五村でちょっとした揉め事
村の施設に猛吹雪の被害はなく、エルフたちの建設技術を改めて賞賛。
ははは。
照れるな照れるな。
猛吹雪の中、屋敷は本当にビクともしなかったからな。
他にまるっきりビクともしなかったのが大樹と世界樹。
……
綺麗に雪が積もっているが、他の木々に比べると雪の量が少なくないか?
周囲の雪も……
気のせいか?
ほんとうに?
ま、まあ、気にしなくていいか。
ため池にも雪が積もっている。
他の場所と違い、十センチほどだけど。
たぶん、雪の下のため池は凍っているのだろう。
ただ、見た感じ中央部や水の出入りで流れのある場所は雪の積もりが薄い。
下の氷が薄い可能性があるな。
子供たちがいなくてよかった。
池が凍っていると喜んでダッシュしそうだからな。
そんなことを思っていると、クロの子供の一頭がため池の上に飛び出し、走り回っている。
え?
俺が止める声より先に、氷が割れる音と水音が聞こえた。
うわわわわっ!
危なかった。
近くに周辺警戒から戻って来たキアービットがいてくれてよかった。
ため池に落ちたクロの子供の体を拭きながら、無事を確認する。
生きてるな?
よかった。
ははは。
驚いたし、寒かったな。
凍っているからと油断するのは駄目だぞ。
他のクロの子供たちにも伝えてくれ。
頼んだぞ。
ちなみに、クロの子供を助けるために冷たいため池に飛び込むことになったキアービットは、風呂に入っている。
風呂から出たら、改めて礼を言わないとな。
除雪を続ける。
屋根の上の雪はドースに任せ、俺は地面の雪に取り掛かる。
【万能農具】を駆使して、雪を移動させる。
ルーのように、魔法で一気に蒸発させれば楽なのだが……
魔法の才能のない俺は地味にやっていくしかない。
人の通る道を最優先に。
雪捨て場に雪を運んでいく。
もちろん、作業は俺一人でやっているわけじゃない。
手の空いている村人総出だ。
みんなで同じ作業をするのは一体感があっていいな。
まだほとんど除雪は終わっていないが、五村への避難組が帰って来た。
ルー、悪いが雪捨て場の雪を蒸発させてくれるか?
お前ほどの火力でないと、雪が融けたあとの水まで蒸発させられないからな。
わかってる。
子供たちの件だな。
時間を作ろう。
……
あれ?
ハクレンは?
ヒイチロウとグラルも?
帰って来た避難組に、ハクレンとヒイチロウ、グラルがいなかった。
屋敷で事情聴取。
まず、ハクレンとヒイチロウ、グラルは五村からドライムの巣に行っている。
理由は、ドライムの手伝い。
なんでも悪天候により、死の森から出て行こうとする魔物や魔獣がドライムの巣に押し寄せているらしい。
ドライム一人でもなんとかなるが、手が空いているならとハクレンに助けを求めた。
姉として弟に頼られて嬉しかったであろうハクレンは快諾。
万が一を考えると危ないヒイチロウとグラルを連れてドライムの巣に移動した。
ハクレンは五村に移動した子供たちの監督だったので、それをルーが引き継いだ。
これが五村への移動初日の出来事。
この辺りは特に問題はない。
俺もルーやティア、リア、アン、フラウ、セナ、ハクレン、ラスティなど母親たちには自己判断で動いて構わないと言っている。
二日目、朝。
子供たちと一言でまとめても、実は単独行動が許可される年長組と、単独行動が禁止の年少組に分けられている。
ルーは年長組をアルフレート、ティゼル、ウルザ、ナートに任せ、年少組を中心に監督した。
だからと言って、アルフレートたちを自由にしたわけじゃない。
五村の中でも移動していい範囲を決め、その範囲から出ないように言いつけた。
その範囲は、ヨウコ屋敷の中と周囲のみ。
アルフレートたちはその言いつけを守って遊んでいた。
外に出る時は、村ほどじゃないにしても冬なので厚着して。
偉いぞー。
で、ヨウコ屋敷の周囲で遊んでいる時に、五村の子供たちに絡まれたと。
この辺りは、五村の子供たちの親からの聞いた内容をまとめた報告書がヨウコから提出された。
五村の子供たちは、見知らぬ子供がヨウコ屋敷の周囲をうろついていたので注意。
その際、アルフレートが事情を説明したが、その時の一部の発言に五村の子供が怒ったと。
で、どんな発言で怒ったのかと思ったら、次のような発言。
「ヨウコさんも知っているから」
これのどこに怒る要素があるのかと思ったら、シンプルだった。
「ヨウコさんとはなんだ!
