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獣人族の男の子の学園生活 二年目総括


 僕の名はゴール。


 ガルガルド貴族学園の教師。


 ……


 おかしい。


 教師のはずなのに、魔物退治した記憶とシャシャートの街で野球をやった記憶しかない。


 いやいや、思い出せ。


 大樹の村に戻って武闘会に出たじゃないか。


 ははは。


 違う。


 そうじゃない。


 教師としての記憶だ。


 えーっと……


 春は何をしていた?


 冬に実家に戻っていた生徒や、新しく入学に来る生徒を出迎えていた。


 学園に来るタイミングがバラバラなので、授業はほとんど行われない。


 なので、生徒たちは自主的な勉強と研究をしている。


 ……そうだ。


 誘拐事件。


 学園の新入生、貴族の息子が誘拐される事件があった。


 あれは確か、シールが行って解決したんだったよな。


 教師として生徒を助けるのは当然。


 救出のお礼として、鶏をもらった。


 生きてる鶏。


 百羽ほど。


 その貴族の領地の特産品だそうだ。


 鶏小屋を作って、飼育を開始した。


 学園長は頭を抱えていたな。


 卵や鶏肉の一部を学園の食堂に卸すことで、許可をもらったけど。


 鶏の飼育は、誘拐事件で誘拐された貴族の息子が担当している。


 実家では鶏と暮らしていると言ってもいいらしく、知識は僕たち以上。


 鶏の健康管理や病気対策も知っているようで、色々と学ばせてもらっている。


 ……


 あれ?


