表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
460/978

五村で忍ぶ者 ナナ=フォーグマ 後編


 大樹の村の子供たちの行動は素早かったです。


 止める間もなく、五村ごのむらの子供たちの溜まり場を強襲。


 強襲した大樹の村の子供たちにアルフレートさま、ティゼルさまは含まれていませんが、五村の子供たちはすでに相手が誰か察しています。


 さらに、揉めた五村の子供たちは八歳から十二歳ぐらいで構成されています。


 まともな反撃ができません。


 というか、強襲してきた同じぐらいの大樹の村の子供たちがおかしいのです。


 なんにせよ、ここでは暴力は振るわれませんでした。


 威圧と威嚇いかくぐらいでしょうか。


 大樹の村の子供たちの目的は、上下関係をしっかりさせることのようですから、これ以上の混乱は起きないでしょう。


 そう思いました。


 しかし、世の中はそう思い通りには進みません。


 五村の子供たちの別集団が近くにいたのです。


 十二歳から十五歳ぐらいで構成される、成人扱いはされませんが子供扱いもされなくなる年頃の子供たち。


 簡単に言えば、口論した五村の子供たちの兄、姉集団です。


 彼らから見た時、弟、妹が見知らぬ一団に威圧、威嚇されているのです。


 黙っているはずがありません。


 とりあえず場を収めようと動き出しました。


 そして、彼らの中には武器を持っている者がいたのです。


 それが不幸でした。


 一人が剣を抜き、場の真ん中に乱入。


「待て待て待てっ!

 双方静ま……」


 彼はここまでしか喋れませんでした。


 ウルザさまに殴り飛ばされたからです。


 ウルザさまからすれば、ただ剣を持ってやってきた乱入者ですからね。


 排除も当然の行動。


 しかし、彼がめに入ったつもりだったと知っている兄、姉集団にはそうではありません。


 敵対者と判断し、武器を持っている者は武器を構えました。


 そして始まる蹂躙劇。


 あ、蹂躙されているのは兄、姉集団のほうですよ。


 武器を持っていても、大樹の村の子供たちに勝てるわけありませんからね。


 相手の実力を見抜く目があれば避けられた事態なのですが、悲しい事です。


 私は治療魔法を使える者を呼びました。




 全員がダウンして、治療を受けたあと。


 弟や妹たちの事情説明を聞いて兄、姉たちの顔色が青くなりました。


 弟、妹たちと同じ失敗です。


 ウルザさまはここだけの話と、事態の収拾をはかりましたが場所が悪かったです。


 五村の子供たちの溜まり場は五村のある小山の頂上付近にあるゴロウン商会の持つ倉庫の前。


 人通りが多いとは言えませんが、人通りがまったくない場所ではありません。


 はっきり言いましょう。


 人目があるのです。


 すでに警備隊が呼ばれている状態なので、この場だけの話ではすまなくなっています。


 環境のせいでしょうか?


 大樹の村の子供は、他者の視線に無頓着のようです。


 このあたりをもう少し勉強させるといいですよ。


 あ、余談でしたね。


 すみません。




 私がヨウコさまに報告している時、問題を起こした子供たちの兄、姉たちは親に報告しました。


 五村の有力者たちの顔色がさらに悪くなり、本格的な胃痛が発生しているようです。


 そして、苦しみに耐えながらのヨウコさまの前で謝罪をする姿は、あまりにも哀れで涙を誘います。


 ですが、子供の罪は親の罪。


 無関係ではありませんからね。


 頑張ってください。


 そしてヨウコさまも。


 はい、今回の件が拡がらないように動いています。


 口止めは可能です。


 五村の上のほうに住む方々は協力的ですから。


 駆けつけた警備隊も顔見知りですので、大丈夫です。


 ただ、万が一のことを考え、つじつまを合わせた話を用意する必要があるかと。


 例えば、子供たちは新しい遊びを楽しんでいただけ……などです。


 さいわいなことに、揉めた子供たち同士は仲良くなっていますので大丈夫かと。


 はい、そのように手配します。


 ……


 すみません。


 五村の協力者から、新たな報告が来たようです。


 緊急事態のようで…………緊急事態?


 なにがあったのです?



 報告は簡潔でしたが、意味が理解できません。


 なぜ、ウルザさまたちが五村の子供たちを率いて、警備隊と殴り合う事態になっているのですか?


 誤報ではないのですか?


 違う?


 そうですか。


 とても残念です。


 私はヨウコさまに一礼し、現場に向かいました。



 五村の警備隊は人間の国で剣聖と呼ばれたピリカさんとそのお弟子さんを中心とした戦闘集団です。


 荒くれ者の冒険者を相手にしても、難なく鎮圧できる実力が個々にあります。


 弱点は個々に強いだけで、集団での戦い方が全然駄目なこと。


 また、魔物や魔獣との戦いを苦手としていました。


 しかし、それもここ数年の訓練によって改善をみせています。


 あと数年もすれば、魔王国屈指の精鋭部隊になると噂されています。


 その警備隊が、子供の集団を相手に翻弄されています。


 自分の目が信じられません。


 子供たちの陽動に、警備隊が綺麗に引っ掛かっています。


 そんなに突出したら、あっ……横槍で警備隊の隊列が崩されました。


 混戦です。


 集団戦にこだわらず、個々に対処させたほうがいいのではないですか?


