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五村警備隊員オクス 警備隊案内


 俺の名はオクス。


 五村ごのむらに移住してきた魔族だ。


 五村は、その名に反して街以上の発展をみせている。


 俺は素直に村だと思って五村に来たから凄く驚いた。


 正直、名前を変えて欲しいと思っている。


 俺の住んでいるところは、立派な街だと周囲に言い触らしたい。


 俺以外にも同じように思っている者が多くいる。


 その声が五村の村長代行であるヨウコさまに届いたのだろう。


 改名の噂が流れた。


 しかし、ヨウコさまからは名前を変えないと発表された。


 残念だ。


 だが、続きはあった。


 五村は小山に広がっている。


 小山の頂上を五村とし、側面部や裾野を五街ごのまちとするそうだ。


 なので個人が五村を五街と呼ぶのは構わない。


 また、対外的にも五街で構わないそうだ。


 おおっ。


 やった。


 ただし、儀式などでは五村と呼ぶ。


 そして、五村のトップは村長。


 これは絶対。


 うん、わかってる。


 移住の時に説明を受けた。


 ただ、滅多に姿を見せてくれないからなぁ。


 いやいや、村長がトップ。


 大丈夫。




 俺は幸運にも、五村の警備隊に入ることができた。


 五村の警備隊はピリカさまを代表とした組織で、五村の警備を中心に行う。


 簡単に言えば、暴れる奴や悪い奴、怪しい奴を取り締まる仕事だ。


 危険だが誇りある仕事で、給金もいい。


 五村に住む若者は、一度は警備隊に入ることを夢見るぐらいだ。


 その警備隊に入るには試験を受ける必要があり、なかなかの難関と言われている。


 試験を突破できた時は、嬉しくてついつい貯金を崩して飲んでしまった。


 翌日。


 俺は警備隊員として華々しく活躍する姿を想像していた。


 だが、実際は体力作りを中心とした訓練、訓練、訓練の毎日。


 勤務中は、隊舎の近くの空き地から外に出られなかった。


 救いは警備隊員として活動しているあいだは食事が支給されること。


 その食事の量が多く、美味しかった。


 ただ、食べた分は動かされるので太ることはない。


 一ヶ月も続けると、自分の身体が引き締まっていくことがわかる。


 その頃になって、やっと空き地から外に出られる。


 だが、まだ五村の警備任務ではない。


 目的地は五村の裾野すその


 冒険者たちが訓練している一帯。


 ここで戦闘訓練だ。


 新人は、一通りの武器の訓練を受けたあと、自分にあった武器を選ぶ。


 俺は剣を希望したかったが、自分にあっているのは槍だと思って槍にした。


 隊員には、武具が支給される。


 ピカピカの槍が支給されて、少し驚いた。


 訓練の時に使っていた中古の槍だと思っていたのに。


 槍にはしっかりと五村の文字が刻まれている。


 これを失くさないように……あれ?


 俺の名前も刻まれてる?


 え?


