番外 ルーの研究
2018/06/26 自転、公転関係の説明をちょっと修正。
ご飯時、ルーが唸っていた。
転移門の研究が上手くいっていないからだ。
ここ数日、眉間にシワが寄っている。
せっかくの栗ご飯を食べながら、そんな顔をされるのは不本意だ。
だが、俺には手助けはできない。
ルーの研究内容が、全然理解できないからだ。
魔力の流れがどうとか、精霊の干渉がどうとか、星の位置がどうとか、俺にはハードルが高過ぎる。
しかし、だからと言って妻が悩んでいるのをそのままにしていいのか?
夫として、やれることがあるのではないか?
俺は食後、ルーに話しかけた。
「ルー。
研究で困っている部分を俺に説明してくれないか?」
「え?
でも……」
「俺が理解できたり、何か解決策を考えられるとは思ってないさ。
ただ、人に説明することで考えをまとめることができるだろ」
俺ができること。
それは聞き役となることだ。
「それでね、この二つの数値が太陽を基準にしているみたいなんだけど、設置した場所によって増減が違うの。
その理由がわからないのよ」
「どう違うんだ?」
「えーっと、わかりやすく言うと。
一つ目の場所だと、基準が十で、一つずつ増えていくの。
で、二つ目の場所だと、基準が十一で、二つずつ増えていくの」
「ほうほう」
「三つ目の場所だと、基準が十一で三つずつ増えて……四つ目の場所だと、基準が十で二つずつ増えていく。
そんな感じでわけのわからないのが二つもあるのよ。
ああ、実際に数字はもっと多いし細かいわよ。
一つとか二つはわかりやすく説明するためだから」
「ありがとう。
設置場所によって変化する太陽を基準にして二つの数値か……要素として考えるなら普通は自転と公転だよな」
「……え?」
「いや、自転と公転」
「なにそれ?」
「え?」
……あっ。
ここはファンタジー世界。
太陽が動いて、大地が平らな可能性もあった。
なにせ夜空には月が二つあるしな。
「すまない忘れてくれ」
「駄目。
詳しく」
ルーの目が少し怖かった。
俺はルーに自転と公転を教えた。
自転は地球が回る動き。
公転は地球が太陽の周囲を回る動き。
それをとても簡単に教えた。
太陽に対しての傾きのある自転、太陽を中心に少しずれた楕円形の公転軌道だからこそ、季節の変化があると。
「そんな馬鹿なって言いたいけど、今まで説明できなかった色々なことが説明できてしまう」
よかった。
前の世界と同じ地動説が通用した。
つまり、大地は球形。
しかし……
「大地が球形なのは知られていないのか?」
「そう言われていた時代もあるけど、誰も証明できなかったから……
今は、大地はゆるやかな半球形というのが定説よ」
……
大空を飛びまわるドラゴンの代表として、ハクレンに聞いてみた。
「大地は球形に決まってるでしょ」
ルーは膝から崩れた。
「ちなみにそれ、子供たちに教えちゃってるけど?
駄目だった?」
駄目なことはないぞ。
だが、ルーへの追撃になってしまったな。
ルー、大丈夫か?
起き上がれるか?
駄目か。
今日はそのまま寝ると。
わかった。
翌日から、ご飯時にルーは唸らなくなったけど、少し遠い目をするようになった。
「私もハクレンさんの授業に出ようかな」
どう返事すればいいかわからなかったので、俺は黙ってご飯を食べることにした。
すまない。
俺は無力だ。
ルーが本調子になるまで、十日ほど掛かった。
番外エピソードです。
購入特典のSSみたいな物とお考えください。