ニーズの訪問とガルフの成長
ヨウコが珍しく客を連れてきた。
ニーズですと丁寧に挨拶してくれた。
腰の低い人だ。
なんでも世界樹の前で奉納舞を行いたいらしい。
宗教的な儀式ではあるけど、世界樹の成長を喜びたいだけと必死にお願いしてくるので許可した。
ヨウコが万が一の時は責任を持つとまで言ったしな。
ヨウコの友人なのだろうか?
違う?
ただの知人?
そうなのか?
「うむ。
友人などとは恐れ多くてとてもな」
恐れ多いって……
見た感じは銀髪の美人さんだけど……厚着した普通の村娘にしかみえないけど?
「擬態だ。
例えるなら、妖精女王に近い存在になる」
なるほど。
「認めたくはないが、あやつは優秀な神の代弁者だ。
蛇の神専門だがな。
神に認められるために厳しい修行に耐えるその姿には……感服するの一言だ」
ヨウコがそこまで言うのは珍しいな。
「我は戦闘が楽しくて、そちらに力を入れてしまったからな。
神事に関しては、あやつの足元にも及ばん。
まあ、戦闘ではあやつは我の足元にも及ばんがな」
ヨウコは勉強になるからと暇な者に声をかけ、奉納舞を見学するように促がした。
俺も見学する。
場所は当然、世界樹の前なので外。
寒い。
わざわざ、こんな時期にとも思わないでもないが……
木が成長したのって、俺が【万能農具】で土を作ったり植えたりしたからかな?
本来なら、普通に春とか夏に育つとか。
となれば迷惑をかけたのは俺か。
申し訳ない。
奉納舞の衣装なのか、巫女っぽい服に着替えたニーズの踊りは、確かに見事だった。
何気ない所作に風格がある。
そして、神聖な空気を感じる。
始祖さんが真面目にやっているときと同じだ。
しかし、なぜ視線が下なのだろう?
あの踊りならもっと視線は上でも構わないと思うのだが?
あ、こら。
猫が奉納舞をしているニーズに近付き、驚かせてしまった。
申し訳ない。
良い踊りを見せてもらった。
ヨウコの話では、こういった儀式をしてもらったら謝礼としてお金を払うものらしい。
向こうから押しかけてきて、終わったらこちらからお金を出すのってどうなのかなと思うが、お金を払ってもいいと思える踊りだった。
世界樹もなんだかよろこんでいるみたいだしな。
ヨウコがお金の入った袋を用意してくれていたが、俺からもお金を出して入れておく。
こちらをお納めください。
いえいえ、ご遠慮なさらずに。
こら、ヨウコ。
生活が苦しいのだろうとか生々しいことを言わない。
宿を用意しますので、本日はお泊りください。
夕食も……え?
すぐに帰る?
そう言わずに……
残念です。
では、お土産を。
遠慮なさらずに。
冬場での長滞在は迷惑だからと、早々に帰ってしまった。
ふーむ。
立派なかただ。
ヨウコが恐れ多いというのも理解できる。
寒いからだろうが、あの厚着はどうかと思うが。
さて。
寒いついでだ。
大樹の前に移動してお祈りをする。
ああ、みんなは俺に付き合わなくてもいいぞ。
寒いし。
わかった。
みんなでお祈りしよう。
ニーズが残ってくれたら大樹の前でも奉納舞をしてもらいたかった。
世界樹だけ奉納されるのはどうかと思うしな。
俺にとっては世界樹よりも大樹だ。
……
お祈りだけでなく、踊ったほうがいいのかな?
いや、あの見事な踊りをみたあとで真似をするのは勇気がいる。
大樹の上で寝ているザブトンやザブトンの子供たちを起こしてもいけないしな。
こういったのは気持ち。
社にも挨拶し、撤収。
屋敷で温かい飲み物を用意してもらおう。
数日後。
「ニーズは五村に滞在することになった」
「そうなのか?」
「我としては、世俗にまみれずに邁進して欲しいと思うのだがな。
いずれ、神へと到るだろうに」
「それは応援したい。
滞在費は村から出すように」
「そう思って手配している。
滞在中は、教会で働くそうだ。
セレスからも報告があるだろう」
「わかった。
何かあったらよろしく頼む」
「うむ」
ヨウコに任せれば安心だろう。
どうも俺は凡人らしく、ああいった神聖な存在には気後れしてしまう。
ん?
どうした猫?
相手をして欲しいのか?
お腹を撫でてやろう。
ヨウコも撫でるか?
ははは。
恐れ多いってなんだよ。
屋敷内でガルフとダガが剣術の練習をしていた。
もちろん、木刀でだ。
模擬戦のようだが、ガルフが一勝するまでにダガが五勝ぐらいしている。
……
その様子を見ていてウルザが一言。
「ガルフのおじちゃんの剣は、わかりやすい。
ダガのおじちゃんの剣は、わかりにくい」
どういうことだろうとガルフは考え込んだが、俺は素直にウルザに聞いた。
「攻撃してくるタイミングがわかりやすいの」
本当かな?
意識してガルフとダガの練習をみる。
……
…………
…………………………
全然、わからない。
ガルフの攻撃は変幻自在。
緩急もあるし、パターンがあるのかもしれないが俺にはわからない。
ただ、ウルザの言っていることが嘘ではないのはダガの動きでわかった。
ダガにはガルフの攻撃してくるタイミングがわかっているようだ。
未来でも見ているのかと思うぐらい、先回りしていることが数回あった。
うーむ。
素人には理解できない世界なのかもしれない。
しかし、そうなると理解できるウルザはなんだ?
剣の天才か?
剣の道を歩ませるべきだろうか?
木刀を持って楽しそうに振り回している姿をみて少し考える。
本人が希望するなら、それもいいだろう。
でも、今は自衛のための剣の練習だからな。
そんな風にウルザをみていると、ガルフが吠えた。
「うおおおおおっ!」
みるとガルフがダガに一本、いれていた。
そして、それから連続でガルフが勝利を重ねていく。
休憩の時、ダガがガルフに聞いた。
「気づいたようだな」
「ああ。
わかった。
ズルいぞ。
教えてくれたらいいじゃないか」
「自分で気づかないと直らん」
「まあ、そうかもしれないが……」
「なんにせよ慢心はいかんぞ。
俺の利点が一つ減っただけに過ぎないからな」
「わかってるよ」
「うむ。
精進するように」
二人の会話の意味がわからないので、ウルザに聞いた。
「ガルフのおじちゃん、攻撃する時に尻尾が少し上がるの。
正面からじゃわかりにくいけど、脇腹あたりの毛の動きをみれば攻撃してくるタイミングがわかっちゃう」
……
やはり、剣の天才なのかもしれない。
あ、ウルザ。
俺は無理だから。
ガルフかダガに相手してもらいなさい。
「俺は無理だ。
ガルフ、相手を頼む」
「用事か?」
「クセの件がバレたって、リアさん、アンさんに報告してくる」
「……え?
ダガ以外にも知っている人がいたのか?」
「村の住人の大半は知っているぞ。
ああ、誰も触れ回っちゃいない。
自力で気づいているからな」
「……た、たまらんなぁ」
そう言いながらも、楽しそうなガルフだった。
ガルフとウルザの戦いは……身長差でガルフが勝利していた。
「あ、危なかった」
「お父さん、もっと長い剣が欲しい」
ははは。




