?」
いえ、その……ちょっと反社会的なことを叫んでしまったかなと……反省してます。
「うん、反省する態度はいいね。
このあと、君を王都の警備隊に引き渡すけど、そこでもちゃんと反省の態度をみせるんだよ」
え?
引き渡されるんですか?
「さすがに魔王国に害を及ぼすことを大声で叫ばれるとね。
見逃せないんだ」
そんな、悪気はなかったんです!
助けてください!
「悪気がないのに、あんなことを言っちゃったの?」
言っちゃったんです。
すみません。
「十万の同胞がいるんだって?」
違います。
あれは大袈裟に言っただけで。
親とか兄弟を勝手に含めた数で……
「実際は何人?」
十二人です。
「十二人ね。
君も含めてだよね。
あの場で捕まった人数も十二人だし。
それで、十二人がどうすれば十万人に?
親とか兄弟を入れてもその数にならないよね」
し、親戚を含めて……
「親戚も含めたらその数になるの?」
な、名前を知ってる友達も含めました。
「名前を知ってる友達、十万人もいるの?」
……一緒に捕まった友人の中に、男爵に仕える一族がいまして。
その男爵領の人数を。
「キーク男爵だよね。
親御さん、迎えに来てたけど……あの人の領地って千人もいなかったんじゃなかったっけ?」
その千人の親、兄弟、親戚、友人を含めたら十万人ぐらいかなぁって……
「ああ、なるほど。
確かにね。
その計算、もう使っちゃ駄目だよ」
はい、そうします。
それで、警備隊への引き渡しだけは……
「そう言われてもねぇ。
えっと……メネクくんだっけ?
仕事はなにをやってるの?」
自由の戦士。
「いや、そういうのはいいから」
無職です。
「無職かぁ。
俺の従兄弟も無職で色々と苦労してたけど……メネクくんは職を得るために何かやってる?」
就職のためのコネを作ろうと仲間を集めて……
「あのパーティーをやったと。
そうそう聞き忘れてたけど、あれって今回が初めてだよね?」
小さなパーティーは友人の家で何回かやってますが、野外でやったのは今回が初めてです。
「どうして今回は野外だったの?」
大きな焚き火をやりたいと誰かが言い出して……
「誰かが?
君がリーダーじゃないの?」
確かに俺がリーダーだけど、焚き火は俺が言い出したんじゃないです。
「そうか。
うーん……」
な、なにか問題でも?
「いや、こっちの話。
とりあえず俺の上司……衛士隊の偉い人に言ってあげるけど、その人が駄目って言ったら駄目だからね」
お願いします。
警備隊に引き渡されたら、どんな目に遭わされるか。
「警備隊、怖がられるなぁ。
とりあえず、君はちゃんと職を探しているって言うから、話は合わせてよ。
あと、反省の態度。
忘れないように」
わ、わかりました。
よろしくお願いします。
衛士が出て行ったあと、俺は祈りながら待った。
頼む。
助けてくれ。
どれぐらい待っただろうか。
さきほどの若い衛士が戻ってきた。
ベテランそうな衛士も一緒だ。
たぶん、このベテランそうな衛士が上司なのだろう。
そのベテランそうな衛士は、俺を見るなり大笑いした。
……
なぜ笑っているのかわからなくて俺は呆然としてしまったけど、止まらない笑い声に腹が立ってきた。
しかし、我慢だ。
これは俺を怒らせる策なのかもしれないのだから。
俺は笑い声が収まるまで、頑張った。
「あー、笑った笑った。
すまんすまん」
すまんじゃないと思う。
最初に俺を取り調べた衛士が、ベテランそうな衛士を冷たい目で見ている。
「いや、すまん。
笑ったのには理由があってな。
聞いてくれるか?」
聞きたくはないが、理由は知りたい。
「君みたいに山羊の頭部を持つ魔族は、大抵がバフォメットのダセキを目指すんだ」
え?
「俺はダセキの生まれ変わりだとか言いながらな」
……
「特徴的なのが野外での大きな焚き火を囲んでのパーティー。
今回の件、話を聞いた時からまさかって思ってたけど、思った以上にダセキそっくりなのがいるんだもん。
そりゃ、笑うだろ」
え、えーっと……そんなにそっくりですか?
「そっくり。
王都のハネスの武器屋って知ってるか?
あそこにダセキの肖像画が飾られているんだけど、お前の絵じゃないかってぐらいそっくり」
やっぱり。
「お前もダセキの生まれ変わりって言ってパーティーやったんだろ?」
生まれ変わりじゃなくて、そのものだって言ってました。
「そうかそうか。
そうだよな。
ははは。
じゃあ、あれか。
野外で反社会的なことを叫んだって、ダセキの名セリフだな」
は、はい。
「よし。
ここで一回、それを言ってみせてくれ。
そしたら許してやるから」
え?
「ポーズとかも練習したんだろ。
頼むよ」
……
断れるわけがなかった。
俺は全力でやった。
ふふっ。
ふふはははははははははっ!
世界よ!
恐怖せよ!
まずは魔王国からだ!
現在、俺は魔王国の王都にあるガルガルド貴族学園の中で働いている。
なぜか学園の教師が牧場を持っていて、そこの管理人だ。
俺を取り調べた衛士が、就職先として斡旋してくれた。
ありがたい。
仕事はきついが、頑張ろうと思う。
出される食事、味は良いし量も多いからな。
ただ、どうにも俺を悩ませる問題が二つ。
一つ目。
柵の中にいる山羊たちが、俺を見ると突撃してくる。
じゃれているだけだと思いたいが、明確な敵意を感じる。
ひょっとして、俺を勝手に外に出ている山羊と思っているのかもしれない。
屈辱だ。
二つ目
俺と戦ったハイエルフ。
リグネという名らしいが、あれにどうも気に入られたようで時々、訓練に付き合わされる。
「資質は十分。
あとは鍛えたぶんだけ強くなれる」
認めてもらえるのは嬉しいが、牧場の管理人として働く時間は確保してほしい。
睡眠時間を削れって、無茶は言わないでください。
俺の名はメネク。
山羊の頭部を持つ魔族。
充実した毎日を過ごしている。
「メネクさん!
山羊が脱走してるー!」
……
それなりに充実した毎日を過ごしている。