ヨウコさまだろうが!」
なるほど。
敬称か。
ま、まあ、わからなくもないが……
この時の五村の子供たちって、年齢はアルフレートたちと同じぐらいだろ?
敬称で怒るって……
そういった教育が普通にされているのか?
ちょっと考えさせられる。
本題に戻って。
この時はアルフレートが会話で収めた。
問題なのが、アルフレートが謝罪したこと。
ウルザ、ティゼル、ナートが静かに切れたらしい。
これは現場にいたトラインの証言。
一旦、五村の子供たちと別れたあと。
ティゼルはアルフレートを隔離。
ウルザ、ナートは五村の子供たちのところに突撃した。
「大樹の村が舐められたままでいいの?」
ウルザの檄により、リリウス、リグル、ラテ、トラインも参加。
昼過ぎぐらいには、五村の子供たち二百人ぐらいが配下になったと。
あ、うん、配下じゃなくて仲良しグループと呼称して欲しい。
俺の精神の安定の為に。
でもって、そのあと……仲良しグループの一人の恋愛を成就させるために、五村の警備隊と激突。
……
なぜ?
仲良しグループの一人、娘さんだそうだ。
その娘さんが、警備隊の一人に恋愛中。
告白するための場を整えるために、警備に出発しようとしていた警備隊の一隊を足止めしたと。
ウルザとピリカがやりあったのは?
ピリカが集団の頭目をウルザと見極めて、捕らえにきたから?
そうか。
で、どっちが勝ったんだ?
まさかウルザか?
そうかウルザか。
……
あれ?
ピリカって元剣聖だよな?
対人では強いんじゃなかったっけ?
相手の動きが手に取るようにわかったと。
凄いな。
あ、褒めちゃ駄目だ。
剣聖の流派って、英雄女王の使っていた剣技を元にした流派?
どうしたんだ、ルー?
別に今その情報は必要ないだろ?
ま、まあ、話を戻してだ。
仲良しグループの一人なんだから、年齢は十歳前後だろ?
十二歳?
そうか。
それで告白って……
え?
普通なの?
早く相手を決めて親に報告しないと、勝手に相手を決めてくるから……
そうなんだ。
で、その告白は上手くいったのか?
駄目だったけど、女の子が押して押して押しまくっている最中。
あと数日もすれば落とせると。
結果はヨウコに送られるように手配したと。
そうか。
とりあえずだ。
子供たち……年長組全員、三日間の謹慎。
各自、食事とトイレと風呂以外で部屋から出ないように。
謹慎の理由はわかるな?
子供たちは顔を見合わせ、相談。
はい、代表者ウルザ。
「喧嘩の時、手加減したから?」
「違う!」
喧嘩に関しては、母親たちが総出で許してやってほしいと言ってきたので許した。
喧嘩の理由が、母親たちには納得できたらしい。
同時に、五村の子供たちも処分はしない。
ただし、各家庭で親が叱っておくように。
俺も子供たちに対し、親として個別で叱っておくので。
その上で謹慎させる理由は、ルーの決めた範囲の外に出て行ったから。
アルフレートはかわいそうだけど、子供たちのまとめ役に指名されていたからな。
連帯責任。
謹慎中は勉強するように。
あと、ルー。
君も監督責任。
十日間、研究禁止。
ははは。
子供たち以上に抵抗するのはやめてくれないかな。
あと、ガルフを呼んでくれ。
ピリカの心のケアを頼みたい。
落ち込んでいるだろうから。
では解散。
手の空いている人は除雪作業に参加するように。
アルフレート 村長とルーの息子。(8歳)
ティゼル 村長とティアの娘。(8歳)
リリウス 村長とリアの息子。(6歳)
リグル 村長とリゼの息子。(6歳)
ラテ 村長とラファの息子。(6歳)
トライン 村長とアンの息子。(6歳)
ヒイチロウ 村長とハクレンの息子。(5歳)
ウルザ 元英雄女王(現在11歳ぐらい)
グラル ギラルの娘。(見た目5歳ぐらい)
ナート ガットの娘。(10歳)
ヨウコ 九尾狐。五村の村長代行。
ピリカ 人間。元剣聖。五村の警備隊隊長。
参考
のび● 9歳~11歳(掲載紙に合わせて変化)
磯●カ●オ 11歳
コ●ン 6歳(小学一年生)
しん●すけ 5歳