収穫祭の続き
2018/06/29 王の名を変更。
「魔王よ。
聞くのだ」
「だ、誰だ?」
「お前のショーを見て、その受けの悪さを嘆いた者だ」
「別に受けが悪かったわけじゃないぞ」
「お義理の拍手で満足と?」
「ぐぬぬ……」
「まあ、よい。
これからお前を火で炙る」
「え?
火?」
「安心せよ。
お前は傷付かぬ。
あとは状況に合わせ、上手くやるのだぞ」
「え?
火?
ひぃぃぃぃぃぃぃっ!
熱いっ、熱いっ、熱……くない?
あれ?
ここは……みんなの視線が私に。
そうか、ここか。
わかったぞ、謎の声よ!」
カレーを食べながら魔王はそう証言した。
「心配させたことは謝るが、私にも何がなんだかわからないのだ」
「きっちり、ポージングを決めてイリュージョンと叫んだのに?」
「その時は、そうするのが最善だと思ったのだ。
ところで私のカレー、いつもより辛くない?
汗と涙が止まらないんだけど」
「心配させた分、辛くしている」
これぐらいはさせてもらう。
あと、始祖さん。
魔王が神の声を聞いたかもしれないからって、睨まないように。
幻聴かもしれないんだから。
ただ、あの火はなんだったのか?
本当に受けなかった魔王の応援なのだろうか?
……
わからん。
俺の作った焚き火台で、火は普通に燃えている。
とりあえず、火に向かって言っておこう。
「周りを心配させるようなことはしないように」
ん?
火に言ったんだ。
猫に言ったんじゃないぞ。
お前は反省しなくていいんだ。
ははは。
かわいいなぁ。
魔王のイリュージョンで少し遅れているけど、スケジュールは順調に進んでいる。
「さきほどの魔王さまにはビックリさせられました」
ビーゼルはそう言いながらも、フラシアと一緒にフラウたち文官娘衆の演目を楽しんでいる。
ランダンは楽隊と打ち合わせ。
……
もう少し、魔王のことを心配してあげてもいいんじゃないかな?
魔王の傍で心配したと怒ったようにウロウロしている子猫たちのほうが、魔王を心配しているようにみえてしまう。
いや、普段と変わらないのは、魔王を信頼しているということか。
あの程度で魔王は倒れないと。
そう考えると、慌てた自分が恥ずかしい。
もう少し、冷静にならねば。
……
いや、無理だな。
知り合いが火に包まれたら、驚く。
冷静でいられる自信がない。
だから、驚くような事態にならないように努力したい。
……
魔王のカレー皿に辛さ追加。
舞台では、フラウと文官娘衆による大喜利っぽいものが展開されている。
フラウが司会だ。
笑いが起きているが、時々、俺には理解できない内容もある。
「つまり、赤い桶を持ったその男が、カーセン王ということで」
観客は大爆笑。
カーセン王って誰だ?
なぜそれがオチになる?
俺以外、一村住人やリザードマンたち、マイケルさんも笑っているから一般常識なのだろう。
笑っていないのは……子供たちのようだ。
疎外感。
こちらの世界での生活も長くなったが、もう少し一般常識を知らないといけないなぁと少し反省。
フラウと文官娘衆による大喜利っぽいものが終わり、クロの子供たちによる集団行動が始まった。
きっちりと統制の取れた動き。
尻尾まで揃っている。
凄いぞ。
あ、一頭緊張して足の動きが……もつれて転倒した。
大丈夫か?
よかった。
じゃあ、なにごともなかったように、列に戻るんだ。
そうだ。
いいぞ。
頑張れ。
終わったあと、転倒した一頭が凄く落ち込んでいたので励ます。
よしよし。
もちろん、最後まできっちりやりきった者たちを褒めることも忘れない。
舞台の上では、ザブトンによるファッションショーが行われていた。
モデルはリザードマン、ドワーフ、獣人族の女の子、巨人族、ラミア族と各種の体形を用意し、同じコンセプトの服を着せている。
「次のテーマは森の戦士。
森の中を縦横無尽に動いて戦う戦士をイメージしました」
ファッションショーの司会をしているのは、聖女セレス。
進行役は獣人族のセナ。
ザブトンと司会にタイミングを指示している。
ん?
ザブトンが観客から一人を呼び出した。
マイケルさんだ。
急遽モデルにするようだ。
服を用意して……ないな。
うん、その場で作るのか。
ザブトンの子供たちも協力し、あっという間に出来上がる。
マイケルさんも慣れたもので、舞台の真ん中できっちりポーズを決めてアピール。
盛り上がった。
舞台以外でも頑張ったのが、会場の周囲に設置されたテント。
鬼人族メイドたちによる新作料理を出すテントでは、手に入れたばかりのウナギを使った料理が人気だった。
俺にはまだ味が尖っていると感じられてイマイチなのだけど、特にリザードマンたちが喜んでいた。
妖精女王の甘味テントは、妖精女王が甘味を提供してくれるのかと思ったけど違った。
妖精女王と甘味を食べながら、甘味の説明を聞くテントだった。
「砂糖を使えば良いというものではない」
妖精女王は大人モードで、真面目な顔で語っていた。
天使族のマルビットによる、経済講座テントなんてのもあった。
思いっきり真面目な内容にしたら、誰も来なくて楽ができると思っていたようだが、いざ誰も来ないとなると寂しくて本気になったようだ。
マイケルさんの息子のマーロンの従兄弟のティト、ランディが必死に木板にメモを取っていた。
ガルフの腕試しテントなんてのもあった。
マイケルさんの護衛のミルフォードが、入り浸っていたらしい。
そう言えば、マーロンはどこに行ったのかな?
楽しんでくれてたらいいけど。
……
ああ、ここにいたか。
酒スライムのテント。
テントの中にはテーブルと酒があるだけ。
酒スライムとドワーフたちに囲まれながら、マーロンは思いっきり酒を飲んでいた。
飲みすぎは駄目だぞ。
ちゃんと料理も……
「ご注文の炙りウナギと、ウナギの醤油焼きです」
鬼人族メイドが料理を持ってきた。
そして、すぐに食べ尽くされて消える。
「あはは……追加、持ってきます」
すまない。
なんだかんだで収穫祭は夜に突入。
夜通しの宴会になるのだが、子供たちは撤収。
文句を言わない。
いつもの時間より起きているからフラフラしているだろ。
アルフレート、ウルザ。
子供たちを引率して屋敷に。
大人たちは宴会に夢中だからな。
今日は屋敷でまとめて寝かせる。
ハクレン、子供たちの見張りを頼む。
俺も適当なタイミングで引き上げるから。
ヒイチロウ、ラナノーンはライメイレン、グラッファルーンが先に屋敷に連れて行ったから大丈夫だ。
ん?
鷲?
フェニックスの雛のアイギスを足で掴んで飛んでいる。
ああ、アイギスが寝てしまったから屋敷に運んでくれるのね。
世話をかける。
しかし、鷲って夜でも飛べるんだな。
おっと、感心している場合じゃなかった。
グランマリア、そろそろ撤収。
妊娠中なんだから、無茶はしないように。
料理がいるなら、あとで俺が持っていくから。
ああ、わかった。
一緒に屋敷に戻ろう。
収穫祭の夜は過ぎていった。