 ピリカさんは何をやっているのですか。


 指揮は……別の人ですね。


 ピリカさんは、ウルザさまと一騎打ちですか。


 なるほど、子供たちのリーダーを倒せば収まるとの判断ですね。


 悪くありませんが……それは勝てたらの話。


 ピリカさんの全力攻撃は、ウルザさまに通じていません。


 全部、見切られてます。


 その上で受け止められ、あしらわれる戦いかた。


 ウルザさまは、ピリカさんの心を折りにいってますね。


 あ、ピリカさんが切れた。


 ウルザさまを相手に、なにやら奥義らしき技を繰り出しました。


 凄い剣圧です。


 子供相手に大人気ないというべきでしょうが……


 ウルザさまはその技を軽く避けたあと、同じ技を繰り出しました。


 ……


 ピリカさん、倒れましたね。


 生きてますか?


 あ、生きてる。


 元気だ。


 ウルザさま、手加減したのかな?


 ああ、なるほど。


 子供たちの戦いかたは、警備隊を壊滅させる動きではなく足止め。


 時間稼ぎですね。


 つまり、ウルザさまもピリカさんを倒すのが目的ではなく、勝負を長引かせるためにやっていると。


 ピリカさんの心が心配です。


 ピリカさん、別の技を繰り出して、また真似されて返されてる。


 ……


 これ、ウルザさまに技を教えているだけじゃありませんかね?


 ま、まさかね。


 ……


 駄目だ。


 手に負えない化け物が生まれる気配。


 止めよう。


「警備隊、諸君!

 ヨウコさま付きの秘書官のナナです!

 緊急事態につき、ピリカさまに代わって私がこの場の指揮を取ります!

 従ってください!

 いえ、従え!」


 子供たちの目的が警備隊の足止めならば、対処は簡単。


「全員、戦闘を即座に中断して五歩下がれ!

 子供たちは深追いしてこない、安心して下がれ!

 ……よし、隊列を組み直せ!

 まだだ!

 突出するな!

 タイミングは私が指示す……」


 矢が三本、私の太ももに向かって飛んできました。


 矢の出所は……リリウスさま、リグルさま、ラテさま。


 やじりを潰してあるとはいえ、本気で狙ってきましたね。


 ですがこの程度の矢で私を倒すのは無理です。


 これでも私はそこそこ戦闘もできるのです。


 三本の矢を素手で掴む程度には。


 ……


 連射はずるい。


 無理、無理。


 って、煙幕?


 煙幕の出所は……トラインさま。


 子供たち、容赦ないなっ!




 私は頑張りました。


 頑張ったと思います。


 いやー、まさか五村の子供の一人……娘さんが、警備隊の男性に告白するためだけに、警備隊を足止めしていたとは。


 ははは。


 警備隊の一人が捕獲された時は、何事かと思いましたよ。


 告白された警備隊の男性は……返事を先延ばしにしやがりました。


 周囲の警備隊からブーイングです。


 私もブーイングです。


 あの警備隊の男性がいる隊は、このあとに森に移動して訓練の予定ですので、二十日ほど帰ってきません。


 その間に考えるからと言っています。


 真面目に返事を考えるなら、まあいいでしょう。


 しかし、二十日待てば帰ってくるのですから、わざわざ足止めして今日でなくてもと思うのですが……


 二十日は長いですか。


 そうですか。


 私も歳を取りましたね。



 とりあえず、この場をなんとか収めなければいけません。


 なので私は宣言します。


「本日の特別演習は、これにて終了とします。

 協力してくれた子供たちに感謝を!」


 全員に拍手させます。


 うん、いい具合に終わった感じが出ました。


「警備隊、本日の業務、訓練への出発は明日に延期します。

 今日はこのまま反省会です。

 全員、駆け足で隊舎に」


 子供たちに翻弄されるようでは困ります。


 しっかり反省してもらいましょう。


 あ、ピリカさんを回収するのを忘れずに。


 そこで膝を抱えて座っていますから。





本文中の、秘書官はナナの表向きの仕事です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
なんでナナはさも当然のように教育した方が良いですよ?なんて言えるんだ?完全にナナの監督不行届だろこれ。これではほぼ逆ギレみたいなもんだ。その後の対応も後手後手で悪化の一途。まずナナを処分すべきだと思う…
前話で王子扱いしてるんだから王子扱いを徹底しない不手際でしょ ナナと5の村の親が悪い
元祖の技がコピーを数千年繰り返して劣化した相手に劣る訳無いですよね。 まぁ洗練されて強く成るパターンが正常なのでしょうが、元祖の出自が凄すぎるから。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