五村で忍ぶ者 ナナ=フォーグマ 完結編
大樹の村の子供たちが帰って三日後。
村長が、五村にやってきました。
子供たちが迷惑をかけた分、五村で働くそうです。
ありがとうございます。
それと、先日の失態を寛大なお心でお許しいただき、まことにありがとうございます。
はい。
密偵であることに拘らず、もっと自由に動くべきでした。
同じ失敗はいたしません。
本日は、私が村長のご案内をいたします。
よろしくお願いします。
さっそくですが、屋敷の会議室に五村の有力者たちが集まっております。
村長に一言、謝罪したいと。
五人ほど代理が来ていますが、体調不良で倒れて動けないだけで反意はありません。
ご安心を。
疫病?
いえ、そうではありません。
少し胃が弱かっただけです。
村長には言えませんが、彼らは村長の来訪予定の知らせを悪いほうに考えてしまったのでしょう。
回復を祈ります。
それで、どうされますか?
ええ、五村の有力者たちの件で……お会いになると。
承知しました。
お着替えは……必要ありませんか。
承知しま……
村長は一人では来ていません。
同行者が二人。
ガルフさまとルィンシァさま。
そのルィンシァさまに止められました。
「村長。
普段着で出迎えるほうが失礼です。
お着替えを」
ルィンシァさまの意見を受け入れ、村長は着替えられます。
……
ガルフさまは護衛だとわかりますが、どうして天使族の補佐長が同行されているのでしょうか?
大樹の村で何度かお会いしたことはありますが……
村長に何かお考えがあるのでしょう。
着替えられた村長は、ヨウコさまを従え、五村の有力者たちにお会いになられました。
寛大なお言葉に、五村の有力者たちは安堵しています。
代理で来ている者などは、涙を流していますね。
仕方がありません。
五村の有力者は、五村にいるから有力者なのです。
五村に受け入れられ、土地を預かったからこその立場。
特に酒の販売、味噌、醤油、マヨネーズの生産を許された者たちは、村長の機嫌を損ねることを恐れています。
子供たちの一件は、本当に五村を揺るがす大事件だったのです。
もちろん、その一件に関わっていない五村の有力者もいます。
小さな子供のいないかたなどは、関わりようがありませんからね。
ですが、だからと言ってこの場にいないわけではありません。
自分たちは関わっていませんとアピールするために来ています。
あわよくば顔を覚えてもらって……と考えているようですが駄目なようですね。
軽く挨拶をされて終わっています。
しかし、今日の村長はなんだか村長らしくありません。
いつもの村長であれば、言葉を重ねることをよしとするのでしょうが、今日は言葉が少ないです。
思い返せば、お会いして私が謝罪した時、村長は私に言いました。
励めと。
いまも。
「我が子が迷惑をかけた」
いつもなら、そのまま謝罪の言葉が続くはずですが、続きません。
……
なんだか王様っぽいっ!
悪いことではありません。
歓迎すべきことです。
有力者たちとの挨拶が一通り終わると、村長はヨウコさま、ルィンシァさま、ガルフさまと村議会場に移動。
有力者たちも同行します。
有力者ですからね、村議会場に入れるだけでなく村議員である者もいます。
村議会場には、大半の村議員が待機しています。
村長が来るとの知らせは、余裕を持って知らせていますからね。
村議会場での村長の態度は、常に村長がヨウコさまの上であることをアピールしています。
そして、ヨウコさまも村長の下であることをアピールしています。
五村の主は村長であって、ヨウコさまは代官に過ぎないと二人で協力して伝えているようです。
周知してはいますが、態度でみせるのは大事です。
確かに、村議員や五村の有力者の中には、ヨウコさまに従えばよいと考える者もいますからね。
村議会場で一番良い席に座る村長と、その横の村長代理席に座るヨウコさまを見れば考えを改め……え?
村長のもとに、小さな子が歩み寄りました。
一瞬、不審者かと思って剣の柄を握りましたが違いました。
あれはヨウコさまの娘、ヒトエさま。
ヒトエさまは村長に抱っこを要求し、村長はそれに応じました。
そして、ヒトエさまを抱えながら、ヨウコさまに微笑みかけます。
……
こ、これは強烈。
公式の場で、親の許可なく他人の子供に触れるのはマナー違反です。
ましてや、抱えることなどできません。
できるのは自分の子だけ。
つまり、村長とヨウコさまが結婚したとの話は聞いていませんが、知らない人からすればそう判断する状況です。
村長とヨウコさまは一心同体であるとこれでもないぐらいにアピールしたのです。
ヒトエさまが歩き出した場所にいるのはルィンシァさま。
まさか、これを狙ってやったのですか?
ヒトエさまを抱える村長を見て、村議会場の一部がざわついています。
ざわついているのは……村長のことをほとんど知らない人たちですね。
何度か調査したことがあります。
あとで村長の情報を流しておきましょう。
ヨウコさまが独身であるので、婿として入り込もうと考えた者たちもいます。
まだ諦めてなかったのでしょうか。
これで諦めてくれることを願います。
ですが一応、チェック。
問題行動を起こさないか調べないといけません。
その後も、村長はヨウコさま、ヒトエさまと一緒に行動。
村長は三日間しか五村にいませんでしたが、これでもかと存在をアピールして帰りました。
お仕えできてよかったです。
大変だったのはその後。
ヨウコさまの屋敷に、結婚祝いの品が大量に届けられました。
大きな部屋が埋まる勢いでした。
こういった品は受け取るだけでなく、誰から何をもらったかを記録しておかなければなりません。
面倒な作業です。
わかっています。
お手伝いします。
お手伝いしますが、ヨウコさま。
「村長と結婚されてないのですよね?
結婚祝いの品を受け取っていいのですか?」
私の疑問に、ヨウコさまは問題ないとお返事。
……
まさか?
「ははははは。
我の旦那は一人、ヒトエの父だけだ。
これらの品はその者との結婚祝いであろう」
な、なるほど。
「まあ、天使族の補佐長からは、形だけでもどうだと勧められたがな」
……
あれ、ヨウコさま?
その続きは?
薦められて、どうお返事したのですか?
笑って誤魔化さないでくださいよ。