王の服
朝。
今日、五村に行くつもりだったが明日になった。
五村が俺を受け入れる準備をするための時間を作るためだ。
ルィンシァは五村のことなど気にせずに移動しなさいと言っていたが、俺は気にするので移動しない。
移動しないという俺の判断。
なので問題なし。
「お心のままに」
ルィンシァの言葉は優しい。
ん?
マルビットが俺を手招きしていたので、近寄ってみた。
どうした?
「昨日のルィンシァの件、補足しておこうかなって」
「聞いていたのか?」
「一応ね。
補足ってのは強者には強者の振る舞いがあるってこと。
そして、それは学ぶものなのよ」
「?」
「簡単な例を出すと……服」
「服?」
「商人は商人の服、騎士は騎士の服、王は王の服を着ていないと周りが迷惑でしょ」
「確かに」
ちゃんとした格好をしていないと、誰が誰かわからなくなる。
「でもって、王の服。
ルィンシァの言い分だと、王が着てる服が王の服ってことなんだけど、周囲が求める王の服ってのがあるじゃない」
そうだな。
王の服と言われて想像する服がある。
「王が職人の服を着ていて、商人と取引で揉めた時。
王の顔を知らないほうが悪いってのは商人に気の毒でしょ。
でも、ルィンシァの言い分は商人は王の顔を知っていて当然。
王が職人の服を着るのも知っていて当然。
逆になぜ知らないと怒られる。
正しいのだけど……全員が等しく優秀で勤勉であるわけがないからね」
うむ。
「ここ、大樹の村は……ルィンシァの理想なのよね。
全員が村長に興味を持って、知ろうとしている。
だから、問題らしい問題はおきない。
五村は村長を知ろうとしている人が少なすぎるから問題になったと思うのよ。
村長は望んでいないかもしれないけど、ときには王の服を着て、王であることをアピールしないとトラブルを呼ぶことになるわ」
そうだな。
トラブルは避けたい。
あと、俺は王じゃなくて村長だぞ。
「知ってるけど、村長の服っていうと普通の服になって、ややこしいでしょ。
だから王の服。
で、その王の服ってのは、学ばないとわからないと思うのよ。
王にはこんな服を着ていてほしいっていう周囲の要望だからね。
だから、王は王であるために学ぶ。
忘れちゃ駄目よ」
……なるほど。
普段はだらけているが、マルビットも天使族の長。
言葉に重みがある。
ルィンシァの言葉は優しいが、それに乗せられすぎてもいけないということだろう。
俺は変わらないつもりだが、好き放題にやってていつの間にか横暴になっていたら恥ずかしい。
俺が間違ったことをしている時は、注意してほしい。
……
ルィンシァに注意してくれるように言ってみた。
「注意ですか?」
「ああ、ルィンシァの目から見て、俺が間違えたことをしているなと思った時にして欲しい」
ルィンシァ風に言うなら、領主が間違えた行動をした時、諌めるのも家臣の仕事だ。
ルィンシァ、家臣じゃないけど。
頼めるだろうか?
これからだけじゃない。
これまでで間違えていると思ったところも、指摘してもらえると助かる。
「承知しました。
では、さっそく。
指摘したい点が……十七、いえ十八あります」
「え?」
ズタボロに言われた。
特に、子供たちの謹慎に関して。
子供たちの謹慎は罰として構わないが、大樹の村の面子を守るために戦ったことに対して褒美を与えていないと指摘された。
な、なるほど。
考えておこう。
あと、子供の数が少ないことを責められた。
俺は十分多いと思うけど、ルィンシァからすれば全然足りないそうだ。
その他、色々と考えさせられて精神が削られた。
ちょっと休憩。
精神回復のため、クロの背中をモフモフする。
ああ、ユキもか。
よしよし。
癒される。
ん?
フェニックスの雛のアイギス、お前もか。
いいぞ。
鷲は……モフモフされに来たんじゃないな。
どうした?
その足にあるのは……牙の生えたウサギ?
それを俺の前に……
あ、ウサギの毛を毟ってストレス解消をしろと。
ははは。
ありがとう。
気持ちだけ受け取っておくよ。
で、マルビット。
仲間ができたという目で俺を見ないでほしい。
確かに、以前よりはお前に優しくしてやろうという気持ちにはなっているけどな。
うん、ルィンシァ、厳しいな。
だが、彼女がいるから天使族の里は維持できていると確信できてしまう。
いや、マルビットがいるからバランスが取れているのかな。
わかったわかった。
パンケーキを三段に重ねたやつだな。
作るから……
いつの間にか妖精女王が控えていた。
妖精女王も女王だ。
俺の知らない苦労があるのかもしれない。
妖精女王の分も作るよ。
夜。
今回、俺は五村で普段の言動を改めることにしてみた。
マルビットが言いたかったのは、俺がどう思っていようが五村のトップなのだから、トップらしい格好と言動をするべきだということだと思う。
そして、トップらしい格好と言動は、ルィンシァは俺の自由にして五村の人たちが受け入れるべきだが、マルビットは五村の人たちの期待に応えるべきということ。
俺の思考は、マルビット寄りだ。
とりあえず、一度やってみて、駄目なら駄目でやり直せばいい。
五村の人たちには悪いが、付き合ってもらいたい。
そう心に決めて、ルィンシァ、ヨウコ、文官娘衆に相談してみた。
結論。
俺は喋らないほうがいいらしい。
酷くない?
そう思ったけど、トップの言葉は重いと言われると困る。
軽々しく約束とかしてないつもりだけどな。
とりあえず、文官娘衆に厳選してもらった言葉を二つ、教えてもらった。
褒める時は……
「励め」
叱る時は……
「控えよ」
言う時のポーズまで指示された。
ボディーランゲージも大事なのだそうだ。
とりあえず、この二つだけで乗り切れるそうだ。
本当か?
まあ、ルィンシァやヨウコも頷いているから本当なのだろう。
……
前に文官娘衆に止められたが、五村の者たちに謝りたい時はどう言えばいいんだ?
俺のこの質問に、ルィンシァが悩みに悩んだ結果の言葉がこれ。
「我が子が迷惑をかけた」
俺の感覚では謝ってないが、最上級の謝罪の言葉らしい。
絶対に、別の言葉を付け加えてはいけないと言われた。
下手に付け加えると、文官娘衆が心配した圧力として受け取られる可能性があるそうだ。
意思が正しく伝わらないなら、それは言語としてどうなのだろう?
まあ、はっきり言わないほうが上手くいくのかもしれない。
いや、いくのだろう。
それはかまわないが、どうも言葉をはっきり言わないのは前の世界の社会人時代を思い出す。
「善処します」
「適切に対処します」
「担当者に渡しておきます」
……
ルィンシァの言葉に甘えよう。
俺の自由にしていいのだろう。
ならば、言動を改めるのは今回限り。
五村から戻ってきたら、いつも通りにする。
そう心に決め、明日の出発のために早寝することにした。