 あ、万が一の際、死体を判別するのに使うのね。


 ははは。


 役立つ日が来ないことを祈りたい。




 訓練を続けて半年後。


 俺は第十六分隊に配属された。


 定数五十人。


 五つの班に分かれて、五村のある小山の中腹あたりを見回るのがメインの仕事だ。


 正直、小山の中腹で取り締まられるような者はなかなか出ないので、暇な分隊と言える。


 それゆえ、新人が最初に配属されるのだそうだ。


 第十四分隊、第十五分隊、第十七分隊も同じ。


 忙しい分隊はピリカさま直属の第一分隊か、五村の東西南北の門を守る第二分隊、五村の周辺の魔物、魔獣を退治する第三分隊。


 将来的にはそっちに行きたいと思っている。


 ちなみに、第二分隊は最大の人数を誇る分隊で定数が五百人。


 五百人いても人手不足らしいので、真面目に頑張っていれば異動できるだろう。




 第十六分隊は五つの班に分かれ、朝番、昼番、夜番、休暇、待機をローテーションする。


 朝番は日の出、朝の鐘が鳴った時に勤務開始、昼の鐘で勤務終了となる。


 昼番は日が一番高い時、昼の鐘が鳴った時に勤務開始、夜の鐘で勤務終了となる。


 夜番は日暮れ、夜の鐘が鳴った時に勤務開始、朝の鐘で勤務終了となる。


 休暇はその日はお休み。


 待機は隊舎にいることが義務付けられた休暇。



 朝番、昼番、夜番、それぞれの勤務時間は短いが、それはそれだけ仕事が大変だということ。


 勤務時間以外も、隊員としての自覚を持って行動しなければいけないので、ほとんどの者が訓練に時間を使っている。


 まあ、恋人との時間を過ごすうらやましい者もいたりするが……


 俺は筋肉を鍛える。


 うむ。


 最後に役立つのは自分の肉体、筋肉だ。


 恋人と遊んでいるやつは、あとで泣きをみるに違いない。


 いや、泣け!


 泣くがいい!



 さっそくその機会が来た。


 特別訓練だ。


 第十六分隊全体から十人が選ばれ、第一分隊と合同訓練。


 訓練内容は森での魔物、魔獣退治。


 ふっふっふっ。


 油断が死に繋がる危険な訓練だ。


 だが、俺の筋肉が輝ける瞬間でもある。


 普段の任務だと、住んでいる人に挨拶か、旅人に道案内ぐらいしかやってないからな。


 頑張るぞ!



 まずは、第一分隊の隊舎に集合。


 第一分隊の三十人と合流し、四十人で移動開始。


 隊舎を出て少し歩いたところで、俺たちの進路を阻む集団が現れた。


 十歳から十五歳ぐらいの少年少女、子供たちだった。


「我らは五村少年団!

 警備隊に決闘を申し込む!」


 そう言って四十人ぐらいの子供たちが俺たちに突撃してきた。


 な、なんだ?


 いや、慌てるな。


 数は同数。


 相手の武器は……木の棒だな?


 問題ない。


 だが、迫って来る子供たちの何人かの顔に見覚えがある。


 五村のお偉いさんの子供たちだ。


 怪我をさせるとまずいか?


 俺が武器をどうしようかと悩んだところ、第一分隊のピリカさまから号令が掛かった。


「相手が何者であろうが警備隊に挑戦する者に手加減無用!

 総員、全力で制圧せよ!」


 了解。


 俺は左右を見て隊列を組む。


 そして武器を構え……あれ?


 武器がない?


 え?


 俺の武器はどこから現れたのか、少年の一団が持っていた。


 俺の武器だけじゃない。


 他の隊員の武器も持っている。


 全員のじゃない。


 だが、前線に立っている者の半分は武器を奪われた。


 どうやって?


 いや、それよりも俺は武器を失った。


 どうする?


 慌てるな!


 素手での戦闘訓練はしている。


 そして、こういった時のための筋肉だ。


 俺は構えた。


 だが、子供たちは俺たちの直前で急停止し、武器をその場に捨てて逃げ出した。


 あれ?


 あ、いや、追いかけないと。


 俺は前に出た。


 他の隊員もそうだろうと思った。


 だが、違った。


 俺と同じように前に出たのは数人だけ。


 その場で構えたままの者、子供たちの捨てた武器を拾おうとしている者、隊舎に武器を取りに戻ろうとする者、バラバラだった。


 まずいと思った。


 思った瞬間、左右から別の子供たちが襲い掛かってきた。


 隊列が崩れた。


 乱戦に持ち込まれた。




 相手は子供だ。


 しかもお偉いさんの子供も混じっている。


 全力で殴るわけにはいかない。


 相手は最初に宣誓している。


 これは挑戦だと。


 害意ある者の攻撃ではない。


 なので怪我をさせるのは構わないが、死なせるのは駄目だ。


 俺にできるベストの行動はなんだ?