 僕が生徒っぽいな。


 まあ、いいか。





 夏は……そうそう、建国祭だ。


 どうして忘れてたかな。


 王都のお祭りに参加した。


 三日間に渡って行われるお祭りだ。


 本来、学園は王都のお祭りには関わらないのだけど、僕たちは王都の冒険者ギルドから参加を要請された。


 その目的を簡単に言えば、学園の料理……正確には僕たちの作る料理を食べたいので屋台を出して欲しいということ。


 しかし、それだと僕たちが断ると思ったのか、表向きは王都と学園生徒の交流が目的とされた。


 なので、学園生徒にも参加して欲しいと。


 そう言われると学園長に相談しなければいけない。


 相談の結果、参加が決定。


 僕が責任者になってしまった。


 まあ、仕方がない。



 お祭りに参加するのは学園の生徒全員ではなく、希望した者だけなので問題を起こしたりはしないだろう。


 数が百人ぐらいとちょっと多かったけど。


 正確には百二十一人。


 教師とか食堂で働いている人とかも含まれている。


 ……


 僕たちより年上がいるのに、僕が責任者というのに少し納得がいかなかった。



 まず、僕たちは生徒たちと一緒にやぐらを作った。


 表向きの目的が、王都と学園生徒の交流なので目立つ参加の印が欲しかったのだ。


 作った櫓は、下に車輪のある櫓だ。


 村長が作っていたとき、よく見ていたから形は覚えていた。


 ただ、あまり背の高い櫓は難しかったので二メートルぐらい。


 ちょっと変わった馬車というか、乗る場所の高い馬車みたいになった。


 まあ、ちゃんと移動できるので大丈夫だろう。


 問題はその櫓を誰が引くのか、櫓の上には誰が乗るのかで揉めたこと。


 貴族だから、立場の問題とかあるのだろう。


 なので生徒たちには公平に引く役をお願いした。


 そして、櫓の上には学園長に乗ってもらった。


 恥ずかしそうだったな。


 でも、街からの評判はよかった。


 最後のほうでは、僕たちにも引かせて欲しいと街の人たちも参加してきたしな。


 王都と学園生徒の交流は成功だろう。



 櫓の次は、料理の屋台やたいを作った。


 期待には応えなければと思う。


 だけど、料理は学園の食堂で働いている人にお願いし、僕たちは裏方。


 生徒にはウェイトレス、ウェイターに徹してもらう方針だった。


 方針だったのだが、自分たちでも料理がしたいという熱心な生徒もいて、結局は屋台を五つも作ることになったな。


 食堂で働いている人の屋台が三つ、生徒たちの屋台が二つ。


 大きな問題は……どの屋台もお祭りの初日で食材が切れてしまったこと。


 予想が甘かった。


 正直、宣伝をしていないから、最初はまるっきり相手にされないだろうなと思っていたのに、お祭り開始前から列ができてしまった。


 どうしてこんなに人気がと思ったら、冒険者ギルドが宣伝してくれていた。


 参加を要請した手前、ある程度は繁盛してもらいたいという心配からだろう。


 それとも、前日に試作料理を振る舞ったお礼かな。


 屋台担当の生徒たちは、来年はもっと食材を準備すると決意していた。


 その様子を見ていたわけじゃないだろうけど、学園長から来年以降も参加する方針を伝えられた。


 参加した生徒からと、王都からの評判がよかったらしい。


 来年からは、ちゃんと学園の行事として組み込むそうだ。


 ただ、希望する生徒だけだけど。


 来年の責任者は僕じゃないといいな。


 屋台で儲けたお金は、学園に寄付した。



 ちなみに、王都のお祭りのメインは大樽運び。


 用意された大人でも抱えきれないほどの大きい樽を、王都の東西南北に分かれた各勢力が奪い合うワイルドな内容。


 建物や屋台が壊される危険性があるので、お祭りの最終日の夕方に行われる。


 各勢力への分け方は住んでいる場所で決めているのだが、学園生徒たちはどこに住んでいても学園のある北東と判定された。


 なので、北チームと東チームで奪い合いに発展。


 結果、なぜか西チームに所属。


 西チームの代表、グラッツのおじさんが悪い顔をしていたのを覚えている。


 種族によって役割を分け、樽を奪い合うのはなかなか楽しかった。


 大樹の村でもやってみたらどうだろうと思う。





 秋。


 秋は……なにがあったかな。


 南西にダンジョンが見つかったから偵察に行った……は、教師の仕事じゃないよな。


 そうだ。


 キッシュ伯爵家の後継者問題。



 学園にはキッシュ伯爵の息子が二人、通っている。


 二人は年も近く、キッシュ伯爵の後継を巡って互いをライバル視していたが、直接的な争いはなかった。


 しかし、突然にキッシュ伯爵が倒れたとの情報が入り、息子二人の取り巻きが争いだした。


 勉強の成績で争うなら見逃すが、直接的な暴力は見逃せない。


 攻撃しているほうを叩きのめしていたら、息子二人の取り巻きは全滅。


 二人して僕のところに来て、平和的な裁定を願ってきた。


 いやいや、僕が裁定してどうするんだ。


 まずはキッシュ伯爵の容態の確認。


 キッシュ伯爵に万が一があったとしても、遺言とか残している可能性もある。


 面倒だったが、息子二人は僕より年上だけど学園の生徒。


 僕は学園の教師。


 たとえ僕の授業に出ていない生徒だとしても、放り出すのは心苦しい。


 なので僕は二人を連れてキッシュ伯爵のいる領地に向かった。


 向かったら向かったで、妨害者が出てきて大変だった。


 学園に通っていない兄弟がまだいるのだそうだ。


 なんやかんやあって、キッシュ伯爵の屋敷にまで到着したが、キッシュ伯爵は伝染病にやられたらしく面会謝絶。


 なぜか僕が有名な薬師を探し出し、求められる素材集めに奔走させられた。


 まあ、領内にも伝染病流行の兆しがあったから、放置はできなかったけど。


 薬師の作った薬で、伝染病は終息。


 キッシュ伯爵が回復したことで、後継者問題は先送りとなった。


 家族で存分に話し合っておいて欲しい。


 あと、認知してない息子さんが数人いるようですが、そちらも解決されたほうがいいと思いますよ。


 僭越ですが。



 帰ってから。


 学園は貴族の後継問題などには関わらない。


 中立を貫くのですと、学園長からメチャクチャ怒られた。


 すみません。


 対外的には、僕は伝染病を終息するために派遣されたことになった。



 あと、秋にあったのは大樹の村に戻って武闘会。


 やはり、まだまだ未熟だと反省した。


 そして、武闘会で知り合ったドラゴン三姉妹と僕たちが呼んでいる混代竜族の三人は、武闘会が終わったあとに王都にやってきた。


 魔王のおじさんの為に働くそうだ。


 なのに、なぜか学園の僕たちの家のそばに、彼女たちの家を建てることになった。


 まあ、学園長の許可とか建築費とか生活費を魔王のおじさんが頑張ってくれたから文句はない。





 冬。


 今年の冬は寒かった。


 だからなのか、北にいる魔物や魔獣が南下を開始した。


 寒さで食料が十分に確保できず、食料を求めての南下だとベテランの冒険者が言ってた。


 王都は北の森で守られているけど、街道などが危ないとのことで冒険者たちが出動。


 僕やシール、ブロンにも要請が出た。


 魔物や魔獣はたいしたことはないが、移動距離が大変だった。


 ドラゴン三姉妹に移動を助けてもらい、魔物や魔獣を退治していたら、僕たちを竜騎士と呼ぶ人たちが出てちょっと困った。


 騎士じゃなく男爵家当主相当なので。


 細かいことかもしれないけど、このあたりはデリケートだから。


 あ、乗り手の意味で騎士なのね。


 なるほど。


 でも、それだとドラゴン三姉妹の機嫌が……悪くない?


 逆にちょっと誇らしげ?


 なぜに?



 冬は生徒の大半が実家に戻ったりするから、あまり教師っぽいことはできていない。


 逆に魔物とずっと戦っていたから、その記憶が印象に残ってしまったのかな。


 野球の記憶は……僕が暇なタイミングを的確に見抜いて魔王のおじさんが誘いに来るからな。


 ドラゴン三姉妹も最初は野球に戸惑っていたけど、今では学園の敷地で自主練をするぐらいになっている。


 ドラゴン三姉妹による三連続ホームランで大盛り上がりしたからだろう。


 打撃の練習だけじゃなく守備の練習もしたほうがいいぞと言ったら、つき合わされた。


 学園でも野球に興味を持つ生徒が少し出始めている。


 時々、そういった生徒に野球の指導をしたりしているけど……これって教師の仕事じゃないよな。





 僕は真面目に考え過ぎなのかな。


 もっと気楽に構えたらいいのかもしれない。


 一応、悩み相談に来てくれる生徒もいるし、教師として存在感がないわけではないだろう。


 相談の内容は、建築か料理か戦闘の質問ばかりだけど。


「ゴール先生。

 山羊小屋はこんな感じでいいですか?」


「うーん……まず、今の扉の鍵だと役に立たない。

 鍵をもっと複雑な物に取り替えたほうがいいかな」


「家畜泥棒対策ですか?

 学園内ですよ?」


「いや、山羊が自分たちで開けるから」


「え?

 山羊ですよ」


「山羊だからだよ。

 鍵を開けたあと、脱走がバレないように閉めていくぐらいの知恵もあるし」


「それは山羊の皮を被った別の生物だと思いますよ」


 これは相談ではなくチェック。


 次の春、キッシュ伯爵から伝染病対策で奔走したことのお礼に、山羊を送ってくれることになったからだ。


 学園長の許可をもらうのが大変だった。




本業の都合で、ちょっと更新が不定期になりそうです。

すみません。

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― 新着の感想 ―
めっちゃ忖度して干渉してくる上に何も教えてくれないのに勝手に教師にした人達が中立を貫くとか言っても……
人から人へうつるのが伝染病 人同士でうつらないのが感染症です
[一言] 伝染病は、現行では感染症と言い換えるそうです。
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