 子供を捕まえ、後ろに運ぶ。


 これだ。


 だが、なかなか子供たちが捕まえられない。


 捕まえても、他の子供たちが助けにくる。


 そして、時々、飛んでくる強烈な矢。


 やじりは潰されているが、的確に手足を狙ってくる。


 本当に子供か?


 ……


 耳が長いな。


 エルフか。


 見た目通りじゃないかもしれない。


 いや、エルフでも子供の時の成長は同じか。


 くっ。


 俺の肩に矢が当たる。


 捕まえていた子供を逃してしまった。


 ええい。


 どうすれば。


 焦る俺に指示が飛んで来た。


「警備隊、諸君!

 ヨウコさま付きの秘書官のナナです!

 緊急事態につき、ピリカさまに代わって私がこの場の指揮を取ります!

 従ってください!

 いえ、従え!」


 知らない人だ。


 だが、ヨウコさま付きの秘書官と言っている。


 嘘なら重罪だ。


 だから信用する。


 信用するしかない。


「全員、戦闘を即座に中断して五歩下がれ!

 子供たちは深追いしてこない、安心して下がれ!」


 俺は五歩下がった。


 確かに子供たちは深追いしてこない。


「よし、隊列を組み直せ!

 まだだ!

 突出するな!

 タイミングは私が指示す……」


 俺は左右をみて、隊列を組み直す。


 見知った顔がいるのは頼もしい。


 そうだ、何を焦っていた。


 落ち着け。


 落ち着けば勝てる。


 さあ、突撃はまだか。


 ……


 …………


 突撃の合図が出ない?


 どうしたと思ったら、秘書官に矢が集中していた。


 そして煙の出る筒がこちらに向けて放り投げられた。


 煙幕?


 子供たち、容赦ないなっ!



 煙幕の中、俺はまた個人の戦いを強いられた。


 さっきより状況が悪い。


 自分の位置も怪しい。


 仲間の声に従ったつもりが、いつの間にか子供たちの声に従っていたりもした。


 そして気づけば煙幕が晴れ、俺は孤立していた。


 俺だけが前に出ている。


 ぞっとした。


 そして子供たちから投げられるロープ。


 俺を捕まえる気か?


 なぜ、どうして?


 子供たちの投げたロープは俺……ではなく、俺を助けに来てくれた隊員を絡めとった。


 同じ第十六分隊の同僚だ。


 あっという間に同僚は子供たちの中に引きずり込まれた。


 か、返せ!


 俺の仲間を返せぇぇぇ!




 俺が見た光景は、一人の小さな少女がロープで絡めとられた俺の同僚に告白する場面。


 ……


 こうして五村少年団からの挑戦は終わった。


 警備隊の敗北だ。


 もっと鍛えなければいけない。


 子供たちから、俺の武器を返してもらった。



 あ、先輩。


 今日は負けちゃいましたね。


 悔しいです。


 このあと、説教と訓練ですよね。


 わかっています。


 え?


 あいつ?


 仲間じゃないです。


 俺の仲間はこの筋肉だけです。


 泣いてませんよ。


 ええ、泣いてません。


 泣くのは恋人と遊んでいるやつなんですから。




 俺の名はオクス。


 趣味は訓練。


 恋人、募集中。








第一     教導分隊 100人(人手不足のところに応援に行く分隊)

第二     門番分隊 500人(東門、西門、南門、北門、待機の5つに別れ、門番)

第三     村周辺遊撃分隊 100人(村の周辺の魔物、魔獣退治を専門に行う)

第四~第十七 警備分隊 50人(10人の班が5つ。五村内の警備担当)

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― 新着の感想 ―
同僚さんを皆で『鍛えて』差し上げないとね(# ゜Д゜)
[一言] ターゲットお前じゃないんかい!!www
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